はじめに
開発者の生産性を向上させるツールとして注目を集めるGitHub Copilotが、新たな段階に入りました。OpenAIの最新モデルであるGPT-5が統合され、さらに外部ツールとの連携を可能にするGitHub MCP(Model Context Protocol)サーバーという新機能が発表されました。これにより、開発者はエディタから離れることなく、より高度で複雑なタスクを自然言語で実行できるようになります。
本稿では、GitHub公式ブログの「GPT-5 in GitHub Copilot: How I built a game in 60 seconds」という記事をもとに、これらの新機能が開発ワークフローにどのような変化をもたらすのかを、具体的な事例を交えながら詳しく解説します。
参考記事
- タイトル: GPT-5 in GitHub Copilot: How I built a game in 60 seconds
- 発行元: GitHub Blog
- 発行日: 2025年8月14日
- URL: https://github.blog/ai-and-ml/generative-ai/gpt-5-in-github-copilot-how-i-built-a-game-in-60-seconds/
要点
- GitHub CopilotにOpenAIの最新AIモデルであるGPT-5が統合されたこと。
- GPT-5は、従来モデルよりも高い推論能力と高速な応答性能を持ち、VS Codeの主要なモード(ask, edit, agent)で利用可能であること。
- 自然言語で要件を伝えるだけで、わずか60秒でゲームを開発する「スペック駆動開発」という手法が示されたこと。
- 新技術「GitHub MCPサーバー」により、自然言語を使ってGitHubリポジトリの作成やIssueの起票といった操作を、エディタ内で直接実行可能になったこと。
- これらの技術は、開発者がコーディングとプロジェクト管理をシームレスに行う、新しいワークフローを実現するものであること。
詳細解説
GitHub Copilotに統合されたGPT-5の実力
今回発表された最も大きなニュースは、GitHub CopilotでOpenAIの最新モデルであるGPT-5が利用可能になったことです。GPT-5は、その高い推論能力によって、より複雑な文脈を理解し、精度の高いコードを生成することが期待されています。発表によれば、その応答速度は非常に速く、思考を妨げないスムーズな開発体験が可能になるとのことです。
GitHub CopilotでGPT-5を利用するには、エディタのCopilotインターフェースにあるモデルピッカーから「GPT-5 (Preview)」を選択するだけです。特別な設定は必要ありません。
事例紹介:60秒でゲームを開発する「スペック駆動開発」
GPT-5の能力を試すために、わずか60秒で「Magic Tiles」というゲームを開発するデモンストレーションが行われました。この開発で採用されたのが、著者が「スペック駆動開発(spec-driven development)」と呼ぶ手法です。これは、いきなりコードを書き始めるのではなく、最初にAIに製品の要求仕様書(スペック)を作成させるというアプローチです。
具体的な手順は以下の通りです。
- AIにゲームの仕様を定義させる
まず、Copilotに対して次のようなプロンプトを入力し、ゲームの最小限の機能(MVP: Minimum Viable Product)を定義させます。
“Do you know the game Magic Tiles? If you do, can you describe the game in simple MVP terms? No auth, just core functionality.”
(日本語訳:「Magic Tilesというゲームを知っていますか?もし知っているなら、認証機能なしで、中核機能だけに絞ったMVPの観点からゲームを説明してください。」)
GPT-5はこれに応じ、ゲームのコア機能、データ構造、実装すべきタスクのチェックリストなど、詳細な仕様書を出力しました。 - 仕様書を元に実装を指示する
次に、生成された仕様書をコンテキストとして与え、Copilotにたった一言、こう指示します。
“Build this.”
