[技術解説]AI時代のビジネス基盤を強化する「Google Cloud WAN」とは?

目次

はじめに

 本稿では、Google Cloudが発表した新しいネットワークソリューション「Cloud WAN」について、従来の企業ネットワークが抱える課題から、AI時代の新たな要請、そしてCloud WANがどのようにこれらに応えるのか、「Google Cloud Blog “Cloud WAN: Connect your global enterprise with a network built for the AI era”」をもとに解説します。

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要点

 Google Cloud WANの主な特徴とメリットは以下の通りです。

  • Googleの広大なネットワークを活用: GmailやYouTubeなどを支える、信頼性の高いGoogleの地球規模ネットワークを企業が利用可能になります。
  • パフォーマンス向上: パブリックインターネットと比較して最大40%高速なパフォーマンスを実現します。
  • コスト削減: 顧客管理のWANソリューションと比較して、総所有コスト(TCO)を最大40%削減可能です。
  • シンプルな管理: 複雑化しがちな企業ネットワークを統合し、管理を簡素化します。
  • AI時代の要請に対応: 大規模なスケーラビリティ、堅牢なセキュリティ、効率的なリソース利用を提供し、AIアプリケーションの基盤となります。
  • 柔軟な接続: データセンター間、拠点、クラウド、ユーザーを安全かつ高信頼性で接続します。

詳細解説

従来の企業ネットワークとその課題

 企業が複数の拠点を接続するために使うネットワークをWAN(Wide Area Network)と呼びます。従来、多くの企業はMPLS(Multi-Protocol Label Switching)という専用線に近い技術に依存してきました。MPLSは安全で信頼性が高い反面、コストが高く、柔軟性に欠けるという課題がありました。

 その後、SaaS(Software as a Service)やクラウドアプリケーションの普及に伴い、インターネットを直接利用するSD-WAN(Software-Defined WAN)が登場しました。これはMPLSより低コストな選択肢でしたが、インターネット経由のため通信品質が不安定になる可能性がありました。

 さらに、クラウドへのアクセス性能を高めるために、データセンター内にクラウド接続の拠点を設ける「クラウドオンランプ」が利用されるようになりましたが、これも複雑さとコストを増加させる要因となりました。

 結果として、多くの企業のネットワークは、異なる種類のネットワーク(MPLS・ インターネット・クラウド接続)が混在し、セキュリティ対策も断片的で、管理が非常に複雑になっていました。信頼性、速度、コストのバランスを取るのが難しい状況だったのです。

AI時代が求めるネットワーク

 近年急速に発展するAI(人工知能)は、ネットワークにも新たな要求を突きつけています。AIアプリケーションは、複数のクラウドやオンプレミス(自社運用)のデータセンターに分散したインフラを必要とすることが多く、以下のようなネットワーク特性が求められます。

  • 大規模な拡張性(スケーラビリティ): 大量のデータを処理・転送できる能力。
  • 堅牢なセキュリティとプライバシー: 機密性の高いデータを安全に扱えること。
  • 効率的なリソース利用: ネットワーク帯域などを無駄なく使えること。
  • コスト効率: 上記を実現しつつ、費用を抑えること。

Google Cloud WANとは?

 こうした背景を踏まえ、Google CloudはCloud WANを発表しました。これは、Googleが自社のサービス(Gmail・ YouTube・ Searchなど)を提供するために構築・運用してきた地球規模の広大なネットワークインフラを、一般企業や政府機関が利用できるようにする、フルマネージド型のサービスです。

 Googleのネットワークは、202箇所の接続拠点(PoP)、200万マイル以上の光ファイバー、33本の海底ケーブルによって構成され、99.99%の信頼性SLA(Service Level Agreement: 品質保証)に裏打ちされています。Cloud WANは、この強力な基盤を活用し、企業のWANアーキテクチャを変革することを目指しています。

Cloud WANの主な利用シナリオ

 Cloud WANは、主に以下の2つのシナリオで企業のネットワーク課題を解決します。

1. データセンター間の高性能・高信頼接続

 地理的に離れたデータセンター間で大量のデータを確実かつ高速に転送する必要がある企業向けです。Cloud WANは、従来の専用線などに代わる、柔軟で高性能な接続オプションを提供します。

  • Cloud Interconnect: Google Cloudリージョンとオンプレミスのデータセンターを専用線で接続します(世界159箇所以上)。
  • Cross-Cloud Interconnect: Google Cloudと他のパブリッククラウド(AWS・Azure・ OCIなど)を接続します(21箇所)。
  • Cross-Site Interconnect : データセンター間のレイヤ2(データリンク層)でのポイント・ツー・ポイント接続を提供します。これは、主要クラウドプロバイダーとしては初の試みであり、より透過的で柔軟なネットワーク構築を可能にします(10/100G)。現在一部地域でプレビュー中です。

※補足:レイヤ2接続とは?

