はじめに
本稿では、AI(人工知能)の進化がホワイトカラーの雇用に与える影響について、米国のニュースメディア「Axios」が2025年9月27日に報じた米国の主要企業CEOたちの具体的な発言を基に解説します。
参考記事
- タイトル: Jobs crisis in plain sight
- 著者: Jim VandeHei
- 発行元: Axios
- 発行日: 2025年9月27日
- URL: https://www.axios.com/2025/09/27/jobs-crisis-ai-anthropic-amodei-vandehei
要点
- Anthropic、Ford、Amazon、Walmartといった米国の主要企業CEOが、AIによるホワイトカラー職の大幅な削減や採用抑制の可能性を公言している。
- 多くのCEOが、AIの導入に伴い採用計画を縮小する意向を示している。
- これは、目に見える形で静かに進行している「雇用危機」であるとAxiosは指摘する。
- 一方で、米国政府はこの問題を喫緊の課題と捉えず、中国との技術開発競争を優先している。
- 過去の技術革新と同様、長期的には新たな雇用が生まれる可能性もあるが、今回は事前に警告があったにもかかわらず、社会的な準備が追いついていない点が大きな問題である。
詳細解説
CEOたちが鳴らす警鐘:具体的な発言内容
本稿の中心となるのは、AI開発の最前線にいる人物や、巨大企業を率いる経営者たちの具体的な発言です。彼らの言葉は、AIが労働市場に与える影響の現実味を伝えています。
- Dario Amodei氏(Anthropic社 CEO)の発言
AI開発企業であるAnthropic社のCEO、Dario Amodei氏は、「AIが米国のエントリーレベルのホワイトカラー職の半分を消滅させ、失業率を急上昇させる可能性がある」と警告しています。Anthropic社は、OpenAIの元メンバーによって設立され、AIの安全性と倫理を重視する企業として知られています。そのような企業のトップからの発言である点は、非常に重要です。 - Ford、Amazon、WalmartのCEOたちの見解
この見解は、AI開発者だけのものではありません。米国の主要な事業会社のトップも同様の認識を示しています。- Ford社 CEO Jim Farley氏は、「AIは米国の全ホワイトカラー労働者の半分を文字通り置き換えるだろう」と述べています。
- Amazon社 CEO Andy Jassy氏は、AI活用による効率化の結果として、「今後数年間で、企業全体の従業員数が減少する見込みだ」と語りました。
- Walmart社 CEO Doug McMillon氏もまた、「AIが文字通りすべての仕事を変えることは明らかだ」と発言しており、影響が特定の職種にとどまらないことを示唆しています。
Axiosの著者が私的に対話した20人のCEOも、全員がAIの登場によって採用意欲を減らしていると回答しており、この認識が産業界全体に広がりつつあることを裏付けています。
政府の認識とのギャップ
これほど多くの経営者が危機感を示す一方で、米国政府の対応は異なっています。ホワイトハウスや議会は、この問題を「進行中の危機」とは捉えていません。
政府関係者は、AI分野における中国との開発競争を国家の存亡に関わる問題と位置づけており、労働市場への短期的な影響よりも、技術的優位性を確保することを優先しています。また、歴史的に見れば新しい技術は、長期的にはより多くの、より質の高い雇用を生み出してきたという楽観的な見方を持っています。そのため、経営者たちが鳴らす警鐘を「悲観論に過ぎない」と捉える傾向があります。
過去の技術革新との決定的な違い
「新しい技術は短期的な痛みを伴うが、長期的には新たな雇用を生む」というパターンは、産業革命以降、繰り返されてきました。では、なぜ今回は特に注意が必要なのでしょうか。
Axiosの記事が指摘する最も重要な点は、「今回は事前に警告があった」という事実です。AIが雇用に与える影響は、多くの専門家や経営者によって、その到来前から具体的に予測されています。これまでの技術革新が、社会に変化が起きた後で対応を迫られていたのとは対照的です。
つまり、私たちには社会的なセーフティネットの構築や、労働者のスキル転換(リスキリング)支援など、来るべき変化に備えるための準備期間が与えられています。この機会を生かせるかどうかが、社会的な混乱を最小限に抑える上で鍵となります。
まとめ
本稿で紹介したAxiosの記事は、AIがもたらす雇用への影響について、米国の経営者たちが極めて具体的な危機感を持っていることを明らかにしました。彼らの発言は、AIによる労働市場の変化が、もはや遠い未来の予測ではなく、現在進行形の課題であることを示しています。
日本においても、同様の変化が起こる可能性は十分に考えられます。企業や個人は、AI時代に求められるスキルセットは何かを考え、変化に対応していく必要があります。また、政府や社会全体としても、この移行期間を乗り越えるための支援策や制度設計について、議論を始めるべき時期に来ていると言えるでしょう。