[ビジネスマン向け]世界経済フォーラムが考える世界経済を揺るがす「トリプルバブル」:AI・暗号資産・債務の三重構造

目次

はじめに

 世界経済フォーラム(WEF)が2025年11月28日に公開した記事によれば、現在の世界経済は、AI(人工知能)、暗号資産(仮想通貨)、そして政府・民間債務という3つの金融バブルに直面しています。本稿では、この「トリプルバブル」と呼ばれる現象の実態と、それぞれがどのように相互に影響し合っているのか、そして崩壊した場合に何が起こりうるのかを解説します。

参考記事

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要点

  • 世界経済は現在、AI、暗号資産、債務という3つの金融バブルに直面しており、これらは相互に影響し合っている
  • AIインフラ投資は加速しているが、資金調達方法が自己資金から債券発行による借入へと移行し、バブル懸念が強まっている
  • ビットコインなど暗号資産の価格変動は、AIバブルへの懸念と連動しており、他の資産の下落を予測する指標として機能している可能性がある
  • 世界の公的債務は100兆ドルを超え、パンデミック前より速いペースで増加しており、民間債務を含めると世界経済全体の3倍以上に達する
  • バブル崩壊は短期的には深刻な痛みをもたらすが、長期的にはインフラ整備などを通じて経済を根本的に再構築する可能性もある

詳細解説

3つのバブルの概要と歴史的類似性

 World Economic Forumの分析によれば、現在の世界経済が直面している3つのバブルは、それぞれ歴史上の類似事例と比較されています。AIインフラへの投資熱は、19世紀半ばの英国における「鉄道マニア」に似ていると指摘されています。暗号資産の急騰と急落のパターンは、レンブラントの時代のオランダで発生した「チューリップバブル」を彷彿とさせます。そして債務の膨張は、ナポレオンの征服を阻止するために使われた信用枠の拡大に例えられています。

 ただし、これらの歴史的な類似点は理解の助けにはなりますが、現代の状況を完全に説明するものではないと考えられます。特に3つのバブルが同時に存在し、相互に影響し合っているという点は、歴史的にも前例が少ない状況と言えます。

AIバブル:投資の実態と懸念の高まり

 AIバブルの中心には、AI開発に必要なチップの主要生産者であるNvidiaが位置しています。同社は2025年10月末までの3カ月間で570億ドルという記録的な売上を報告しました。この数字は、AI投資が単なる投機ではなく、実際に巨額の資金が動いている証拠として受け止められています。

 しかし、すべての投資家がこの楽観論を共有しているわけではありません。2008年の世界金融危機における米国住宅市場の崩壊を予測した投資家は、現在のAI投資に対して特に批判的な立場を取っています。懸念を象徴するのが、金融危機時に注目を集めた「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」という金融商品の再登場です。当時は住宅ローンの債務不履行リスクに対する保険として使われましたが、現在はAIインフラ建設のために調達した債務の返済不履行リスクに対するヘッジとして利用されています。

 クレジット・デフォルト・スワップは、債券の発行者が債務を返済できなくなるリスクに対する保険の一種です。この金融商品が再び注目されているということは、AIへの投資が自己資金だけでなく、借入によって賄われるようになり、返済不履行のリスクが高まっていることを示唆しています。

 Googleのスンダー・ピチャイCEOは最近、AIバブルが崩壊した場合、「どの企業も免れることはできない」と警告しました。多くの企業が経営難に陥るか倒産する可能性があり、数十億ドルを投じて建設されたデータセンターが稼働できなくなる「座礁資産」となる可能性も指摘されています。

暗号資産バブル:AIとの連動性

 暗号資産市場、特にビットコインの価格変動は、AI関連の不安と密接に連動していることが明らかになっています。AIバブルへの懸念が高まると、より投機的な性格の強い暗号資産への投資意欲が減退する傾向が観察されています。

 両者の直接的なつながりも存在します。一部の企業は、ビットコインのマイニング(採掘)事業からAIデータセンターの建設へと事業を転換しています。これは、同様の電力インフラや技術的基盤を活用できるためです。

 興味深いのは、ビットコインの下落パターンが他の資産の下落を予測する指標として機能する可能性が指摘されている点です。つまり、ビットコインの主要な価値は、投資対象としてではなく、市場全体のリスク感知センサーとしての役割にあるという見方です。

 暗号資産への投資は、かつてはごく限られた投資家の領域でしたが、現在では一般的な投資ポートフォリオの主流要素となっています。さらに、少数ではあるものの、国家レベルでビットコインを準備資産として保有する動きも出ています。このため、暗号資産バブルの崩壊は、より広範な経済的影響をもたらす可能性があります。

債務バブル:最も深刻な懸念

 3つのバブルの中で最も懸念されているのが債務バブルです。World Economic Forumによれば、世界各国の政府が積み上げた公的債務は2024年に100兆ドルを突破しました。この増加ペースは、パンデミック前よりも加速しています。

