はじめに
英国教育省が2026年1月26日、恵まれない環境にある最大45万人の子どもたちを対象に、AI技術を活用した個別指導ツールを提供する計画を発表しました。教師と共同開発される安全なツールを2027年末までに学校で利用可能にし、教育格差の解消を目指します。
参考記事
- タイトル: 450,000 disadvantaged pupils could benefit from AI tutoring tools
- 著者: Department for Education, The Rt Hon Liz Kendall MP, The Rt Hon Bridget Phillipson MP
- 発行元: UK Department for Education(英国教育省)
- 発行日: 2026年1月26日
- URL: https://www.gov.uk/government/news/450000-disadvantaged-pupils-could-benefit-from-ai-tutoring-tools
要点
- 英国政府は2027年末までに、恵まれない環境の子ども最大45万人にAI個別指導ツールを提供する計画を発表した
- 1対1の個別指導は学習を約5ヶ月加速させるエビデンスがあるが、現在は富裕層の子どもが主に恩恵を受けている
- 2026年夏学期から教師主導でツールを共同開発し、安全性と有効性を厳格にテストする
- ツールはナショナルカリキュラムと連携し、対面授業を補完するもので教師の代替ではない
- 今年後半から全国の中等学校で試験運用を開始し、教師の実地経験を反映させる
詳細解説
教育格差の現状と個別指導の効果
英国教育省によれば、現在、恵まれない環境の子どもたちは同級生と比べて学習成果が大きく遅れています。GCSEの英語と数学で5以上(合格レベル)の成績を取得できるのは、恵まれない環境の子どもではわずか4分の1であるのに対し、その他の子どもでは半数以上が達成しています。
この格差の背景には、個別指導へのアクセスの不平等があります。エビデンスによれば、1対1の個別指導は生徒の学習を約5ヶ月分加速させる効果がありますが、現在は富裕層の家庭の子どもが主にその恩恵を受けています。GCSEは英国の義務教育修了時に受ける全国統一試験で、進学や就職に大きく影響するため、この格差は将来の機会格差につながると考えられます。
AI個別指導ツールの開発計画
英国政府は、教師、AIラボ、主要テック企業と協力してAI個別指導ツールを開発します。2026年夏学期から教師主導での共同開発を開始し、2027年末までに学校で利用可能にする計画です。
対象は9年生から11年生(日本の中学3年生から高校2年生相当)で、無料給食の対象となっている子どもだけでも年間45万人が支援を受けられる規模です。無料給食の対象は英国では経済的に恵まれない家庭の指標として用いられており、この規模は教育格差解消への本格的な取り組みと言えます。
ツールの特徴と安全性への配慮
開発されるAI個別指導ツールは、個々の生徒のニーズに適応し、つまずいた箇所で追加の支援を提供したり、習熟に向けてより多くの練習が必要な領域を特定したりします。ナショナルカリキュラムと連携して教室での学習を補強する設計となっています。
教育省は「対面授業を補完するもので、決して代替するものではない」と明言しています。教師にしか提供できない人間的なつながりを重視しつつ、最も支援が必要な生徒に的を絞った支援を提供し、優秀な生徒にはさらに先に進む機会を与えることを目指しています。
安全性については、親と教師が安心できる厳格なベンチマークを開発し、ツールが高品質で信頼性が高く、何よりも安全であることを保証します。教育長官のブリジェット・フィリップソン氏は「AIツールは安全で学習をサポートするものでなければ教育において役に立たず、これは譲れない」と強調しました。
試験運用と教師の役割
今年後半から全国の中等学校で試験運用が始まります。教師の実地経験を活用し、その専門知識とフィードバックがツールの有効性を最大化します。試験から得られたエビデンスは、より広範な利用に向けた情報提供に活用されます。
教師とスタッフには、教育部門と協力して開発された明確で実践的なトレーニングが提供され、AIを安全かつ効果的に使用するためのスキル、知識、自信を持てるよう支援します。この教師中心のアプローチは、技術導入における現場の専門家の重要性を示していると考えられます。
関連施策との連携
この発表は、先週発表された教育におけるAIと技術の恩恵を最大化し、若者をオンラインの危害から守るための施策と連携しています。具体的には、子どものソーシャルメディア使用に関する協議の開始、学校での携帯電話禁止、5歳未満の子どものスクリーン使用に関する初のガイダンス開発、EdTech Testbedsパイロットプログラムへの2300万ポンドの投資拡大(1,000以上の学校でAIツールと支援技術をテスト)、教育用ツール開発における更新された安全基準などが含まれます。
これらの施策は、AI技術の教育への導入を進めると同時に、子どもたちの安全と健全な発達を守るという、バランスの取れたアプローチを示しています。
まとめ
英国政府は、教師と共同開発するAI個別指導ツールを2027年末までに導入し、最大45万人の恵まれない環境の子どもたちに個別化された学習支援を提供します。安全性と有効性の厳格なテスト、教師主導の開発プロセス、対面授業との補完関係の重視など、慎重かつ包括的なアプローチが特徴です。この取り組みが教育格差の解消にどのように貢献するか、今後の展開が注目されます。