(日本語訳:「これをビルドして。」)
驚くべきことに、GPT-5はフレームワークや技術スタックの指定がないにもかかわらず、HTML、CSS、JavaScriptというWeb標準技術を選択し、スコアリングやゲームオーバー機能まで備えた動作するプロトタイプを1分未満で完成させたのです。 - 自然言語で反復的に改善する
完成したゲームに操作説明が不足していることに気づいた著者は、続けて「ゲーム開始前に遊び方の説明を追加して」と自然言語で指示します。GPT-5は即座にHTMLを更新し、要求通りの機能を追加しました。
この事例は、GPT-5が単にコードを補完するだけでなく、プロジェクトの要件定義から実装、改善までを一貫してサポートできる強力なパートナーであることを示しています。
開発の自動化を促進するGitHub MCPサーバー
今回の発表でGPT-5と並んで重要なのが、GitHub MCP(Model Context Protocol)サーバーです。これは、AIアシスタント(LLM)と外部のツールやアプリケーションを接続するための標準的な仕組み(プロトコル)です。
これまでのAIアシスタントは、主にエディタ内の情報しか扱えませんでした。しかし、MCPを利用することで、AIはGitHubのリポジトリ、Issue、さらにはGmailやFigmaといった外部サービスと対話し、操作することが可能になります。つまり、AIが単なるコード生成ツールから、開発エコシステム全体を操作する自動化エージェントへと進化するのです。
GitHub MCPサーバーのセットアップ方法
セットアップは非常に簡単です。プロジェクトのルートディレクトリに.vscode/mcp.jsonという設定ファイルを作成し、以下の内容を記述します。
{
"servers": {
"github": {
"command": "npx",
"args": ["-y", "@github/mcp-server-github"]
}
}
}
この設定ファイルを追加してMCPサーバーを起動すると、GitHubの認証フローが実行されます。認証が完了すれば、CopilotからGitHubの各種ツールが利用できるようになります。
具体的な自動化ワークフローの事例
MCPサーバーを利用した具体的な自動化の例が2つ紹介されています。
- 自然言語によるリポジトリ作成
開発中に新しいプロジェクトのアイデアが浮かんだ際、ブラウザを開いてGitHubのサイトでリポジトリを作成するのは少し手間がかかります。MCPサーバーを使えば、エディタからCopilotに話しかけるだけで済みます。
“Can you create a repository for this project called teenyhost?”
(日本語訳:「このプロジェクトのためにteenyhostという名前のリポジトリを作成してくれませんか?」)
Copilotはリポジトリ名や公開設定などを確認した後、自動でリポジトリを作成し、ローカルのコードをプッシュしてくれます。 - 自然言語によるIssueの一括作成
プロジェクトの改善点をブレインストーミングした後、それを一つずつGitHubのIssueとして登録する作業は面倒です。MCPサーバーを使えば、この作業も自動化できます。
まず、Copilotに「このアプリで実装できる追加機能や改善点は?」と尋ね、アイデアのリストを生成させます。そして、そのリストの中から特定のカテゴリの改善点を指して、次のように指示します。
“Can you create issues for all the low effort improvements in this repo?”
(日本語訳:「このリポジトリに、労力の少ない改善点のすべてについてIssueを作成してくれませんか?」)
すると、Copilotは適切なタイトルと詳細な説明を持つ複数のIssueを自動で作成してくれます。これにより、アイデアを即座に実行可能なタスクへと変換できるのです。
まとめ
GitHub CopilotへのGPT-5の統合とGitHub MCPサーバーの登場は、開発のあり方を大きく変える可能性を秘めています。GPT-5の高い推論能力は、より質の高いコード生成と対話による反復的な開発を可能にしました。一方、MCPサーバーは、AIアシスタントの活動範囲をエディタの外へと広げ、GitHub操作やプロジェクト管理といった周辺タスクの自動化を実現します。
これらの技術によって、開発者はコーディングとプロジェクト管理の間にある境界線を意識することなく、思考の流れを維持したまま作業を進められるようになります。手動でのUI操作が中心だったワークフローから、AIとの対話を通じて意図を伝えるだけでタスクが完了する「意図駆動」のワークフローへの移行が始まっています。ぜひ、これらの新しいツールを試し、未来の開発スタイルを体験してみてください。