 ネットワーク通信は階層(レイヤ)に分けて考えられます。レイヤ2(データリンク層)は、同じネットワークセグメント内での直接的な通信を扱います。レイヤ2で接続すると、物理的に離れた場所にある機器同士を、あたかも同じLAN(Local Area Network)に接続されているかのように扱うことができ、ネットワーク設計の自由度が高まります。一方、レイヤ3(ネットワーク層)は、IPアドレスを使って異なるネットワーク間の通信(ルーティング)を扱います。

2. 拠点・キャンパスネットワークのクラウド移行と接続

 支社やオフィス(拠点・キャンパス)から、パブリッククラウド上のリソース、SaaSアプリケーション、インターネットへ安全かつ快適に接続するためのシナリオです。

  • Premium Tier network: Cloud WANの通信は、Googleの高性能なPremium Tier networkを利用します。これにより、トラフィックは最寄りのGoogleネットワーク拠点(PoP)からGoogleのバックボーンに入り、宛先まで最短経路で転送されるため、遅延が少なく安定した通信が可能です。Googleは世界最大級のピアリング(相互接続)ネットワークを持っており、これが高いパフォーマンスを支えています。
  • Network Connectivity Center (NCC): 企業の拠点を接続するための中核となるハブ機能です。Cloud VPN(暗号化されたインターネット経由接続)や、既存のSD-WANソリューションと連携して利用できます。データセンターからはCloud Interconnectで高帯域接続が可能です。
  • 柔軟なセキュリティオプション:
    • Cloud NGFW (Next Generation Firewall): Google Cloudが提供するファイアウォール。
    • サードパーティ製ファイアウォール連携: Check Point、 Fortinet、Palo Alto Networksなどの仮想アプライアンスを統合可能。
    • SSE (Security Service Edge) 連携: Broadcom、 Menlo Security、 Palo Alto NetworksなどのSSEソリューションをマネージドで統合可能(プレビュー)。これにより、ユーザーがどこからアクセスしても一貫したセキュリティポリシーを適用できます。
  • パートナーエコシステム: Cisco、 FortinetなどのSD-WANベンダー、Infoblox(DNS/DHCP/IPAM)、Juniper Networks Mist(AIドリブンな無線/有線LAN、SD-WAN)など、多くのパートナーソリューションと連携し、迅速な拠点展開やサービス追加を支援します。
  • Google Distributed Cloud (GDC) との連携: エッジコンピューティング環境であるGDCとも連携し、低遅延が求められるアプリケーションをサポートします。

パフォーマンスとコスト削減効果

  • 最大40%のパフォーマンス向上: 前述のPremium Tier networkや広範なピアリングにより、パブリックインターネット経由と比較して最大40%高速な通信を実現します(Googleによるテスト結果)。
  • 最大40%のTCO削減: 顧客が自前でWANを構築・管理する場合と比較して、総所有コスト(TCO)を最大40%削減できます。これは、機器購入や運用管理のコスト削減、効率的なリソース利用によるものです。利用量ベースと固定価格のオプションが提供され、コスト最適化が可能です。

まとめ

 Google Cloud WANは、Googleの強力なグローバルネットワーク基盤を活用し、パフォーマンス、信頼性、セキュリティ、コスト効率といった、現代の企業ネットワークに求められる要素を高次元でバランスさせたソリューションです。特に、AI活用を見据えたインフラ構築において、そのスケーラビリティと性能は大きなアドバンテージとなるでしょう。

 データセンター間の接続強化、拠点ネットワークのモダナイゼーション、マルチクラウド接続の最適化など、多様なニーズに応える柔軟性を持ち合わせています。Cloud WANは、企業が複雑なネットワーク管理から解放され、イノベーションと成長に集中するための強力な基盤を提供します。

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