[開発者向け]Anthropic、医療・ライフサイエンス向けClaude機能を大幅拡張──HIPAA準拠と臨床試験支援で実用性が向上

目次

はじめに

 Anthropic社が2026年1月12日、医療・ライフサイエンス分野向けのClaude機能を大幅に拡張したと発表しました。新たに導入された「Claude for Healthcare」はHIPAA準拠の医療用途を可能にし、「Claude for Life Sciences」は臨床試験管理や規制業務のサポートを強化します。本稿では、この発表内容をもとに、医療・ライフサイエンス分野でのClaude活用の可能性について解説します。

参考記事

要点

  • Anthropicは「Claude for Healthcare」を新たに導入し、HIPAA準拠製品を通じて医療提供者、支払者、消費者が医療目的でClaudeを利用できるようにした
  • 「Claude for Life Sciences」には臨床試験管理や規制業務のサポート機能が追加され、科学プラットフォームとの接続が拡張された
  • 最新モデルClaude Opus 4.5は、医療・科学タスクのエージェント性能評価で大幅な向上を示し、医療計算精度や医療エージェントタスク完了率で競合を上回る
  • CMS、ICD-10、NPI Registry、Medidata、ClinicalTrials.govなど多数のコネクターが追加され、業界標準システムとの連携が強化された
  • 個人健康データ統合機能により、ユーザーは自身の健康記録をClaudeと安全に共有し、検査結果の理解や医療相談の準備に活用できる

詳細解説

Claude for Healthcareの導入背景

 2025年10月に発表された「Claude for Life Sciences」に続き、今回の拡張は医療提供者、支払者、消費者がHIPAA準拠製品を通じて医療目的でClaudeを利用できるようにするものです。

 HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act)は、米国における医療情報のプライバシーとセキュリティを保護する連邦法です。医療分野でAIを活用する際、患者の個人情報を扱うためHIPAA準拠が不可欠となります。今回の「Claude for Healthcare」は、この要件を満たす形で提供されることで、医療機関が安心してClaudeを業務に組み込めるようになったと考えられます。

モデル性能の向上

 Anthropicの発表では、最新モデルClaude Opus 4.5が医療・科学タスクのエージェント性能評価で大幅な向上を示したとされています。具体的には、以下のベンチマークで成果が確認されました。

医療分野のベンチマーク:

  • MedCalc(医療計算精度): Pythonコード実行を用いた医療計算で高い精度を達成
  • MedAgentBench(スタンフォード大学による医療エージェントタスク完了率): 複雑な医療タスクの完了能力を評価

ライフサイエンス分野のベンチマーク:

  • SpatialBench(LatchBioによる空間生物学解析): 組織内の細胞配置や相互作用の解析能力を測定

 これらのベンチマークは、実際の医療・科学業務におけるAIの有用性を測る指標として設計されています。Claude Opus 4.5は拡張思考(64kトークン)とネイティブツール使用機能を活用することで、従来モデルと比較して大幅な性能向上を実現したとのことです。

 また、Anthropicは正直性評価スイートでの正解率も向上したと報告しており、これは事実に基づかない情報生成(ハルシネーション)の削減を意味すると考えられます。医療分野では情報の正確性が極めて重要なため、この改善は実用上の大きな意義があると言えます。

医療向けコネクターとAgent Skills

 Claude for Healthcareでは、医療業界の標準的なシステムやデータベースに接続するコネクターが追加されました。

新規コネクター:

  • CMS Coverage Database: メディケア・メディケイド・サービスセンターの適用データベースで、地域および全国の適用決定情報を含む
  • ICD-10: 疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10版で、診断・処置コードの検索に対応
  • NPI Registry: 全国プロバイダー識別子レジストリで、医療提供者の検証やクレデンシャリング管理を支援
  • PubMed: 3,500万件以上の生物医学文献へのアクセスを提供(既存コネクター)

