[ニュース解説]「会社はどんどん小さくなる」英国通信最大手BTのCEOが語るAI時代の雇用の未来

目次

はじめに

 本稿では、英国の通信最大手であるBTグループが、AI(人工知能)の活用によって大規模な人員削減をさらに加速させる可能性について報じた、ロイターの「BT boss Kirkby expects AI to deepen job cuts, FT reports」という記事をもとに、その背景と意味するところを詳しく解説します。

引用元記事

要点

  • 英国の通信大手BTグループは、AIの活用により、既に計画中の最大55,000人の人員削減をさらに拡大する可能性を示唆した。
  • 同社のアリソン・カービーCEOは、現行のコスト削減計画は「AIの潜在能力を完全には反映していない」と述べ、2030年末には企業規模がさらに縮小する可能性に言及した。
  • インフラ部門「Openreach」の価値が株価に反映されなければ、将来的にスピンオフ(分離・独立)する選択肢も検討するとしている。
  • この動きは、通信業界におけるAI導入による業務効率化と、それに伴う雇用構造の大きな変化を象徴するものである。

詳細解説

BTが計画する大規模人員削減の現状

 まず、今回のニュースの背景にあるBTグループの現状から見ていきましょう。BTグループは、日本でいえばNTTのような存在で、英国の通信インフラを支える巨大企業です。同社は2023年に、2030年までに最大55,000人の従業員(契約社員を含む)を削減するという大規模なリストラ計画を既に発表していました。これは、当時の全従業員の約4割に相当する、非常に大きな規模の計画です。

 この計画の主な目的は、デジタル化とネットワークの高度化(光ファイバーへの移行など)を進める中で、業務効率を抜本的に見直し、30億ポンド(日本円で約6,000億円※1ポンド=200円で計算)にのぼるコストを削減することにあります。

AIがもたらす「さらなる削減」の衝撃

 今回注目されるのは、2024年に新たにCEOに就任したアリソン・カービー氏が、フィナンシャル・タイムズ紙のインタビューで語った内容です。彼女は、前述の55,000人という削減計画ですら「AIのポテンシャルを完全には織り込んでいない」と述べました。そして、「AIから何を学ぶかによっては、2030年末までにBTがさらに小規模な組織になる可能性がある」と、さらなる人員削減の可能性を示唆したのです。

 では、なぜAIがこれほどまでに人員削減に直結するのでしょうか。通信業界におけるAIの活用例を具体的に見ることで、その理由が明らかになります。

  • カスタマーサービス: 顧客からの問い合わせに24時間365日対応するAIチャットボットや音声アシスタントの導入により、コールセンターの人員を大幅に削減できます。
  • ネットワーク運用・保守: AIは広大な通信ネットワークの状態を常に監視し、障害が発生する予兆を検知したり、トラフィックの混雑を予測して自動で最適化したりすることが可能です。これにより、従来多くの技術者が行っていた監視・保守業務が効率化されます。
  • バックオフィス業務: 経理、人事、総務といった管理部門の定型的な業務も、AIによる自動化が進みやすい領域です。

 つまり、カービーCEOの発言は、これらのAI技術の進化と導入が想定以上のスピードで進むことで、人間の仕事がさらにAIに置き換えられていく未来を予見していると言えます。

注目されるインフラ部門「Openreach」のスピンオフ

 カービーCEOは、もう一つ重要な点に言及しています。それは、BTグループのネットワークインフラ事業を担う子会社「Openreach」の将来的なスピンオフ(分離・独立)の可能性です。

 Openreachは、英国中の電話線や光ファイバー網の敷設・保守を行う、まさに英国の通信インフラの根幹を担う事業です。BT以外の通信事業者もこのOpenreachの回線網を借りてサービスを提供しており、その公共性は非常に高いと言えます。

 CEOは「Openreachの価値が(BTグループの)株価に正しく反映されていない」と感じており、もしこの状況が続くのであれば「選択肢を検討せざるを得ない」と語りました。これは、Openreachを独立した会社として切り離すことで、その事業価値を市場に正しく評価させ、企業価値全体の向上を図るという経営戦略です。インフラ事業とサービス事業を分離することは、それぞれの事業の専門性を高め、経営の効率化を促進する狙いもあります。

まとめ

 本稿で解説した英国BTグループのニュースは、単なる一企業のリストラ計画ではありません。これは、AIという破壊的な技術革新が、伝統的な大企業のビジネスモデル、そして私たちの雇用そのものを、いかに根底から変えようとしているかを浮き彫りにする象徴的な事例です。

 カスタマーサービスから高度な技術を要するネットワーク運用まで、あらゆる業務がAIによって代替される可能性が示唆されています。BTグループが直面している課題は、通信業界に限った話ではなく、今後、金融、製造、小売など、あらゆる産業で起こりうることです。

 この変化の波に対して、私たちはどのように向き合い、自らのスキルやキャリアを適応させていくべきなのか。BTの事例は、日本で働く私たち一人ひとりにとっても、避けては通れない未来の課題を突きつけていると言えるでしょう。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次