はじめに
本稿では、GitHubの公式ブログで発表された「GitHub Copilot coding agent 101: Getting started with agentic workflows on GitHub」という記事を元に、GitHub Copilotに新たに導入された「コーディングエージェント」について、その機能や仕組み、従来ツールとの違いを解説します。
参考記事
- タイトル: GitHub Copilot coding agent 101: Getting started with agentic workflows on GitHub
- 発行元: The GitHub Blog
- 発行日: 2025年9月11日
- URL: https://github.blog/ai-and-ml/github-copilot/github-copilot-coding-agent-101-getting-started-with-agentic-workflows-on-github/
要点
- GitHub Copilotに、自律的にタスクを遂行する「コーディングエージェント」が導入された。
- このエージェントは、GitHub Issueの割り当てなどを通じてタスクを受け取り、コードの作成、テスト、プルリクエストの提出までを自動で行う。
- GitHub Actions上で動作し、セキュリティが考慮されたサンドボックス環境で実行されるため、安全性が確保されている。
- 従来IDE内で同期的に支援するAIアシスタントとは異なり、GitHub上で非同期に動作し、開発ワークフロー全体を自動化するものである。
詳細解説
GitHub Copilot コーディングエージェントとは?
GitHub Copilotのコーディングエージェントは、単なるコード補完ツールではありません。開発者からタスクを委任され、バックグラウンドで自律的に作業を進めるソフトウェアエンジニアリング(SWE)エージェントです。あたかもチームに新しい開発者が一人加わったかのように振る舞います。
開発者は、以下のような定型的、あるいは中程度の複雑さを持つタスクをエージェントに任せることで、より創造的で重要な作業に集中できます。
- バグの修正
- 小規模な機能の実装
- コードのリファクタリング
- テストカバレッジの向上
- ドキュメントの更新
- シークレットスキャンの高速化
- 技術的負債への対応
エージェントはタスクを与えられると、関連するIssueやプルリクエストの議論、カスタム指示など、リポジトリのコンテキストを読み込んで作業計画を立て、コードを書き、テストを実行します。
タスクの委任方法と動作フロー
コーディングエージェントへのタスクの委任は、既存の開発フローにシームレスに統合されています。主な方法は以下の通りです。
- GitHub Issues: GitHubのウェブサイトやモバイルアプリで、IssueをCopilot(@github-copilotなど)に割り当てる。
- Visual Studio Code: 「GitHub Pull Requests and Issues」拡張機能を通じてタスクを委任する。
- Agentsパネル: GitHub上のどのページからでもアクセスできる専用パネルから新しいタスクを依頼する。
タスクが開始されると、以下の流れで作業が進行します。
- ドラフトプルリクエストの作成: エージェントはまず、作業の進捗を記録するためのドラフトプルリクエストを作成します。このプルリクエストには [WIP] (Work In Progress) のようなタグが付けられます。
- 作業の実行とコミット: エージェントはコードの変更、テストの実行、修正を行いながら、作業内容を逐次コミットしていきます。開発者はこのプルリクエストを見ることで、リアルタイムに進捗を追跡できます。
- レビュー依頼: 作業が完了すると、エージェントはプルリクエストのタイトルと説明を分かりやすく更新し、開発者にレビューを依頼します。
- フィードバックと修正: 開発者は、プルリクエスト上でコードレビューを行い、修正が必要な箇所があれば @copilot をメンションしてコメントを残します。エージェントはそのフィードバックを元に、コードを修正します。
セキュリティはどのように確保されているか
自律的にコードを操作するAIの導入には、セキュリティへの配慮が不可欠です。コーディングエージェントは、以下の機能によって安全性を確保しています。
- サンドボックス環境: エージェントは、GitHub Actionsを基盤とした、安全で一時的な開発環境(サンドボックス)で動作します。この環境はインターネットアクセスが制限され、リポジトリへの権限も限定されています。
- ブランチ制限: エージェントは、自身が作成したブランチ(例: copilot/*)にしかコードをプッシュできません。これにより、mainブランチなどが意図せず変更されるのを防ぎます。
- 人間によるレビューが必須: エージェントは自身のプルリクエストを承認したり、マージしたりすることはできません。必ず人間の開発者によるレビューと承認が必要です。
- CI/CDの制御: CI/CDワークフローは、開発者がプルリクエストを承認するまで実行されません。
- 追跡可能性: 全てのコミットはエージェントと開発者の共同オーサーとして記録され、誰が何を変更したかを常に追跡できます。
従来のアシスタントや “Agent Mode” との違い
Copilotには複数の動作モードがあり、混乱しやすいかもしれません。ここで「従来のAIアシスタント」「Agent Mode」「コーディングエージェント」の違いを整理します。
特徴 | 従来のAIアシスタント | Agent Mode | コーディングエージェント |
動作形態 | 同期的(リアルタイム) | 同期的(リアルタイム) | 非同期(バックグラウンド) |
主な場所 | IDE(VS Codeなど) | IDE(VS Codeなど) | GitHub上(Actions) |
役割 | ペアプログラマー(コード補完) | ペアプログラマー(反復的な修正・テスト) | 自律的な開発担当者 |
ユースケース | コードを書きながら支援を得る | IDE内で対話しながらタスクを完了 | Issueを丸ごと委任し、自動でPRを作成 |
簡単に言えば、従来のアシスタントやAgent Modeが「IDE内で一緒に作業するペアプログラマー」であるのに対し、コーディングエージェントは「GitHub上で独立してタスクをこなしてくれるチームメイト」という位置づけになります。
能力を拡張するMCP (Model Context Protocol)
コーディングエージェントの能力は、MCP (Model Context Protocol) というオープンスタンダードと組み合わせることでさらに拡張できます。MCPは、アプリケーションが大規模言語モデル(LLM)に対して、より豊かなコンテキスト(文脈)を共有するための仕組みです。
これにより、例えばスクリーンショットやモックアップ画像を含むIssueをエージェントに割り当て、それを元にUIを実装させる、といった高度な使い方が可能になります。
まとめ
GitHub Copilotのコーディングエージェントは、開発ワークフローにおけるAIの役割を、単なる「支援者」から「自律的な実行者」へと引き上げるものです。バグ修正や機能追加といったタスクをAIに委任することで、開発者は反復作業から解放され、より複雑で創造的な問題解決に集中できるようになります。
セキュリティも考慮された設計になっており、開発者は常に最終的なコントロールを維持できます。この新しい開発スタイルは、今後のソフトウェア開発の生産性を大きく変える可能性を秘めています。