はじめに
現代のティーンエイジャーは、かつてないほどテクノロジーと密接な関係を築いています。その中でも、対話型AI、いわゆる「AIコンパニオン」の利用が急速に広がっています。本稿では、米国の非営利団体Common Sense Mediaの調査結果を報じたNPR(米国公共ラジオ)の記事「Most teens have used AI to flirt and chat — but still prefer human interaction」をもとに、ティーンエイジャーのAI利用の実態、その背景にある期待と、専門家が指摘する懸念点について解説していきます。
参考記事
- タイトル: Most teens have used AI to flirt and chat — but still prefer human interaction
- 発行元: NPR (National Public Radio)
- 発行日: 2025年7月20日
- URL: https://www.npr.org/2025/07/20/nx-s1-5471268/teens-ai-friends-chat-risks

要点
- 米国のティーンエイジャーの約4分の3が、AIコンパニオン(対話型AI)を利用した経験がある。
- 利用者の半数以上(52%)は、月に数回以上利用する定常的なユーザーである。
- 主な利用目的は娯楽や好奇心であるが、3分の1は深刻な問題を人ではなくAIに相談した経験を持つ。
- 多くのティーン(80%)は、AIとの交流よりも人間との友情を優先すると回答しており、人間との会話により満足感を得ている。
- 一方で、個人情報の共有、AIによる不快な言動、依存性といった無視できないリスクも明らかになっている。
- 調査機関は、これらのリスクを考慮し、18歳未満のAIコンパニオン利用には警鐘を鳴らしている。
詳細解説
ティーンに広がる「AIコンパニオン」とは?
本稿で扱う「AIコンパニオン」とは、単に質問に答えたり、情報を検索したりするAIアシスタントとは異なります。これは、ユーザーとテキストや音声で会話し、ロールプレイングを楽しんだり、悩み相談に乗ってくれたりする、いわば「デジタル上の友人やキャラクター」です。記事では、CHAI、Character.AI、Nomi、Replikaといった具体的なサービス名が挙げられています。いつでもどこでも、判断されることなく話を聞いてくれる存在として、ティーンエイジャーにとって魅力的な選択肢となりつつあります。
調査で明らかになった利用実態
Common Sense Mediaによる全米を対象とした調査では、驚くべき実態が明らかになりました。米国のティーンエイジャーのほぼ4分の3が、恋愛相談や雑談といった目的で、少なくとも一度はAIツールを使用したことがあると回答したのです。さらに、52%、つまり半数以上が月に数回以上利用する「定常的なユーザー」でした。
調査責任者であるマイケル・ロブ氏は、「彼らは娯楽目的や好奇心からAIを使っています」と述べています。実際に、ティーンエイジャーはAIと過ごす時間よりも、現実の友人と過ごす時間の方が長く、人間との会話に高い満足感を見出しています。しかし、その表面下にはいくつかの懸念すべき点が見られると、同氏は指摘します。
人間関係を補完するAI、その光と影
なぜティーンエイジャーはAIコンパニオンに惹かれるのでしょうか。その背景には、思春期特有の心理が関係していると考えられます。誰にも言えない悩みを打ち明けたい、でも身近な人には相談しにくい。そんな時、24時間いつでも話を聞いてくれて、決して否定しないAIは、心強い存在に映るのかもしれません。
しかし、この利便性は諸刃の剣でもあります。調査では、以下のようないくつかの懸念点が浮き彫りになりました。
- 深刻な問題の相談相手としてのAI
調査対象のティーンの3分の1が、深刻な事柄について人間ではなくAIコンパニオンに相談した経験があると回答しました。思春期は、他者とのコミュニケーションを通じて社会性や感情のコントロールを学ぶ非常に重要な時期です。この時期に人間との対話をAIで代替してしまうことが、長期的にどのような影響を及ぼすかは未知数です。 - 個人情報漏洩のリスク
ティーンの4分の1が、自分の名前や現在地といった個人情報をAIに共有したことがあると答えています。多くのAIコンパニオンは、ユーザーからデータを収集するように設計されています。また、13歳以上を対象と謳っていても、年齢確認は自己申告のみで容易に回避できるため、低年齢の子供たちがリスクに晒される可能性があります。 - 不快な体験と依存性
3分の1のティーンが、AIとの対話中にAIの言動によって不快な思いをしたことがあると報告しています。加えて、これらのAIプラットフォームは、ユーザーの関心を引きつけ、できるだけ長く利用させるようなデザインがされており、依存につながる危険性も指摘されています。
それでも失われない、人間への信頼
多くの懸念点がある一方で、ティーンエイジャーがAIを盲信しているわけではないことも、この調査は示しています。回答者の約半数は、AIが提供する情報やアドバイスを信頼していないと答えています。
また、80%という大多数が、AIとのインタラクションよりも現実世界での人間の友情を優先すると明確に回答していることです。この結果は、まだ人との繋がりに多くの人が価値を見出しているといえます。
まとめ
本稿では、NPRの記事を基に、米国のティーンエイジャーにおけるAIコンパニオンの利用実態について解説しました。AIコンパニオンは、娯楽や精神的なサポートのツールとしてティーンに受け入れられつつある一方で、個人情報、不適切なコンテンツ、依存性といった深刻なリスクを内包しています。
ティーンエイジャーの多くがデジタル世界で安全に過ごすためには、保護者や教育者がこうした新しいテクノロジーの実態を正しく理解し、その利点と危険性について子どもたちと対話し、健全な付き合い方を導いていくことが不可欠といえます。