はじめに
IBMは2026年9月22日、Think Insightsで、生成AI検索エンジンからの流入対策(GEO: 生成エンジン最適化)の社内における「オーナー不在」問題を取り上げた論考を公開しました。本稿では、なぜ特定の部門だけがGEOを主導できないのか、そして組織としてどう役割分担を進めるべきかについて紹介します。
参考記事
- タイトル: Who owns GEO? The turf war no one’s winning
- 著者: Alexis Zamkow
- 発行元: IBM Think Insights
- 発行日: 2026年9月22日
- URL: https://www.ibm.com/think/insights/who-owns-geo
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要点
- IBMは、生成AI検索エンジンからの引用が増える中、SEO・マーケティング・広報・カスタマーサービスの各部門がGEO主導の正当性を主張していると指摘している。
- GEOに関わる信号は、外部権威・ブランドとコンテンツ・技術・製品とサービス・顧客理解の5領域に分かれるとしている。
- いずれの部門も5領域すべてを管理できず、一領域の強みが他領域の弱点を補うことはないとしている。
- 解決策は単独の統括者を置くことではなく、各領域に担当者を置いた上で全体を横断して見る役割を設けることだとしている。
- 実行体制の整備、GEOへの予算配分、AI上での引用率・可視性の測定も必要な取り組みとして挙げられている。
詳細解説
なぜ全部門がGEOの「当事者」だと考えるのか
IBMのAlexis Zamkow氏(IBM Consulting、Global Offering Leader)によれば、生成AI検索エンジンからの引用が通常のオーガニック流入よりも高い転換率を示す場面が社内会議で報告されても、誰がGEO(生成エンジン最適化)を主導すべきかが定まらないまま議論が終わるケースが各所で起きているといいます。ChatGPTやPerplexityのような生成AI検索エンジンの動向は過去記事でも整理していますが、こうしたサービスからの引用は、SEO・マーケティング・広報・カスタマーサービスのいずれにとっても無視できない存在になりつつあります。記事は、各部門がGEOを主導すべきだと考える理由を次のように整理しています。
- デジタル・SEOチーム: クロール性やスキーマ、サイト構造、内部リンクといった技術基盤を管理する。ただし、マーケターや広報が書く文章、製品説明、顧客からの質問内容までは管掌しないことが多い。
- マーケティング・営業チーム: 顧客の意図やブランドボイス、トピックの優先順位を理解し、AI検索エンジンが何を見つけられるか、どの外部情報がそれを裏付けるか、どの質問にまだ十分応えられていないかを把握する立場にある。
- 広報・コミュニケーションチーム: 自社チャネルを超えた第三者の信頼性情報を提供する。IBMの分析では、獲得メディア(第三者による報道や言及)は自社ブログやプレスリリースよりもAIエンジンから見て可視性が高いという。
- カスタマーサービスチーム: 顧客がAIに投げかける質問を、実際に使われる言葉のまま最も多く把握している。チケットやチャットのログは、既存コンテンツが不明瞭・不完全・欠落している箇所を明らかにする。
カスタマーサービスが持つ知見は、AIが電話やチャットの前に顧客の疑問に答える「ゼロチケット・サポート」という発想にもつながっています。ただし、この部門はコンテンツの公開権限やスキーマの設計、獲得メディアとの関係構築までは担っていない、と記事は付け加えています。技術・コンテンツ・信頼性・現場知見という異なる強みを持つ部門が並び立つ状況は、多くの企業でデジタル戦略が部門横断の調整を必要としてきた構図と重なる部分があると考えられます。
「陣取り合戦」の限界——5つの領域に分散する主導権
IBMは、GEOに関わる信号を大きく5つの領域に整理しています。
- 外部権威: 広報・コミュニケーションチームが、獲得報道や第三者による裏付けを管掌する。
- ブランドとコンテンツ: マーケティング・営業チームが、AIによる抽出を意識した引用されやすいコンテンツ作りを担う。
- 技術: SEO・エンジニアリングチームが、スキーマやクロール性、サイト構造を主導する。
- 製品とサービス: プロダクトマーケティングが、製品名やドキュメントの記述を管理する。
- 顧客理解: カスタマーサービスが、サポートコンテンツやQ&Aライブラリ、顧客の質問傾向についての知見を提供する。
いずれか1つの部門がすべての領域を管理することはなく、ある領域の強みが他領域の弱点を埋め合わせることもない、とIBMは述べています。技術的に整ったサイトであっても、そこに表示される回答自体が不完全であれば意味を持たず、外部評価が高くても顧客の実際の質問とかみ合わない内容を指し示すだけでは不十分だという指摘です。個別の部門やチャネルの評価だけでなく、AIがそれらの信号を統合した結果としてどのような回答が生成されるかという視点への転換が起きていると記事は伝えています。企業間の連携によってAIエージェントをマーケティング領域に組み込む動きも、部門や組織の垣根を越えてAI活用の仕組みを設計する必要性を裏付ける例だと考えられます。
単独の勝者を探すのをやめる——精緻な役割分担のための5つのステップ
IBMは、GEOの主導権を1つの部門に委ねるのではなく、責任の所在をより精緻に設計するべきだとして、次の5つの取り組みを挙げています。
- GEOの各要素に明確な担当者を置く: 広報・コミュニケーションは外部権威、マーケティング・営業はブランドとコンテンツ、デジタル・エンジニアリングは技術基盤、プロダクトマーケティングは製品・サービス情報、カスタマーサービスは顧客理解について、それぞれ責任を持つ。
- 全体を横断して見る役割を置く: 各担当者は自分の領域からGEOを見るため、複数の領域が組み合わさった時に何が起きるかを把握し、ギャップや矛盾する信号、部門間で止まっている作業を見つけられる人材が必要になる。
- 戦略を実行に移せる体制を整える: マーケティングがスキーマやサイト、製品コンテンツの変更が必要な機会を見つけても、実行に移す経路がなければ、会議では連携しているように見えても実際の作業では分断されてしまう。
- GEOが本格的な業務になった段階で予算を確保する: 既存チームの余力だけに依存していては、既に予算が付いている他の優先事項と競合し続けることになる。
- AIの回答に自社が登場しているかを測定する: 検索トラフィックだけでは、AIエンジンが自社ブランドを見つけ、引用し、正確に表現しているかは分からない。引用率やAI上での言及の可視性は、顧客がサイトをクリックせずに情報を得る場面が増える中で、新たな評価指標になるという。
記事は最後に、GEOの主導権争いが起きる背景には理解できる事情があるとしつつ、目指すべきは1つの部門が旗を立てることではなく、AIが自社を理解するために使うすべての信号が、信頼できる有用な回答として結実するよう責任の所在を明確にすることだと結んでいます。顧客にとって、その回答をどの部門が作ったかは問題ではなく、正しいかどうかだけが重要だという指摘は、部門横断の議論において立ち返るべき視点だと考えています。
まとめ
IBMは、GEOの主導権争いを解消する鍵は、単独の勝者を決めることではなく、部門ごとの担当領域を明確にした上で全体を見渡す視点を持つことだとしています。顧客にとって重要なのは、その回答を誰が作ったかではなく正しいかどうかだという指摘は、部門横断でAI活用を進める上で参考になる視点だと思います。
