はじめに
本稿では、ローマ教皇レオ14世が自身の人工知能(AI)アバターを作成する計画を拒否した件について、その背景にある懸念や、AI開発現場に与える影響、現代社会におけるテクノロジーと倫理の問題を解説します。
参考記事
- タイトル: Leo rejects plan for AI pope
- 著者: Elena Giordano
- 発行元: POLITICO
- 発行日: 2025年9月19日
- URL: https://www.politico.eu/article/pope-leo-rejects-plans-for-an-ai-pope/


要点
- ローマ教皇レオ14世は、自身のAIアバター、いわゆる「AI教皇」を作るという提案を許可しなかった。
- 教皇は、「アバターによって人格が代理されるべきではない人物がいるとすれば、その筆頭は教皇だろう」と述べ、その役割の人間的な重要性を強調した。
- AIが人間のアイデンティティ、雇用、そして人間の尊厳に与える潜在的なリスクについて、深い懸念を表明した。
- この問題は、テクノロジーの進歩と倫理的配慮のバランスをどう取るかという、現代社会全体の課題を浮き彫りにするものである。
詳細解説
「AI教皇」計画とは
誰でも個人的にローマ教皇に謁見できる機会を提供するため、教皇のAIアバターを作成するという提案が行われました。この「AI教皇」は、利用者からの質問に対して対話形式で答えを返す、というものでした。しかし、教皇レオ14世はこの提案を明確に拒否しました。
教皇が計画を拒否した本質的な理由
教皇がこの提案を拒否した理由は、技術的な問題ではありません。インタビューの中で、教皇は次のように語っています。
「アバターによって代理されるべきではない人物がいるとすれば、そのリストの上位に教皇がいると私は言いたい」
この言葉は、ローマ教皇という役割が、単に情報を発信する存在ではなく、人間的な温かさ、共感、そして精神的なつながりに基づくものであることを示唆しています。AIアバターでは、その本質的な部分を再現することはできないという強い信念がうかがえます。これは、デジタル技術がどこまで人間の領域に立ち入るべきか、という根源的な問いを投げかけています。
AIがもたらす広範な社会的懸念
教皇の懸念は、自身のAIアバターの問題にとどまりません。彼は2025年5月に就任して以来、AIが人類、特に子どもや若者の幸福に与える影響について繰り返し懸念を表明してきました。
特に重要なのは、雇用と人間の尊厳に関する指摘です。教皇は「人間の尊厳は、我々が行う仕事と非常に重要な関係にある」と述べています。もし社会のあらゆる仕事が自動化され、一部の人間だけが富を独占するようになれば、非常に大きな社会問題が発生すると警告しています。
また、教皇はイタリアのメローニ首相との電話会談で、「倫理的で人類に奉仕する人工知能の開発」に向けて協力していくことを話し合っており、技術開発における倫理の重要性を訴えています。
なぜ教皇の言葉は重要なのか?欧米社会への影響力
日本では、ローマ教皇の発言がなぜAIのようなテクノロジー分野にまで影響を与えるのか、少し分かりにくいかもしれません。しかし、カトリック教会のトップである教皇は、全世界に13億人以上いる信徒だけでなく、国際社会全体に対して非常に大きな道徳的・倫理的な影響力を持っています。
特に、AI開発の中心地である欧米諸国では、文化や価値観の基盤でもあり、教皇の言葉は信徒以外の人々や政策立案者、そしてテクノロジー企業の開発者たちの多くにも真剣に受け止められます。少なくとも市民への影響を考慮した時、無視して進めることは難しいといえます。結果として、開発の方向性や法規制の議論にも影響を与える可能性があります。
まとめ
今回、ローマ教皇レオ14世が「AI教皇」の計画を拒否したことは、単なる一宗教指導者の判断として片付けられる問題ではありません。急速に進化するAI技術に対して不安を感じている多くの人の代弁でもあるといえます。AI開発者は、発言が業界に与える影響や、利用者側の懸念を把握しておく必要があります。

