[ニュース解説]もうプログラミング言語習得は不要?ジェンスン・フアン氏が示す「AIとの対話」が最重要プログラミングスキルになる時代

目次

はじめに

 AI技術が私たちの仕事や生活に急速に浸透する中、「プログラミング」というスキルの意味合いも大きく変わろうとしています。かつては専門家のものであったコンピュータへの指示が、誰にでもできる身近な行為へと変貌を遂げているのです。

 本稿では、米CNBCが報じた「Nvidia’s Huang says programming AI is now like training a person」という記事を元に、これからの時代に求められる新しい「プログラミング」の本質をNvidiaのCEOジェンスン・フアン氏の洞察をもとに解説していきます。

引用元記事

要点

  • NvidiaのCEOジェンスン・フアン氏は、AIを誰もが使える「偉大な平等化装置(the great equalizer)」であると表現した。
  • AIの登場により、新しいプログラミング言語はC++やPythonのような専門的なコードではなく、私たちが日常的に使う「人間の言葉」そのものになった。
  • AIに指示を出す方法は、人に仕事を依頼する方法と酷似している。役割を与え、対話し、フィードバックを与えることで、成果物の質を向上させることができる。
  • この変化は「プログラミングの民主化」を意味し、専門家でなくても誰もがコンピュータの持つ強力な能力を引き出せる時代の到来を示唆する。

詳細解説

「新しいプログラミング言語は“人間”」とはどういうことか?

 これまでコンピュータを意のままに操るには、「プログラミング言語」という専門的な言語を習得する必要がありました。C++やPythonといった言語は、厳密な文法と論理構造を持っており、それを学ぶには多くの時間と労力がかかりました。これが、多くの人々にとってコンピュータの能力を最大限に活用する上での大きな壁となっていました。

 しかし、ジェンスン・フアン氏が指摘するように、状況は一変しました。OpenAIのChatGPTやGoogleのGeminiといった対話型AI(生成AI)の登場により、私たちは普段使っている日本語や英語のような「自然言語」でコンピュータに直接指示を出せるようになったのです。

 フアン氏は記事の中で次のように述べています。「歴史的に、コンピューティングは難しく、誰もが利用できるものではありませんでした。(中略)しかし今、突然…新しいプログラミング言語が登場したのです。この新しいプログラミング言語は『人間』と呼ばれています」。

 これは、もはやコンピュータに何かをさせるために、コンピュータが理解できる言語に翻訳する必要がなくなったことを意味します。AIが人間とコンピュータの間の通訳として機能し、私たちの言葉を直接理解してくれるようになったのです。これが、フアン氏がAIを「偉大な平等化装置」と呼ぶ理由であり、技術的なスキルに関係なく、誰もがアイデアを形にできる時代の幕開けを告げています。

AIへの指示は「人をトレーニングする」ように

 では、この新しい「人間の言葉」というプログラミング言語を、私たちはどのように使いこなせばよいのでしょうか。フアン氏が提示する答えは非常に興味深く、示唆に富んでいます。「AIをプログラムする方法は、人をプログラムする(トレーニングする)方法に似ている」のです。

 彼は基調講演の内容について詩を書かせる例を挙げています。

「『あなた(AI)は素晴らしい詩人です…そして、今日の基調講演を表現する詩を書いてほしい』と頼むのです。すると、AIはたいした労力もなく、素晴らしい詩を生成してくれるでしょう」

 さらに重要なのはその後の対話です。

「そしてAIが答えた時…あなたはこう言うことができます。『もっとうまくできる気がする』と。するとAIはそれを考え直し、戻ってきて、『確かに、もっとうまくできます』と言い、より良い仕事をするのです」

 この一連のやり取りは、単なる命令ではありません。

  1. 役割を与える(あなたは詩人だ): AIにどのような立場で思考・応答してほしいかを明確に定義する。
  2. 目的を伝える(基調講演の詩を書いて): 何をしてほしいのかを具体的に指示する。
  3. フィードバックを与える(もっとうまくできる): 出力された結果に対して評価や改善点を伝え、より質の高い結果へと導く。

 これはまさに、私たちが職場の同僚や部下に仕事を教え、より良い成果を出してもらうためのコミュニケーションそのものです。この「AIとの対話の技術」はプロンプトエンジニアリングとも呼ばれ、AIの性能を最大限に引き出すための極めて重要なスキルとなっています。

なぜNvidiaのCEOの発言が重要なのか

 この発言がなぜこれほど注目されるのか。それは、Nvidiaという企業がAIの発展において中心的な役割を担っているからです。AI、特にChatGPTのような大規模なモデルを動かすには、膨大な計算能力を持つ特殊な半導体、GPU(Graphics Processing Unit)が不可欠です。そしてNvidiaは、このAI向けGPU市場で8割以上とも言われる圧倒的なシェアを握っています。

 つまり、AIのインフラを支える企業のトップであるフアン氏の発言は、単なる未来予測ではなく、彼らが推し進めようとしている技術の方向性そのものを示しているのです。彼が「プログラミング言語は人間だ」と言うとき、それはNvidiaがそのような未来を実現するための技術を開発し、提供していくという宣言でもあるのです。

仕事への影響と私たちの心構え

 AIの進化は、「人間の仕事が奪われるのではないか」という不安も生み出します。しかし、フアン氏は一貫して、労働者がAIを積極的に受け入れ、自身の価値を高めるツールとして活用することを推奨しています。

 重要なのは、AIに「取って代わられる」のではなく、AIを「使いこなす側」に回ることです。これからの時代、特定のプログラミング言語を知っていることよりも、解決したい課題を明確にし、それをAIに理解できる言葉で伝え、対話を通じて最適な答えを引き出す能力がより重要になるでしょう。この変化は、あらゆる職種の人々にとって、自らの専門知識とAIを掛け合わせることで、これまでにない価値を生み出す大きなチャンスとなります。

まとめ

 本稿では、NvidiaのCEOジェンスン・フアン氏の「プログラミングAIは今や人をトレーニングするようなものだ」という発言を軸に、AIがもたらすプログラミングの未来像について解説しました。

 専門家だけのものであったコンピュータとの対話は、AIの登場によって全ての人の手に開かれました。新しいプログラミング言語は「人間の言葉」であり、そのスキルは、人に何かを上手に頼み、教え、導く能力と変わりません。

 この大きな変革の波に乗り遅れないために、私たち一人ひとりができることは、まずAIに触れてみることです。そして、単に質問して答えを得るだけでなく、「どうすればもっと良い答えを引き出せるだろうか?」と考えながら、AIとの対話をトレーニングすること。それが、AI時代の新しい「プログラミング」をマスターするための第一歩となるのです。

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