はじめに
米国の経済誌Barron’sが2025年10月9日、AI業界における複雑な資金の循環構造について報じました。NvidiaがOpenAIに1000億ドルを投資する一方で、OpenAIはNvidiaの顧客でもあるという関係性をはじめ、主要なAI企業間で資金が循環している実態が明らかになっています。本稿では、Morgan Stanleyのアナリストによる分析をもとに、この問題の構造と透明性の必要性について解説します。
参考記事
- タイトル: Nvidia, Microsoft, and OpenAI: This Chart Captures AI’s ‘Circular Financing.’
- 著者: Bill Alpert
- 発行元: Barron’s
- 発行日: 2025年10月9日
- URL: https://www.barrons.com/articles/nvidia-microsoft-openai-circular-financing-ai-bubble-5d9a4e7c
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要点
- NvidiaがOpenAIに1000億ドルを投資する一方、OpenAIはNvidiaの顧客でもあるという循環的な関係が存在する
- Morgan Stanleyのアナリストは、AI企業間の複雑な取引関係について、より詳細な開示が必要だと指摘している
- MicrosoftはOpenAIに130億ドルを投資しており、両社は互いに収益を共有しているが、詳細は開示されていない
- Nvidia、Oracle、CoreWeaveなどの間でも、投資と取引が複雑に絡み合っている
- この構造は20年前のドットコムバブル崩壊前の状況に似ているとの懸念が出ている
詳細解説
AI業界における循環的な資金の流れ
Barron’sの報道によれば、2025年9月にNvidiaがOpenAIへの1000億ドルの投資に合意したことで、AI業界における「循環的な資金の流れ」が注目を集めるようになりました。
この循環構造の核心は、投資元企業と投資先企業が同時に取引関係にあるという点です。NvidiaはOpenAIに巨額の投資を行う一方で、OpenAIはNvidiaの重要な顧客でもあります。つまり、Nvidiaが投資した資金の一部が、OpenAIによるNvidia製品の購入を通じて、Nvidiaに還流する可能性があるということです。
Wall Streetの一部では、この構造が20年前のドットコムバブル崩壊前に見られた、ベンチャーキャピタル支援のスタートアップ間での「wash trade(見せかけの取引)」を想起させると指摘されています。記事では「20ドル貸してくれれば、それでビールを買ってあげるよ」という比喩で、この循環の問題点が表現されています。
Morgan Stanleyによる分析と透明性の要求
Morgan Stanleyのリード会計・評価アナリストであるTodd Castagnoは、10月9日付のレポートで、AI企業のエコシステムにおける循環的な資金の流れを詳細に分析しました。

Castagnoは各社の財務報告書を精査した結果、これらの企業間取引の実態は確かに存在するものの、取引の性質や規模について、より詳細な開示が必要だと結論づけています。報告書では「複雑化する取引構造により、AIに対する真の需要を評価することが困難になっており、AI事業の成功をめぐるリスクが増大している」と指摘されています。
CastagnoがBarron’sに語ったところによれば、「このすべてがどのように機能しているかについての開示が必要」だとのことです。
Microsoft・OpenAI間の不透明な関係
記事では、Microsoft・OpenAI間の取引関係が特に詳しく取り上げられています。
報道によれば、MicrosoftはOpenAIに130億ドルを投資しています。両社は互いの収益を共有しており、それには互いへの販売も含まれます。しかし、Microsoftは共有される割合や、報告される収益数値がOpenAIの数値を差し引いたネットの数値なのかについて、開示していません。
収益が双方向に流れる場合、総売上高の数値はAI需要について誤った印象を与える可能性があるとCastagnoは指摘しています。実際、Microsoftの財務報告におけるOpenAI関連の記載は、損益計算書の脚注表の1行のみです。
Morgan Stanleyの予測では、Microsoftの急増しているAzure AIウェブサービスのバックログを考慮すると、2026年6月期におけるMicrosoftのAzure AI成長のすべてがOpenAIから来るものであり、200億ドルを超えるとされています。
Castagnoは、Microsoftがより明確な情報を提供すれば、実際には投資家がMicrosoft株に与える評価倍率が上昇するだろうと述べています。
これに対してMicrosoftは、OpenAIとの取引を他の企業と同じ方法で会計処理していると回答しています。一方、非公開企業であるOpenAIは公開開示の義務がなく、Barron’sのコメント要請には即座に応じませんでした。
その他のAI企業間の循環構造
記事では、他のAI企業間でも同様の循環的な資金の流れが存在することが指摘されています。
NvidiaとOracleの関係では、NvidiaがOracleにチップを販売する一方、OracleはNvidiaの投資先であるOpenAIにデータセンター容量を提供しています。Oracleはこれらの増大する資金の流れを財務報告で詳細に開示していません。
NvidiaとCoreWeaveの関係も複雑です。NvidiaはAIデータセンター事業者であるCoreWeaveの投資家であり、同時にCoreWeaveにコンピューティング容量のために数十億ドルを支払っています。他方、Morgan Stanleyの推計によれば、CoreWeaveは今年の200億ドル超の設備投資の半分以上をNvidiaのハードウェアに充てる予定です。
Oracleは必要な詳細を開示していると述べました。CoreWeaveはBarron’sの会計に関する質問に答えませんでした。CNBCで水曜日に、Nvidiaの顧客への投資について質問されたNvidia CEOのJensen Huangは、AIソフトウェアとデータセンターは素晴らしい、一世代に一度の投資機会だと述べました。
※見解:透明性の欠如がもたらすリスク
個人的には、この報道が提起している問題は、AI業界の健全な発展にとって重要な論点だと考えます。
確かに、企業間での相互投資や戦略的パートナーシップ自体は、ビジネスの世界では珍しいことではありません。しかし、投資先企業が同時に主要顧客でもあるという関係が複数の企業間で絡み合っている場合、実際の市場需要と投資によって作り出された見かけ上の需要を区別することが困難になります。
AI市場の実態が不透明になることは、結果的に健全な投資判断を阻害する可能性があります。例えば、ある企業のAIサービスの売上が伸びていても、それが実際のエンドユーザーからの需要なのか、投資先企業からの購入なのかが不明確であれば、その技術の実用性を正確に評価できません。
ただ、Morgan Stanleyのアナリストが指摘しているように、これらの取引が実際に行われていること自体は事実のようです。問題は開示の不足であり、取引そのものが不正というわけではないでしょう。
記事の最後で「AIが私たちを豊かにしているなら、どれだけ豊かにしているのかを知りたいものだ」と述べられており、これは投資家だけでなく、AI技術の恩恵を受けるすべての人々にとって重要な問いかけではないでしょうか。
まとめ
Barron’sの報道は、AI業界における複雑な資金循環の実態と、透明性向上の必要性を浮き彫りにしています。Nvidia、Microsoft、OpenAI、Oracle、CoreWeaveなどの主要企業間で、投資関係と取引関係が複雑に絡み合っており、AI需要の実態把握を困難にしています。より詳細な開示が求められる中、この問題がAI業界の健全な発展にどのような影響を与えるのか、今後も注視していく必要があるでしょう。