はじめに
The Guardianが2026年7月4日、AI生成文章と人間の文章の見分けにくさをテーマにした特集記事を公開しました。本稿では、この記事をもとに、言語学者や作家への取材から見えてきた「AIらしい文章」の特徴と、AI検出ツールの限界、そして文学における人間らしさの意味について解説します。
参考記事
- タイトル: How AI is changing language
- 著者: David Shariatmadari
- 発行元: The Guardian
- 発行日: 2026年7月4日
- URL: https://www.theguardian.com/books/ng-interactive/2026/jul/04/future-of-fiction-next-great-novel-ai-language-chat-gpt
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要点
- 人間がAI生成文章を見分ける正答率は約60%程度にとどまり、専門家でも判断が難しいことが、ランカスター大学の実験「Bot or Not」で示されている
- AI検出ツール「Pangram」は誤検出率の低さを謳っているが、文体を操作すれば回避可能であり、神経多様性のある書き手の文章を誤って検出する懸念もある
- LLMは「delve」「boast」などの特定語彙や、名詞偏重・属性形容詞の多用といった構文的な癖を持つことが研究で示されている
- 言語学者や作家は、AIが文の構造レベルでは巧みでも、物語の展開や独創性といった高次のレベルでは人間に及ばないと指摘している
- 作家の間でもAIへの向き合い方は分かれており、完全に距離を置く立場と、ツールとして活用する立場の双方が存在する
詳細解説
「AIらしさ」を見分けられるか
記事ではまず、3つのホテルレビューのうちどれがAI生成かを見分けるテストが紹介されています。ランカスター大学の司法言語学教授クレア・ハーダカー氏によれば、こうした判定の正答率は 約60% 程度にとどまるとのことです。同氏が公開している「Bot or Not」というテストでは、15件のレビューからAI生成のものを見つけ出す形式で判定力を試せます。
多くの人は「決まり文句が多い」「ダッシュ(―)が使われている」「3つの言葉やフレーズを並べる『三の法則』が使われている」といった単純な基準でAI文章を判断しがちだと、ハーダカー氏は指摘しています。ただ、これらの特徴はAIが学習した人間の文章そのものにも見られるものであり、判断基準として万能ではないと考えられます。
検出ツールの限界と誤検出のリスク
文学や報道の世界では、AI使用の疑いをかけられる作家やメディアが増えています。ある小説は出版社が刊行を取りやめる事態になり、別の著者はAIによる誤った引用(ハルシネーション)を含む書籍について謝罪したことが記事内で紹介されています。
こうした状況を背景に、AI検出ツールへの関心が高まっていますが、ハーダカー氏はその実効性に「極めて懐疑的」だと述べています。神経多様性のある書き手の文章が、AI的だと誤検出されるケースもあるといいます。誤検出の問題は、米国の大学でも学生たちを悩ませている実態が報告されています。検出ツール「Pangram」は高い精度を謳っていますが、記事の筆者自身が誇張した文体で入力した際に誤って「AI生成」と判定されており、文体を操作すれば検出を回避できる可能性が示唆されています。
AIらしい言葉づかいの正体
言語学の研究からは、AIが生成する文章に一定の傾向があることも分かってきています。2024年には研究者が、学術論文データベースを調べる中で「delve(深く掘り下げる)」という単語の急増をAIの普及と結びつけました。ほかにも「showcase」「boast」「underscore」といった語が、AIによって好んで使われる傾向にあるとされています。
興味深いのは、この傾向がモデル自体の癖ではなく、人間による評価・調整(RLHF)の過程で生まれた可能性が指摘されている点です。時間に追われる評価者が特定の語彙を「質の高さ」の代理指標として扱った結果、モデル側がその語を多用するようになったという見方です。このほかにも、AIは名詞を好み代名詞を避ける傾向や、「不快な椅子」のように形容詞を名詞の前に置く形(属性形容詞)を好み、「その椅子は不快だった」のような形(述語形容詞)を避ける傾向があることが分かっています。情報を簡潔に詰め込む一方、人間のように自分や他者について語ることが少ないためではないかと考えられます。また、非英語圏の英語表現をAngloAmerican標準に均していく「カルチュラル・ゴースティング」と呼ばれる現象も報告されています。
物語をつくる力の限界
ノッティンガム大学の文学言語学教授ピーター・ストックウェル氏は、AIは単語や構文といった低次のレベルでは巧みだが、物語構造のような高次のレベルになるほど精度が落ちると説明しています。「非常にありふれていて、平凡で、機能的なものが欲しいなら、AIは驚くほど得意」だとしつつも、意外性のある展開を生み出すことは苦手だと述べています。
この背景には、AIが身体や社会的な環境を持たないという指摘があります。人間の創作における革新は、既存の型への苛立ちや、他者とは異なる視点、あるいは時代背景への反発から生まれることが多いとストックウェル氏は説明しています。シュルレアリスムやサイケデリック文化の勃興が戦争の反動から生まれたように、既存の大量の学習データをもとに動作するAIには、こうした「型を破る」動機を持たせることが難しいと考えられます。
作家たちの向き合い方
AIへの向き合い方は作家によって大きく分かれています。小説家のジェニファー・イーガン氏は、自身の作品を含む書籍が無断でAIの学習に使われた経緯(Anthropic社は著作権侵害訴訟で作家らと和解しています)もあり、AIとの接触を完全に断っていると語っています。一方、作家のジャネット・ウィンターソン氏は「人間は道具を使う動物である以上、AIをツールとして使うことに抵抗はない」としつつも、AIには人間が持つ身体性や感情の層を伴う意味生成はできないだろうと述べています。
この対比は、AIをめぐる議論が単純な賛否では語れないことを表していると言えます。文章の見分けにくさが増す中で、書き手それぞれが自分なりの向き合い方を模索している段階にあるのかもしれません。
まとめ
AI生成文章と人間の文章の境界は、専門家でも明確に見分けられないほど曖昧になりつつあります。検出ツールにも限界があり、言葉づかいの特徴も絶対的な判定基準にはなりません。一方で、物語の独創性や身体性に根差した表現には、人間ならではの領域が残されているとも考えられます。作家たちがAIとどう向き合うかについては、過去記事でも作家たちの公開書簡を紹介していますので、あわせてご覧いただければと思います。