 ICD-10は世界保健機関(WHO)が管理する国際的な疾病分類システムで、医療現場でのコーディングや請求管理に広く使用されています。これらのコネクターにより、臨床医や管理者は必要なデータの検索や報告書作成の時間を大幅に削減できると考えられます。

新規Agent Skills:

  • FHIR開発スキル: Fast Healthcare Interoperability Resources(医療システム間のデータ交換標準)の開発を支援
  • 事前承認レビュースキル: 組織のポリシーに合わせてカスタマイズ可能なテンプレート

 FHIRは現代の医療システム間でデータを交換するための標準規格で、異なるシステム間の相互運用性を向上させる役割を果たします。このスキルにより、開発者はより迅速かつ正確にシステムを接続できるようになると思います。

医療分野での具体的な活用例

 Anthropicの発表によれば、Claudeは以下のような医療業務を支援できるとされています。

事前承認リクエストの迅速化:
 事前承認リクエストは、患者が必要とする治療を受ける前に保険会社の承認を得るプロセスで、通常は数時間を要します。Claudeは、CMS またはカスタムポリシーから適用要件を取得し、患者記録と照らし合わせて臨床基準を確認した上で、支払者のレビュー用に判定案と裏付け資料を作成できます。

 従来、このプロセスでは、適用要件、臨床ガイドライン、患者記録、上訴文書など、複数の断片化された情報源を横断的に扱う必要がありました。Claudeがこれらを統合的に処理することで、患者の治療アクセスが改善される可能性があります。

クレーム上訴の支援:
 却下されたクレームは、すべての関係者に時間とコストをもたらします。Claudeは患者記録、適用ポリシー、臨床ガイドライン、過去の文書から必要な情報を集約し、医療提供者のより強力な上訴を構築し、支払者の処理を迅速化する支援ができます。

ケアコーディネーションとメッセージトリアージ:
 医療チームは大量の患者ポータルメッセージ、紹介、引き継ぎに対応する必要があります。Claudeはこれらを整理し、即座の対応が必要なものを特定し、見落としがないように確保する支援ができます。

医療スタートアップの支援:
 Claude Developer Platformを通じて、スタートアップは臨床文書化のための環境スクライビングや、カルテレビューと臨床決定を支援するツールなど、医療管理の時間負担を軽減する新製品を構築できます。

個人健康データの統合

 米国では、Claude ProおよびMaxプランの加入者が、自身の検査結果や健康記録へのセキュアなアクセスをClaudeに許可することを選択できるようになりました。

利用可能なコネクター:

  • HealthExFunction(ベータ版で本日利用可能)
  • Apple HealthAndroid Health Connect(今週中にiOS/Androidアプリ経由でベータ版展開)

 接続されると、Claudeはユーザーの医療履歴を要約し、検査結果を平易な言葉で説明し、フィットネスと健康指標のパターンを検出し、診察の質問を準備できます。これにより、患者と医師の対話がより生産的になり、ユーザーが自身の健康について十分な情報を得られることを目指しています。

 Anthropicの説明では、これらの統合はプライバシーを重視した設計になっています。ユーザーはClaudeと共有する情報を正確に選択でき、アクセスを有効にするには明示的なオプトインが必要で、いつでも接続を切断したり権限を編集したりできます。また、ユーザーの健康データをモデルのトレーニングに使用しないとされています。

 Claudeは文脈に応じた免責事項を含み、不確実性を認識し、個別のガイダンスについては医療専門家に相談するようユーザーに促すように設計されているとのことです。これは、AIが医療専門家の代替ではなく、あくまで補助的な役割であることを明確にする取り組みと言えます。

Claude for Life Sciencesの拡張

 2025年10月の初回リリースでは、前臨床研究開発(バイオインフォマティクス、仮説とプロトコルの生成など)に焦点を当てていましたが、今回は臨床試験運営と規制段階にまで対象を拡大しています。

新規コネクター:

