はじめに
本稿では、英The Guardianが報じた「‘Workforce crisis’: key takeaways for graduates battling AI in the jobs market」という記事を基に、急速に進化するAI(人工知能)が新卒者の就職市場にどのような影響を与えているのか、そして未来の働き方に備えて私たちは何をすべきかについて、解説していきます。
引用元記事
- タイトル: ‘Workforce crisis’: key takeaways for graduates battling AI in the jobs market
- 著者: Dan Milmo, Lauren Almeida
- 発行元: The Guardian
- 発行日: 2025年7月13日
- URL: https://www.theguardian.com/technology/2025/jul/13/workforce-crisis-key-takeaways-graduates-ai-jobs-market
要点
- 現在の新卒採用市場の厳しさは、AIだけでなく経済全体の状況も複合的に影響している。
- しかし、データ入力などの定型業務を中心に、AIが新卒者の仕事を代替していることは紛れもない事実である。
- AIによる仕事の変革はまだ始まったばかりであり、今後さらに加速していくと予測される。
- これからの学生には、AIを使いこなすリテラシーが不可欠であり、企業側もそれを求めるようになっている。
- 就職活動においてAIで応募書類を作成することは一般的になりつつあるが、その内容や使い方には注意が必要である。
- AIの導入に課題を抱える中小企業が、AIスキルを持つ新卒者にとって新たな活躍の場となる可能性がある。
詳細解説
採用危機の背景:AIだけが原因ではない
英国では、新卒者向けの求人が過去2年半で3分の1も減少し、2018年以来最も厳しい就職市場に直面しています。多くの人がこの原因をAIによる仕事の代替だと考えがちですが、記事に登場する専門家たちは、経済全体の停滞や企業の需要変動といった複合的な要因が大きく影響していると指摘しています。
日本でも同様に、景気の動向は新卒採用数に直結します。つまり、現在の就職の難しさを単純に「AIに仕事が奪われた」と結論づけるのは早計であり、より広い視野で経済全体の動きを理解することが重要です。
しかし、AIの影響は確実に広がっている
経済状況が大きな要因である一方、AIの影響も無視できません。特に、これまで若手社員が担ってきたデータ入力や書類作成といった定型的な業務(記事内では「drudge work(退屈な骨折り仕事)」と表現)が、AIによって急速に自動化されています。
採用コンサルタントは、こうしたエントリーレベルの求人が30%減少した背景には、間違いなくAIの存在があると語っています。これは、企業が「即戦力」として、より経験豊富な人材を求める傾向を強めていることの表れでもあります。
AI革命はさらに加速する:AIエージェントの登場
マイクロソフトのような巨大IT企業は、「AIエージェント」と呼ばれる、人間のように自律的に認知タスクをこなすシステムの開発に力を入れています。これは、単なるアシスタントではなく、より高度な業務をこなすパートナーとして期待されています。
あるAI開発企業のCEOは、「今後5年で、エントリーレベルのオフィスワークの半分が消滅する可能性がある」と警告しており、この変化の波は今後ますます速くなると考えられます。「今年はAIの年だ」という専門家の言葉通り、私たちは今、AIが社会に根付き始める歴史的な転換点にいるのかもしれません。
今すぐ学ぶべきAIスキル:もはや「必須科目」に
こうした状況を受けて、企業が学生に求めるスキルも変化しています。記事によると、法律事務所などでは、採用面接の段階で「ChatGPTなどのAIをどの程度理解し、活用しているか」を問い始めています。AIを使ったことがない学生は、採用で不利になる可能性すらあるのです。
重要なのは、AIに仕事を奪われることを恐れるのではなく、AIを使いこなす側になることです。AIの倫理的な問題を考える「AI倫理」や、AIから最適な答えを引き出す技術である「プロンプトエンジニアリング」など、これまで存在しなかった新しい職種も生まれています。大学教育もこの変化に対応する必要があり、文系・理系を問わず、全ての学生が基本的なAIリテラシーを身につけるべき時代になっています。
AI就活の光と影:賢い付き合い方とは?
AIは、自己PRやカバーレターの作成など、就職活動における強力なツールにもなります。実際、英国では半数近くの学生が応募書類の作成にAIを利用しているというデータもあります。
しかし、これには注意が必要です。AIが生成した文章は、個性がなく見破られやすい場合があります。採用担当者の中には、「かつては誤字脱字がある履歴書は注意力散漫の証拠として不採用にした。しかし今、誤字のある履歴書を見ると『お、これは人間が書いた本物だ』と思う」という皮肉な見方をする人もいます。AIはあくまで下書きやアイデア出しの補助として使い、最後は自分の言葉で、自分の経験と思いを込めて仕上げることが、これまで以上に重要になります。
新たなフロンティア:中小企業に眠るチャンス
最後に、記事は意外な視点を提供しています。それは、中小企業(SMEs)にこそ、新卒者のチャンスが眠っているという指摘です。
英国では、全労働者の60%が中小企業で働いています。これは日本でも同様です。これらの企業の多くは、大企業に比べてAIの導入に遅れをとっていたり、どう活用すればよいか分からなかったりするケースが少なくありません。だからこそ、AIスキルを持った若い人材が、その知識を活かしてビジネスに変革をもたらす大きな機会があるのです。
有名な大企業ばかりに目を向けるのではなく、AIという新しい武器を手に、地域の中小企業で自分の価値を発揮するというキャリアパスは、これからの時代において非常に有望な選択肢の一つと言えるでしょう。
まとめ
本稿では、The Guardianの記事を基に、AIが新卒者の就職市場に与える影響について解説しました。AIによる変化は、一部の仕事を奪う一方で、新しい仕事や、これまで光が当たらなかった領域での新たなチャンスを生み出しています。
重要なのは、この変化を脅威としてだけ捉えるのではなく、自らをアップデートする機会と捉えることです。具体的には、以下の3点が重要になります。
- AIリテラシーの習得: AIを恐れるのではなく、積極的に学び、使いこなすスキルを身につける。
- 人間ならではの価値の追求: AIにはできない創造性、コミュニケーション、批判的思考力を磨く。
- 視野を広げる: 大企業だけでなく、自身のスキルが活きる中小企業など、新たな可能性に目を向ける。
AI時代の幕開けは、全ての若者にとって挑戦であると同時に、大きなチャンスでもあります。