はじめに
世界経済フォーラム(World Economic Forum、以下WEF)が2026年1月19日、AIを活用して実社会で測定可能な成果を生み出している企業を認定する「MINDS」プログラムの第2コホートを発表しました。本稿では、この発表内容をもとに、選ばれた企業の取り組みと、AIが実際のビジネスや社会課題にどのように貢献しているかを解説します。
参考記事
- タイトル: What works in AI: The leading companies turning AI into real-world impact
- 著者: Maria Basso, Cathy Li
- 発行元: World Economic Forum
- 発行日: 2026年1月19日
- URL: https://www.weforum.org/stories/2026/01/the-leading-companies-turning-ai-into-real-world-impact/
要点
- WEFのMINDSプログラムは、AIを実世界のシステムに組み込み、持続可能性、包摂性、運用の回復力を確保しながら測定可能な結果を提供する企業を認定している
- 第2コホートでは、エネルギー・気候、医療・ウェルビーイング、産業・インフラの3分野から15社が選ばれた
- 選ばれた企業は、生産性と収益において二桁の成長を報告しており、パイロット段階から企業全体への展開に成功している
- 第3コホートの募集が2026年1月20日に開始され、受賞者は2026年のニューチャンピオン年次総会で発表される
詳細解説
MINDSプログラムとは
MINDSは「Meaningful, Intelligent, Novel, Deployable Solutions」の略で、WEFが推進するAI活用の認定プログラムです。WEFによれば、第1コホートは2025年6月に中国・杭州で開催されたニューチャンピオン年次総会で発表され、23か国から18社が選ばれました。今回の第2コホートでは、さらに15社が追加されています。
このプログラムは、単にAI技術を開発しているだけでなく、実際のシステムに組み込んで測定可能な成果を出している企業を評価する点に特徴があります。選定基準には、持続可能性、包摂性、運用の回復力といった要素が含まれており、技術の社会実装における責任ある姿勢が重視されていると考えられます。
WEFは今回の発表と合わせて、レポート『Proof Over Promise: Insights on Real-World Adoption from 2025 MINDS Companies』を公開しており、これらの企業の事例研究や影響指標をまとめ、AI活用のスケーリングに向けた実践的なフレームワークを提供しています。
エネルギー・気候分野での取り組み
第2コホートでは、エネルギーと気候変動に関連する複数の企業が選ばれています。
CATL(Contemporary Amperex Technology Co. Limited)は、電気自動車用バッテリーの設計にAIを活用しています。WEFによれば、同社のプラットフォームは物理ベースの電気化学モデリングと機械学習を組み合わせ、5,000万件以上のデータレコードを処理することで、従来は数週間かかっていた最適設計を数分で完了させています。データ操作を99%削減し、プロトタイプサイクルを約50%短縮したとのことです。
電気自動車の普及において、バッテリー開発のスピードとコストは重要な課題とされてきました。AIによる設計自動化は、この分野での競争力向上に直結する技術革新と考えられます。
中国国家電網公司(State Grid Corporation of China)は、上海の電力網管理にAIを導入しています。このプラットフォームは、予測、取引、調整、決済を統合し、分散型エネルギー資源をリアルタイムで調整します。応答時間は1秒未満で、15,000人以上のユーザーをサポートしているとされています。
大都市のエネルギー管理では、需要と供給のバランスを瞬時に調整する必要があり、このようなリアルタイム処理能力は重要な技術的要件となります。
NICE(National Institute of Clean-and-Low-Carbon Energy)は、エネルギー市場予測システムを開発しています。AIモデルがエネルギー政策に関する規制更新をリアルタイムで監視し、市場データと組み合わせることで、精度を向上させリスクを削減しています。エネルギー使用量を最大95%削減したと報告されています。
シュナイダーエレクトリック(Schneider Electric)は、建物のエネルギー効率改善にオンデバイスAIを活用しています。室内コントローラーが熱挙動を予測し、快適性を維持しながらエネルギー使用を最小化します。わずか2週間で5〜15%の省エネを達成し、排出量も削減したとのことです。
中国華能清潔能源研究院(China Huanneng Clean Energy Research Institute)は、パートナー企業とともに、洋上エネルギーの効率化を進めています。リアルタイムのAI・高度分析プラットフォームが設備のニーズを予測し、運用を最適化することで、年間10,000世帯以上に電力を供給できるクリーンエネルギー出力の増加を実現しています。
再生可能エネルギーインフラが分散化・複雑化する中で、信頼性を維持するにはデータ、診断、制御のより緊密な統合が必要とされており、このような取り組みはその一例と言えます。
医療・ウェルビーイング分野での取り組み
医療分野でも、AIを活用してアクセスを拡大し、成果を改善する取り組みが進んでいます。
Landing Medは、中国における女性の健康改善に取り組んでいます。AI駆動の細胞診により、がん検診をコミュニティレベルで提供しています。WEFによれば、同社のプラットフォームは細胞分析を自動化し、クリニックと遠隔地の病理医を接続することで、中国の遠隔病理ネットワークの91%をカバーし、1,200万件以上の検診を処理しています。
