はじめに
本稿では、人工知能(AI)が私たちの働き方にどのような影響を与え始めているのか、具体的なデータと共に解説します。AI、特に生成AIの進化は目覚ましく、多くの業界でその活用が期待される一方、雇用への影響を懸念する声も高まっています。米国で起きているAIと雇用の最新動向を深掘りし、それが私たちにとって何を意味するのかを考えていきます。


参考記事
- タイトル: AI is leading to thousands of job losses, report finds
- 著者: Megan Cerullo
- 発行元: CBS News
- 発行日: 2025年8月1日
- URL: https://www.cbsnews.com/news/ai-jobs-layoffs-us-2025/
要点
- 米国の再就職支援会社Challenger, Gray & Christmasのレポートによると、AIは2025年における失業の主要因トップ5の一つである。
- 2025年7月の1ヶ月だけで、生成AIの導入が直接的な原因となり1万人以上の雇用が失われた。2023年からの累計では、AI関連の解雇は27,000件以上にのぼる。
- 特にテクノロジー業界での影響が大きく、同業界の解雇者数は前年比で36%増加している。
- 若年層向けの初級レベルの求人が過去1年で15%減少しており、AIが従来の定型業務を代替し始めている可能性が示唆される。
- 求人情報に「AI」というキーワードが含まれるケースは過去2年で400%増加しており、企業が求めるスキルセットが変化している。
詳細解説
前提知識:レポートの背景
本稿で取り上げるデータは、米国の再就職支援(アウトプレースメント)企業であるChallenger, Gray & Christmas社が発表したものです。この会社は毎月、米国企業のレイオフ(一時解雇)に関するレポートを発表しており、その動向は労働市場の状態を測る重要な指標として広く参照されています。つまり、ここで示される数字は、単なる憶測ではなく、企業の公式発表に基づいた信頼性の高いデータであると言えます。
また、記事の中心となっている「生成AI」とは、文章、画像、プログラムコードなどを自動で作り出すことができるAIのことです。代表例としてChatGPTが挙げられます。この技術は、これまで人間にしかできないと考えられていた知的作業や創造的な業務の一部を自動化できるため、業務効率を大きく向上させる一方で、関連する職務の需要を減少させる可能性が指摘されています。
AIによる雇用の置き換えが始まった
参考記事によると、米国ではAIの導入が、もはや無視できないレベルで雇用削減につながっています。2025年7月の1ヶ月間だけで1万人以上がAIを理由に職を失ったという事実は、この流れが仮説や未来予測の段階ではなく、すでに現実のものとなりつつあることを示しています。
特に影響が顕著なのがテクノロジー業界です。この業界はAI技術の開発をリードしているため、その導入や活用も他業界に先駆けて進んでいます。結果として、業務の自動化や効率化が急速に進み、人員削減の動きが加速していると考えられます。
最も影響を受けるのは若者か?
もう一つ注目すべき点は、AIが若年層のキャリア形成に与える影響です。レポートでは、新卒者などが応募するようなエントリーレベル(初級職)の求人が、この1年で15%も減少したと報告されています。
これは、これまで若手社員が担ってきた情報収集、データ入力、資料作成といった定型的な業務が、生成AIによって代替され始めていることを示唆しています。企業側から見れば、AIを使えばより早く、低コストで処理できる業務のために、わざわざ新しい人材を雇用する必要性が薄れているのかもしれません。
同時に、企業が求める人材像も変化しています。求人情報の中で「AI」というスキルを求める記載が過去2年で400%も増加したというデータは、これからの労働者にはAIを使いこなす能力が不可欠になることを物語っています。
雇用市場に影響を与えるAI以外の要因
ただし、現在の米国の雇用市場の動向をすべてAIだけで説明することはできません。記事では、AI以外にも大きな影響を与えている要因が二つ挙げられています。
- 政府の歳出削減策(DOGE):イーロン・マスク氏が主導する連邦政府の支出削減イニシアチブにより、29万人以上の雇用が失われたとされています。これは政府関連機関だけでなく、非営利団体やヘルスケア分野にも影響を及ぼしています。
- 小売業界の不振:関税の引き上げやインフレ、経済の先行き不透明感から、小売業界では8万件以上の解雇が発表されており、これは前年同期比で250%近い増加です。
これらの要因からもわかるように、現在の雇用不安は、AIという技術的要因だけでなく、政治的、経済的な要因が複雑に絡み合って生じていると言えます。
まとめ
本稿では、CBS Newsの記事を基に、米国におけるAIと雇用の関係について解説しました。レポートが示すように、AI、特に生成AIの導入は、もはや未来の脅威ではなく、現実に雇用を削減する要因として顕在化し始めています。特にテクノロジー業界や若年層の働き方に大きな変化をもたらしており、企業が求めるスキルも「AIを使いこなす能力」へとシフトしています。
この米国の動向は、近い将来、日本の労働市場でも起こりうる変化の予兆と捉えることができます。AIに仕事を奪われるという漠然とした不安を持つだけでなく、AIをいかにして活用し、自らの価値を高めていくかという視点が、これからのキャリアを考える上でますます重要になっていくでしょう。