 債務問題の深刻さは国によって異なります。ケニアでは、政府収入の半分以上がローンの返済に充てられている状況です。一方、米国の債務負担は、かつて財政危機で知られたイタリアやギリシャの水準を上回る軌道にあると国際通貨基金(IMF)の数字が示しています。

 民間債務を含めると、全世界の債務総額は世界経済全体の生産高の3倍以上に達しています。この民間債務の増加要因の一つが、AIインフラ建設のための借入です。AI開発に最も積極的な米国の4社は、2025年9月初旬以降だけで約900億ドル相当の投資適格債券を発行しています。

 投資適格債券とは、信用格付け機関から比較的高い評価を受けた、デフォルト(債務不履行)リスクが低いとされる債券のことです。企業が大規模なプロジェクトのために資金を調達する一般的な手段ですが、900億ドルという規模は極めて大きく、AIへの期待の大きさと同時にリスクの大きさも示しています。

 企業が主に自社の事業収益を使ってAI関連の投資を行っていた時期には、バブルに関する議論は抑制されていました。しかし、大規模な借入によってAI投資が賄われるようになると、バブル監視者たちは警戒を強めました。この債務調達のコストは禁止的な水準になる可能性があります。また、債券を購入した投資家が元本を回収できないリスクに対する保険コスト(これもCDSで測定されます)も問題になっています。ある企業の債券に対するCDS価格は最近、2008年に記録した水準に近づきました。2008年は、多くの投資家にとって悪い記憶を呼び起こす年です。

 それでも建設ラッシュは続いています。現在、AIとデジタル経済を支えるデータセンターは世界に約12,000か所あると推定されており、そのほぼ半数が米国にあります。この地理的な偏りに対処するため、さらなる建設が進められています。欧州連合(EU)は、新たなAI「ギガファクトリー」に200億ユーロを投じる計画を発表しました。

欧州の慎重なアプローチ:祝福となる可能性

 興味深いことに、欧州での迅速な建設展開を妨げている要因が、実際には恩恵となる可能性が指摘されています。あるファンドマネージャーは最近、慎重なペースで進めている地域は「潜在的な供給過剰バブル」から保護される可能性があると述べています。

 この見方は、短期的な競争優位性よりも、長期的な持続可能性を重視する考え方と言えます。急速に建設を進めることで、需要を大きく上回る供給が生まれ、投資が無駄になるリスクがあります。一方、需要の成長を見極めながら段階的に投資を進めることで、そのようなリスクを最小化できる可能性があります。

バブル崩壊の影響:短期の痛みと長期の利益

 公的債務バブルの崩壊には、ほとんど救いとなる要素が見出せません。金融危機という形で現れた場合、世界経済に深刻なダメージをもたらす可能性が高いと考えられます。

 しかし、特定の種類のバブルは、ある意味で「自己実現的予言」となりうると指摘されています。インフラへの巨額の支出は、初期の投資家の多くに利益をもたらさないかもしれませんが、そのタイプのインフラへの依存を実質的に保証します。限られた期間の痛みと混乱の後に、持続的な価値が生まれるというパターンです。

 19世紀の英国鉄道ブームでも、多くの金融投機家が損失を被りましたが、建設された鉄道網そのものは、その後の英国経済の発展に不可欠なインフラとなりました。同様に、たとえAIバブルが崩壊したとしても、建設されたデータセンターや開発された技術は、将来の経済活動の基盤として機能し続ける可能性があります。

 ただし、この楽観的な見方には重要な前提があります。それは、構築されたインフラが実際に有用であり、将来の需要に応えられるものであることです。過剰な投資や誤った方向への投資は、長期的な価値を生み出さない可能性もあります。

投資家の動向:金への逃避

 不確実性が高まる中、投資家の一部は伝統的な安全資産である金に注目しています。ボラティリティ(価格変動)に対する伝統的なヘッジ手段である金の価格は、2026年に過去最高値を更新すると予測されています。

 この動きは、AIや暗号資産といった新しい技術への投資に対する不安が、投資家の間で広がっていることを示唆しています。金は何千年もの間、価値の保存手段として機能してきた資産であり、デジタル技術が支配する現代においても、その役割は変わっていないようです。

まとめ

 World Economic Forumが指摘する「トリプルバブル」は、AI、暗号資産、債務という3つの領域が相互に影響し合いながら膨張している現象です。これらのバブルが同時に崩壊した場合、世界経済に深刻な影響を及ぼす可能性がありますが、一方で、特にAIインフラへの投資は、長期的には経済の基盤となる可能性も秘めています。2026年1月にダボスで開催される世界経済フォーラム年次総会では、この問題がどのように議論されるのか、注目が集まります。

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