はじめに
本稿では、Adobeの公式ブログで2025年9月25日に発表された内容をもとに、画像編集ソフトウェアの定番であるAdobe Photoshopの新機能について解説します。
今回の発表のは、Photoshop (Beta版) に搭載されている人気のAI機能「生成塗りつぶし(Generative Fill)」において、Adobe独自のAIである「Firefly」に加え、新たにGoogleの「Gemini」などのAIモデルが選択可能になった点です。これにより、クリエイターは自身の目的に合わせて最適なAIを使い分けることが可能になり、表現の幅が大きく広がります。
参考記事
- タイトル: Photoshop Beta expands Generative Fill — More AI models, more possibilities
- 発行元: Adobe Blog
- 発行日: 2025年9月25日
- URL: https://blog.adobe.com/en/publish/2025/09/25/photoshop-beta-expands-generative-fillmore-ai-models-more-possibilities
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要点
- Photoshop (Beta版) の「生成塗りつぶし」機能が拡張され、複数のAIモデルから選択できるようになった。
- 従来のAdobe Fireflyに加え、新たにGoogleの「Gemini 2.5 Flash Image (Nano Banana)」とBlack Forest Labsの「FLUX.1 Kontext [pro]」が統合された。
- 各モデルはそれぞれ異なる強みを持ち、Geminiは「スタイリッシュな表現」、FLUX.1は「文脈の正確性」、Fireflyは「商用利用に適した写実性」に優れる。
- ユーザーはプロジェクトの目的に応じて最適なAIモデルを使い分けることで、より意図に近いクリエイティブな結果を得られる。
- これらの機能はPhotoshopの強力な編集ツールとシームレスに連携し、AIによる生成から手動での精密な調整まで、一貫したワークフローの中で完結する。
詳細解説
そもそも「生成塗りつぶし」とは?
まず前提として、Photoshopに搭載されている「生成塗りつぶし」機能について簡単にご紹介します。これは、画像内の一部を選択し、「青い蝶を追加して」「この人物を消して」といったように、自然言語(日本語にも対応)で指示を出すだけで、AIがその内容を理解し、画像を自動で生成・編集してくれる機能です。不要なオブジェクトの削除、画像の拡張、あるいは全く新しいオブジェクトの追加などを、簡単かつ自然な仕上がりで実現します。この機能の中核を担っているのが、Adobe Fireflyという画像生成AIでした。

今回のアップデートの核心:AIの「マルチモデル化」
今回のアップデートで最も重要な点は、この「生成塗りつぶし」で利用できるAIモデルが、Adobe Fireflyだけでなくなったことです。新たに以下の2つのモデルが加わり、ユーザーは合計3種類のAIモデルから、目的に合わせて最適なものを選択できるようになりました。
- Gemini 2.5 Flash Image Model (Nano Banana) : Googleが開発したAIモデル。
- FLUX.1 Kontext [pro] : AI研究企業のBlack Forest Labsが開発したモデル。
なぜ複数のモデルが必要なのでしょうか。それは、AIモデルごとに得意な表現や特性が異なるためです。例えば、写実的な表現が得意なモデル、イラストやグラフィックのような表現が得意なモデルなど、様々です。料理人が食材やメニューによって包丁を使い分けるように、クリエイターも作りたいもののイメージに合わせてAIモデルを使い分けることで、より質の高い、あるいは意図した通りの結果を効率的に得られるようになります。

各AIモデルの特長と使い分け
それでは、今回利用可能になった3つのAIモデルのそれぞれの特長と、具体的な使い分けの例を見ていきましょう。
1. Gemini 2.5 Flash Image Model (Nano Banana)
Googleによって開発されたこのモデルは、スタイリッシュな要素、グラフィック的なディテール、そして想像力豊かなシーンの追加に優れています。例えば、ポスターデザインにユニークなタイポグラフィや装飾を加えたり、ファンタジーの世界のような非現実的な要素を写真に合成したりする場合に力を発揮します。創造性を刺激するような、アーティスティックな表現を求める場合に適しています。
2. FLUX.1 Kontext [pro]
Black Forest Labsが開発したこのモデルは、コンテキスト(文脈)の正確性、遠近感(パース)、そして周囲の環境との調和を重視して設計されています。例えば、商品のモックアップ画像を作成する際に、商品を置く棚や背景の小物などを、正しい遠近感と自然な光の当たり方で生成したい場合に最適です。生成された要素が元画像に違和感なく溶け込む、地に足の着いたリアルな合成を得意とします。
3. Adobe Firefly Image Models
従来から搭載されているAdobe独自のモデルです。Adobe Stockの豊富な画像などで学習しており、著作権的にクリーンで商用利用にも安全であることが最大の特長です。また、写実的な品質(リアリティ)に定評があり、生成される画像の構造やスタイル、カメラアングルなどを細かく制御できます。商用プロジェクトで安心して利用できる、高品質でリアルな画像を生成したい場合の第一選択肢となります。
Photoshop連携によるシームレスな制作体験
今回のアップデートのもう一つの重要な点は、これらの多様なAIモデルを、使い慣れたPhotoshopの環境内で直接利用できることです。
例えば、まずGeminiモデルを使って画像に斬新なオブジェクトを生成し、次にそのオブジェクトが乗っているレイヤーに対して、Photoshopのマスク機能や調整レイヤーを使って色味や質感を微調整する、といった作業がスムーズに行えます。AIによるアイデア出しや大まかな生成と、人間によるピクセル単位での精密な編集作業が分断されることなく、一連のクリエイティブな流れの中で完結します。これにより、思考を中断することなく、アイデアを素早く形にすることが可能になります。
まとめ
今回、Photoshop (Beta版) の「生成塗りつぶし」機能にGoogle GeminiとFLUX.1 Kontext [pro]が統合されたことは、単に選択肢が増えたというだけでなく、Photoshopがより柔軟なクリエイティブプラットフォームへと進化したことを意味します。
クリエイターは、プロジェクトの目的や求める表現に応じて、最適なAIアシスタントを自ら選べるようになりました。商用向けのリアルな画像生成から、アーティスティックで実験的な表現まで、あらゆるニーズに対応できると言えるでしょう。
これらの機能は現在、Photoshop (Beta) アプリで利用可能です。