[ニュース解説] 製薬・医療機器業界注目!Veevaが発表したAI戦略「Veeva AI」を徹底解説

目次

はじめに

 近年、AI(人工知能)技術、特に生成AI(GenAI)の進化は目覚ましく、様々な業界でその活用が期待されています。ライフサイエンス業界も例外ではなく、研究開発から製造、販売に至るまで、多くのプロセスでAIによる効率化や革新が求められています。

 本稿では、ライフサイエンス業界向けクラウドソフトウェアのリーダーであるVeeva Systems社が発表した新しい取り組み「Veeva AI」についてご紹介します。この発表は、業界特有の重要な機能を自動化し、生産性を向上させる可能性を秘めており、ビジネスパーソンにとって注目すべき内容です。

引用元記事

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・記載されている情報は、投稿日までに確認された内容となります。正確な情報に関しては、各種公式HPを参照するようお願い致します。
・内容に関してはあくまで執筆者の認識であり、誤っている場合があります。引用元記事を確認するようお願い致します。

要点

  • Veeva Systems社は、ライフサイエンス業界向けの新しいAIイニシアチブ「Veeva AI」を発表しました。
  • Veeva AIは、同社の主力製品である「Veeva Vault Platform」および各種VeevaアプリケーションにAI機能を統合するものです。
  • 主な目的は、「AI Agents」と「AI Shortcuts」という機能を通じて、タスクの自動化と従業員の生産性向上を実現することです。
  • 臨床開発から薬事申請、安全性管理、品質管理、メディカルアフェアーズ、コマーシャル(営業・マーケティング)まで、ライフサイエンスの幅広い領域で活用される予定です。
  • LLM(大規模言語モデル)を活用しつつ、特定のモデルに依存せず、顧客データのセキュリティを確保する設計になっています。

詳細解説

Veeva Systemsとライフサイエンス業界の課題

 まず前提として、Veeva Systems社はライフサイエンス業界に特化したクラウドベースのソフトウェアを提供している企業です。医薬品や医療機器の開発・承認・製造・販売には、非常に複雑で厳格な規制要件が伴います。Veeva社の「Veeva Vault Platform」などの製品は、これらのプロセスを効率化し、コンプライアンス(法令遵守)を支援するための重要な基盤となっています。

 しかし、膨大な文書管理、データの分析、規制当局への申請準備など、依然として多くの手作業や専門知識を要するタスクが存在し、これらがボトルネックとなることも少なくありません。ここでAI、特に生成AI(GenAI)の活用が期待されています。生成AIは、文章の作成、要約、質疑応答などを人間のように自然に行える技術であり、知識労働者の生産性を大幅に向上させる可能性を持っています。

Veeva AIの仕組み:「AI Agents」と「AI Shortcuts」

 Veeva AIは、この生成AIの能力をVeevaの既存アプリケーションに組み込むことで、具体的な業務改善を目指します。その中核となるのが「AI Agents」と「AI Shortcuts」です。

  • AI Agents(AIエージェント):
    • これは、特定のタスクを自動実行するように設計されたAIプログラムです。
    • Veevaアプリケーションの文脈(どのようなデータやプロセスを扱っているか)を理解しており、アプリケーション固有の指示(プロンプト)や安全策が組み込まれています。
    • Veeva内のデータ、文書、ワークフローに安全に直接アクセスできます。
    • 例えば、「特定の規制要件に関連する文書を検索し、要約を作成する」「安全性報告のドラフトを作成する」といったタスクを自動化できます。
    • Veevaが提供するエージェントを顧客が設定・拡張したり、独自のカスタムエージェントを作成したりすることも可能です。
    • チャットボット形式のインターフェースやAPI(プログラムから呼び出すための接続口)を通じて利用できます。
  • AI Shortcuts(AIショートカット):
    • これは、エンドユーザー(実際にVeeva製品を使う従業員)が、個人的によく行う特定のタスクをAIで自動化するための機能です。
    • 例えば、「特定の種類の問い合わせメールへの返信案を生成する」「会議の議事録から重要な洞察を抽出する」「特定のトピックに関する社内文書を調査しまとめる」といった作業を、簡単な設定でAIに任せられるようになります。
    • これにより、日常的な反復作業から解放され、より付加価値の高い業務に集中できるようになります。

技術的な特徴:LLM非依存とセキュリティ

 Veeva AIは、特定のLLM(大規模言語モデル)に縛られない「LLM非依存(LLM agnostic)」という設計思想を採用しています。LLMとは、ChatGPTなどの生成AIの頭脳にあたる部分で、膨大なテキストデータを学習し、人間のような言語処理能力を獲得したモデルのことです。

 LLM非依存であることにより、顧客はVeevaが提供するLLMを利用することも、自社で契約している特定のLLM(例えば、OpenAIのGPTシリーズやGoogleのGeminiなど)を利用することも選択できます。これにより、技術の進化に合わせて最適なLLMを選んだり、自社のポリシーに合ったモデルを使ったりする柔軟性が生まれます。

 また、ライフサイエンス業界ではデータの機密性とセキュリティが極めて重要です。Veeva AIは、どのLLMを使用する場合でも、顧客データが安全に保たれ、他の顧客のデータと混ざることのないように設計されている点が強調されています。これは、機密性の高い医薬品情報などを扱う上で不可欠な要素です。

期待される効果と将来性

 Veeva社のCEO、Peter Gassner氏は、「コアアプリケーション(従来の業務システム)が持つ構造化データ、ビジネスルール、ワークフローの処理能力と、生成AIが持つ言語、文脈、広範な知識から答えや洞察を引き出す人間のような能力をシームレスに連携させることで、大幅な生産性向上がもたらされる」と述べています。

 つまり、従来のシステムの正確性・一貫性と、AIの柔軟な情報処理能力を組み合わせることで、これまで自動化が難しかった領域の業務効率を改善し、最終的には治療法をより早く患者に届けることに貢献することが期待されています。

 Veeva AIの最初のリリースは2025年12月に予定されており、Vaultプラットフォーム単位でのライセンス提供となる見込みです。シンプルで手頃なサブスクリプション料金体系にすることで、業界全体での広範かつ思慮深いAI導入を促進したい考えです。

まとめ

 本稿では、Veeva Systems社が発表したライフサイエンス業界向けの新しいAIイニシアチブ「Veeva AI」について解説しました。

 Veeva AIは、既存のVeevaプラットフォームにAI AgentsとAI Shortcutsを統合し、LLMを活用することで、業界特有のタスク自動化と生産性向上を目指すものです。LLM非依存の設計やセキュリティへの配慮も特徴であり、ライフサイエンス企業が安全かつ効果的にAIを活用するための重要な一歩と言えるでしょう。

 2025年12月のリリースに向けて、今後具体的な機能や導入事例が明らかになっていくことが期待されます。ライフサイエンス業界におけるAI活用の動向として、引き続き注目していきたい発表です。

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