はじめに
近年のAI技術の進化は、ソフトウェア開発の現場にも大きな変化をもたらしています。その中でも特に注目されているのが、GitHub Copilotのエージェント機能です。これは、単にコードを補完するだけでなく、開発者の指示に基づいて自律的にタスクを計画し、実行する能力を持っています。まるで、AI開発者がチームの一員に加わったかのような体験を提供します。
しかし、この強力な機能を最大限に活用するには、いくつかの重要なポイントを理解しておく必要があります。本稿では、GitHub Blogで公開された記事「From chaos to clarity: Using GitHub Copilot agents to improve developer workflows」を基に、Copilotエージェントを効果的に利用して、既存のプロジェクトの品質を自動的に向上させる具体的な手法を解説します。
参考記事
- タイトル: From chaos to clarity: Using GitHub Copilot agents to improve developer workflows
- 著者: Chris Reddington
- 発行元: GitHub Blog
- 発行日: 2025年7月15日
- URL: https://github.blog/ai-and-ml/github-copilot/from-chaos-to-clarity-using-github-copilot-agents-to-improve-developer-workflows/

要点
- GitHub Copilotエージェントは、明確な指示を与えることで自律的にタスクを実行する機能である。
- 成功の鍵は、copilot-instructions.md(カスタム指示)とcopilot-setup-steps.yaml(環境設定)という2つの設定ファイルにある。
- エージェントは、技術的負債の特定からコード修正、テスト作成、プルリクエストの作成までを自動で行うことができる。
- ブラウザ操作ツールPlaywrightとの連携により、UI(ユーザーインターフェース)の変更や視覚的なテストも可能である。
詳細解説
GitHub Copilotエージェントとは?
従来のGitHub Copilotは、コードを書いている途中で次に来るべきコードを提案してくれる「AIペアプログラマー」でした。これに対し、Copilotエージェントは、より高度な役割を担います。
具体的には、GitHubのIssue(課題管理チケット)にタスクを記述してエージェントに割り当てるだけで、エージェントがそのタスクを達成するための一連の作業を自律的に行います。これには以下のステップが含まれます。
- リポジトリの分析: コードベース全体を理解し、問題の根本原因を探ります。
- 実行計画の策定: 修正に必要な手順を計画します。
- コードの実装: 計画に沿ってコードを修正・追加します。
- テストの実行: 変更が正しく機能するかを確認します。
- プルリクエストの作成: 人間がレビューできるように、変更内容をまとめて報告します。
つまり、単なる作業者ではなく、問題解決能力を持つ開発チームの一員として機能するのです。
エージェントを成功に導く2つの鍵
Copilotエージェントに精度の高い作業をしてもらうためには、人間が良い指示を出す必要があります。そのための重要な設定ファイルが2つあります。
鍵①:copilot-instructions.md (カスタム指示ファイル)
これは、エージェントに対する「プロジェクトの取扱説明書」のようなものです。このファイルにプロジェクトに関する詳細な情報を記述することで、エージェントは文脈を深く理解し、より的確な作業を行うことができます。
以下の内容を記述することでエージェントの作業品質を向上させます。
- リポジトリの概要: このプロジェクトが何をするためのものか。
- コントリビューションガイドライン: ビルド、テスト、フォーマットなどの手順や、コミット前に行うべきこと。
- プロジェクトの構造: どのディレクトリにどんなファイルがあるか。
- 重要な技術方針: 例えば「TypeScriptの厳格モードに従う」「すべての機能にテストを書く」といったルール。
このような明確な指示を与えることで、エージェントはプロジェクトの文化やルールに沿った、質の高いコードを生成できるようになります。
鍵②:.github/copilot-setup-steps.yaml (環境設定ファイル)
人間が新しいプロジェクトに参加する際に開発環境をセットアップするのと同じように、エージェントにも作業を行うための環境が必要です。このファイルは、その環境構築の手順を定義します。
例えば、TypeScriptで書かれているプロジェクトの場合、以下のような手順を定義します。
- リポジトリのソースコードをチェックアウトする。
- 指定されたバージョンのNode.jsをセットアップする。
- npm install を実行して、必要なライブラリ(依存関係)をインストールする。
これにより、エージェントはコードをビルドしたり、テストを実行したりするために必要なツールが揃った状態で作業を開始できます。
実践的な活用フロー:わずか11分でプロジェクトを改善
参考記事では、これらの設定を行った上で、実際に放置されていた個人のGitHub Actionsプロジェクトを改善するプロセスが紹介されています。
- 技術的負債の特定: まず、Copilot Chatに「このプロジェクトに存在する技術的負債は何ですか?」と質問します。すると、Copilotはコードを分析し、「パッケージのメタデータが不整合」「READMEの記述が古い」「入力値の検証が不足している」といった問題点をリストアップしてくれました。
- Issueの作成とタスク割り当て: Copilotが提案した上位3つの問題点を修正するためのIssueを作成し、そのIssueをCopilotに割り当てます。
- エージェントによる自律的な作業: 割り当てられると、エージェントは自動的に作業を開始。コードを修正し、不足していた入力検証ロジックとそれに対応するテストを4つ追加し、プルリクエストを作成しました。この一連の作業は、わずか11分強で完了したとのことです。
- 人間によるレビューと反復改善: 作成されたプルリクエストを人間がレビューします。元記事の例では、CI(継続的インテグレーション)のチェックで、指示書には書かれていなかったMarkdownのリンティングエラーが発生しました。そこで、プルリクエストに「このリンティングエラーを修正してください」とコメントするだけで、Copilotエージェントが再度コードを修正し、無事にすべてのチェックをパスさせました。
このように、AIと人間がプルリクエスト上で対話しながら、協調して作業を進めることができます。
応用例:UIのインタラクティブな改善
Copilotエージェントの能力は、バックエンドのコード修正に留まりません。Playwrightというブラウザ自動化ツールと連携し、WebアプリケーションのUIを改善することもできます。
Playwrightがデフォルトで利用可能になったことで、エージェントは以下のような高度なタスクも実行できます。
- Webページ上で特定の場所をクリックして、新しい点を配置するロジックを実装する。
- 点をドラッグ&ドロップで移動できるようにする機能を実装する。
- 実装した機能が正しく動作することをスクリーンショット付きでプルリクエストに報告する。
これは、エージェントが単にコードを書くだけでなく、その結果を視覚的に検証し、報告する能力を持っていることを示しています。
まとめ
本稿では、GitHub Copilotエージェントを活用して、開発ワークフローを効率化し、プロジェクトの品質を向上させるための具体的な手法を解説しました。
Copilotエージェントは、私たちの作業を肩代わりしてくれる強力なツールですが、その能力を最大限に引き出すためには、明確なコンテキスト(背景情報)と意図を伝えることが不可欠です。そのための具体的な手段が、copilot-instructions.mdによる指示の明確化と、copilot-setup-steps.yamlによる作業環境の整備です。
この新しいAIとの協業スタイルは、開発者がより創造的で本質的な作業に集中することを可能にします。もし、あなたがまだCopilotエージェントを試したことがないのであれば、まずは個人の小さなプロジェクトの改善から始めてみてはいかがでしょうか。