[ニュース解説]「プロンプトエンジニアはもう古い?」AI求人市場の今と未来

目次

はじめに

 本稿では、AI(人工知能)が私たちの仕事に与える影響について、ABC Newsが報じた「AI could create these new jobs despite gloomy forecasts, experts say」という記事を基に、詳しく解説していきます。

引用元記事

要点

  • AIによる雇用への影響は、仕事を奪うという悲観的な予測だけでなく、多くの新しい雇用機会を生み出すという楽観的な見方も存在する。
  • 歴史的に見れば、技術革新は破壊する以上の雇用を創出してきたが、人間の認知能力を代替しうるAIは、これまでとは異なる未知の挑戦である。
  • 求人市場では、AIツールの管理や品質チェック、AIの性能を向上させるAIトレーナーといった新しい職種が既に増加傾向にある。
  • 一方で、AIへの指示を専門としていた「プロンプトエンジニア」のような職種は、AI自体の性能向上に伴い需要が減少し始めている。
  • 専門家は、未来にどのような仕事が生まれるかを正確に予測することは困難であるため、現時点でのAIの動向だけで性急なキャリア判断を下すべきではないと警鐘を鳴らしている。

詳細解説

AIによる雇用の未来:二極化する予測

 AIが雇用に与える影響については、専門家の間でも意見が大きく分かれています。

 悲観的な見方として、AIモデル「Claude」を開発したAnthropic社のダリオ・アモデイCEOは、「5年以内に米国のエントリーレベル(若手向け)の仕事が半減する可能性がある」と指摘しています。これは、定型的な業務や情報収集といった作業がAIに代替されるという予測に基づいています。

 一方で、楽観的な見方も存在します。世界経済フォーラムが世界の大企業を対象に行った調査では、AIは2030年までに雇用創出の最大の推進力になると予測されました。具体的には、今後5年間で9200万の仕事が失われるものの、それをはるかに上回る1億7000万の仕事が新たに生まれるとしています。

歴史は繰り返すのか? AIという「特別な技術」

 過去を振り返れば、蒸気機関やコンピューターといった技術革新は、一時的に一部の仕事を奪いながらも、最終的には社会全体でより多くの新しい雇用を生み出してきました。

 しかし、ペンシルベニア大学のイーサン・モリック教授は、「今回も同じとは限らない」と指摘します。なぜなら、AIは単なる作業の自動化ツールではなく、人間の思考や創造性といった認知能力の一部を代替できる点で、これまでの技術とは根本的に異なるからです。AIがどのような形で社会に定着し、どのような仕事を生み出すのか、その全体像はまだ誰にも分かっていません。

すでに現れている「新しい仕事」の兆候

 未来の予測は困難ですが、求人市場ではすでにAIに関連する新しい仕事が生まれ始めています。求人情報サイトGlassdoorのデータによると、AI関連の求人割合は2023年から2024年にかけて倍以上に増加し、その後も成長を続けています。

 特に注目されているのが、AIトレーナーという役割です。これは、特定の言語や文化、あるいは法律や医療といった専門知識を活かしてAIの回答を評価・修正し、その性能を向上させる仕事です。AIがより高度で専門的なタスクをこなすために、人間の専門家による「教育」が不可欠となっているのです。

 その一方で、需要が減少しつつある職種もあります。一時期注目されたプロンプトエンジニア(AIから質の高い回答を引き出すための指示文を作成する専門家)の求人は減少傾向にあります。これは、AI自体の対話能力が向上し、専門的な技術がなくとも誰でも自然な言葉でAIと高度なやり取りができるようになってきたためと考えられます。

専門家からのアドバイス「未来の仕事は予測できない」

 マサチューセッツ工科大学(MIT)のデイビッド・オーター教授は、「私たちは、既存の仕事がどう変わるかを予測するのは得意だが、これから生まれる全く新しい仕事を予測するのは苦手だ」と語ります。

 将来、AIが生み出すコンテンツの品質や真偽をチェックする「AI監査人」のような仕事が生まれるかもしれません。あるいは、AIがさらに進化し、そうした監査さえも自動化してしまう可能性もあります。

 このように未来が不確実であるからこそ、モリック教授は次のようにアドバイスしています。

「今、最悪なのは、今日のAIの状況だけを見て複雑なキャリアの決断を下してしまうことです。私たちには、まだ分からないことが多すぎるのですから。」

まとめ

 本稿では、ABC Newsの記事を基に、AIが雇用に与える影響について解説しました。AIは一部の仕事を代替する脅威であると同時に、私たちの能力を拡張し、これまで存在しなかった新しい価値や職業を生み出す大きな機会でもあります。

 未来は不確実であり、変化のスピードはますます速くなっています。特定のスキルに固執するのではなく、AIという新しいツールを積極的に学び、使いこなそうとする姿勢こそが、これからの時代を生き抜く上で最も重要なスキルと言えるのかもしれません。

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