医療資源の地域格差は世界的な課題であり、AIを活用した遠隔診断は、専門医が不足する地域での医療アクセス改善に貢献する可能性があります。
サウジアラビア保健省とAmplifai Healthは、熱画像フットスキャンを試験導入しています。コンピュータビジョンと大規模言語モデルが熱パターンを解釈し、1分以内に臨床リスクスコアを生成します。看護師がAI支援スクリーニングを実施できるため、足病専門医の不足を補い、専門医は高リスク症例に集中できます。検診能力は専門医の人数を増やすことなく最大12倍に向上し、早期結果では治療コストが約80%低下したとされています。
この取り組みは、反応的なケアから予防的なモデルへの転換を示しており、サウジアラビアの公平で技術支援型の医療ビジョンを支援するものと評価されています。
Phagosは、抗生物質に代わるAI駆動の代替手段を提供しています。ゲノム配列からファージと細菌の相互作用を予測し、適応型のマルチストレインファージカクテルを設計します。95%の精度を達成し、手動の方法と比較して発見を最大10倍加速させています。
抗生物質耐性は世界的な公衆衛生上の懸念であり、このような代替療法の開発は重要な研究領域となっています。
OAOとサノフィ(Sanofi)は、AIファーストの企業構築を進めています。従業員が発見とイノベーションに貢献できるマルチエージェントシステムを構築し、1,300以上のAIユースケースを生成し、モデル開発の加速と商業的な成果向上を実現しています。
富士通と玄州会(Social Medical Corporation Genshukai)は、病院管理の効率化にAIを適用しています。医療記録の標準化やベッド配分の最適化といった課題に取り組んでおり、病院管理全体で400時間以上を節約し、収益を10%、140万ドル増加させたと報告されています。
産業・インフラ分野での取り組み
産業と社会インフラの領域でも、AIが重要な役割を果たしています。
Cambridge Industriesは、都市の道路安全性と建設現場のコンプライアンスを支援しています。OrbitとNdegeというアプリケーションが、プライベートなクライアント駆動の大規模言語モデルを使用し、スマートフォンやドローンを通じて道路状況を分析し、建設現場の安全性を監視します。緊急道路修理コストと建設事故を約50%削減したとされています。
複雑なエンジニアリング知識を誰もが利用できるようにすることで、インフラ管理の効率化が図られていると考えられます。
DmallとWumartは、小売業務の効率化を進めています。統合小売オペレーティングプラットフォームが、POS データ、在庫、カメラ、IoTセンサーを接続し、動的でイベント駆動型のワークフローを可能にしています。価格設定を自動化し、運用を監視し、エネルギー使用をリアルタイムで管理しています。
Deep Principleは、材料科学の研究にAIを活用しています。化学、計算、データを単一の連続的な発見プロセスに統合し、化学反応の挙動を迅速に予測します。材料シミュレーションの半分以上を自動化し、実験コストを削減しています。
SynopsysとAMDは、半導体設計にエージェント技術を統合しています。電子設計自動化(EDA)ツールにAIを組み込むことで、設計目標を理解し、ツールを実行し、結果を評価するシステムを構築しました。生産性を2倍にし、設計コストと承認時間を削減し、チップ設計のイノベーションを加速させています。
半導体産業では設計の複雑性が年々増しており、AIによる設計支援は競争力維持の鍵となる技術と考えられます。
Tech Mahindraは、多言語AIモデルを構築しています。ヒンディー語、バハサ語、地域言語をサポートし、グローバルなシステムでは見過ごされがちな言語に対応しています。大規模なローカルデータで訓練されたモデルは、市民サービス、銀行、医療分野で月間380万件のクエリを処理し、10,000人以上のアクティブユーザーをサポートしています。会話精度は92%で、汎用グローバルモデルを上回り、最大20億ドルの生産性向上をもたらす可能性があるとされています。
この取り組みは、OECD AI原則や広島AIプロセスと整合しており、グローバルサウスにおける包摂的なAI採用を支援するものと評価されています。
MINDS企業に共通する特徴
WEFによれば、2つのコホート全体を通じて共通する特徴が見られます。各組織は社会的・環境的進歩へのコミットメントを示しており、労働力の強化、教育とスキルアップへのアクセス拡大、AIを活用したエネルギー消費削減に取り組んでいます。
MINDS企業全体では、生産性と収益において二桁の成長が報告されており、これは運用効率の改善によるものとされています。この成功は、パイロット段階から企業全体への展開へと責任を持ってスケーリングする能力、つまりAIを中核プロセスに組み込み、技術インフラを近代化する能力を反映していると考えられます。
戦略、労働力、データ、技術、ガバナンスの相互作用が、増幅された測定可能な影響を可能にしているとWEFは指摘しています。
第3コホートの募集開始
第1・第2コホートが責任あるAIに関するグローバルな議論を形成する中、第3コホートの準備が進んでいます。農業食品からサイバー防衛まで、さまざまな業界のステークホルダーが応募し、成長するコミュニティに参加することが求められています。
募集は2026年1月20日に開始され、受賞者は2026年のニューチャンピオン年次総会で発表される予定です。
まとめ
世界経済フォーラムのMINDS第2コホートは、AIが実際のシステムに組み込まれ、測定可能な成果を生み出していることを示しています。エネルギー効率化、医療アクセス改善、産業インフラの最適化など、多様な分野での具体的な成果が報告されており、AIの社会実装における実践的なモデルを提供していると言えます。今後の課題は、こうした成功事例を再現し、責任あるAIを例外ではなく標準にしていくことではないでしょうか。