  • Medidata: ライフサイエンス業界向けの臨床試験ソリューションプロバイダー。試験データ、登録情報、サイトパフォーマンス情報へのアクセスを提供
  • ClinicalTrials.gov: 米国の臨床試験登録データベース。医薬品・医療機器の開発パイプライン、患者募集計画、サイト選定、プロトコル設計の情報を提供
  • ToolUniverse: 600以上の検証済み科学ツールのライブラリで、仮説の迅速なテスト、アプローチの比較、分析の精緻化を支援
  • bioRxiv & medRxiv: ライフサイエンスのプレプリントサーバー。正式な出版前の最新研究へのアクセスを提供
  • Open Targets: 潜在的な治療薬標的の体系的な特定と優先順位付けを支援
  • ChEMBL: 生物活性化合物と医薬品のデータベース。初期発見作業を支援
  • Owkin: Pathology Explorerエージェントが組織画像を分析して細胞を検出し腫瘍をマッピング

 これらは既存のBenchling、10x Genomics、PubMed、BioRender、Synapse.org、Wiley Scholar Gatewayへのコネクターに追加されます。Benchlingコネクターは、Claudeデスクトップアプリに加えて、ウェブ版Claude.aiでもSSO経由のセキュアアクセスで利用可能になりました。

新規Agent Skills:

  • 科学的問題選択
  • Allotropeへの機器データ変換
  • scVI-toolsとNextflowデプロイメント用のバイオインフォマティクススキルバンドル
  • 臨床試験プロトコルドラフト生成のサンプルスキル

 Allotropeは、分析機器からのデータを標準化されたフォーマットで交換するための業界標準です。このスキルにより、異なる機器からのデータを統一的に扱えるようになると考えられます。

ライフサイエンス分野での具体的な活用例

臨床試験プロトコルのドラフト作成:
 Claudeは、FDAとNIHの要件を考慮し、組織の推奨テンプレート、ポリシー、データセットを使用して臨床試験プロトコルのドラフトを作成できます。このドラフトには、エンドポイントの推奨事項が含まれ、規制経路、競合状況、関連するFDAガイドラインが考慮されます。

 臨床試験プロトコルは、試験の目的、設計、方法論、統計的考察、組織を定義する詳細な文書で、通常は作成に多大な時間を要します。Claudeがこのドラフト作成を支援することで、研究者の負担が軽減されると思います。

臨床試験運営:
 Claudeは、Mediataの試験データを使用して、登録やサイトパフォーマンスなどの重要な指標を追跡し、試験のタイムラインに影響を与え始める前に問題を浮上させることができます。

規制申請の準備:
 Claudeは、既存の規制文書のギャップを特定し、規制機関の問い合わせへの回答をドラフトし、FDAガイドラインをナビゲートできます。

 医薬品や医療機器の承認には、膨大な規制文書の準備が必要です。FDAや各国の規制当局との対話においても、迅速かつ正確な対応が求められます。Claudeの支援により、このプロセスが効率化され、より多くの救命薬が市場に早く届く可能性があると考えられます。

パートナーシップと利用可能性

 Anthropicは、医療・ライフサイエンス分野の多くの組織と協力しているとしています。また、Claudeは主要なクラウドサービス3社(AWS、Google Cloud、Microsoft)すべてで利用可能な唯一のフロンティアモデルであると説明されています。

 さらに、専門業務へのAI導入を支援する企業とのパートナーシップも進めており、Accenture、Blank Metal、Caylent、Deloitte、Deepsense.ai、Firemind、KPMG、Provectus、PwC、OWT、Quantium、Slalom、Tribe AI、Turingなどが含まれます。

 新しいコネクターとAgent Skillsは、Claude Pro、Max、Teams、Enterpriseを含むすべてのClaude加入者に一般提供されています。

まとめ

 Anthropicは、医療・ライフサイエンス分野向けのClaude機能を大幅に拡張し、HIPAA準拠の医療用途と臨床試験・規制業務のサポートを強化しました。多数の業界標準システムとの連携、個人健康データの統合、Claude Opus 4.5の性能向上により、医療現場での実用性が大きく向上したと考えられます。今後、医療提供者や研究機関でのClaude活用がどのように進展するのか、注目されます。

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