はじめに
本稿では、米CNBCが報じた「Perplexity launches AI-powered web browser for select group of subscribers」という記事を基に、AI検索エンジンの分野で注目を集めるスタートアップ企業Perplexity AIが発表した新しいAI搭載Webブラウザ「Comet」について解説します。
公式サイト
Perplexity AI : https://comet.perplexity.ai
引用元記事
- タイトル: Perplexity launches AI-powered web browser for select group of subscribers
- 著者: Ashley Capoot
- 発行元: CNBC
- 発行日: 2025年7月9日
- URL: https://www.cnbc.com/2025/07/09/perplexity-launches-ai-powered-web-browser-for-select-subscribers.html


要点
- AI検索エンジンのスタートアップPerplexity AIが、AIを搭載した新しいWebブラウザ「Comet」を発表した。
- Cometは、Slackのような外部の業務用アプリケーションと連携し、音声やテキストによる複雑な対話が可能であることが特徴である。
- 初期の利用は、月額200ドル(約3万円)の有料プラン「Perplexity Max」の加入者に限定されており、高度な機能を求めるプロフェッショナルや企業向けのサービスとして位置づけられている。
- これは、Perplexityが単なる検索エンジンから、より統合された「知性を増幅させる」ための情報アクセスプラットフォームへと進化しようとする戦略的な動きである。
詳細解説
Perplexity AIとは? – Googleとは違う「回答エンジン」
まず、今回新ブラウザを発表したPerplexity AIについて理解を深めましょう。Perplexity AIは、従来の検索エンジンとは一線を画す「回答エンジン」として知られています。
例えば、Googleで何かを検索すると、関連するWebサイトの「リスト」が表示されます。ユーザーはそのリストから自分でサイトを選び、情報を探す必要があります。一方、Perplexityに質問を投げかけると、AIがWeb上の情報を収集・要約し、自然な文章で直接的な「回答」を生成してくれます。さらに、その回答の根拠となった情報源(Webサイト)へのリンクも示されるため、情報の信頼性を確認しやすいのが大きな特徴です。
この革新的なアプローチから「Googleキラー」として大きな注目を集めており、最近では140億ドル(約2兆円)という巨大な評価額での資金調達や、Meta(旧Facebook)からの買収提案があったとも報じられるなど、今最も勢いのあるAIスタートアップの一つです。
新ブラウザ「Comet」の核心 – 何が新しいのか?
今回発表された「Comet」は、単にPerplexityの検索機能が使えるブラウザというだけではありません。ブラウザという土台そのものをAIで再設計し、情報収集のあり方を根本から変えようとする野心的な試みです。その重要なポイントは以下の通りです。
- エンタープライズアプリとの連携: Cometの最も革新的な機能の一つが、Slackのような外部の業務用アプリケーションと連携できる点です。これにより、例えば「先週のプロジェクトAに関するSlackでの議論を要約して、関連する最新の業界ニュースを探して」といった、社内情報とWeb上の公開情報を横断するような複雑な指示が可能になると考えられます。これは、日々の業務効率を劇的に向上させる可能性を秘めています。
- 高度な対話能力: 音声とテキストの両方で、より複雑で文脈に沿った質問に対応できます。これは、単にキーワードを検索するのではなく、まるで優秀なアシスタントと対話するように情報収集が進められることを意味します。「この技術のメリットとデメリットを比較して、初心者向けの解説記事をリストアップして」といった、多角的な要求にも応えられるようになります。
月額200ドルの意味 – Perplexityの戦略
Cometが最初に月額200ドルという高額な「Perplexity Max」プランの加入者向けに提供される点は、同社の戦略を読み解く上で非常に重要です。
これは、広告収入を主な収益源とするGoogleのように、広く一般ユーザーを獲得するモデルとは一線を画すものです。Perplexityは、情報の正確性や効率性を重視し、そのためにはコストを惜しまないプロフェッショナルや企業を明確なターゲットに据えています。
まずは高付加価値なサービスとして提供し、そこで得られたフィードバックを基に機能を磨き上げ、AIがもたらす価値を最大限に高めようという狙いがあると考えられます。これは、巨大な既存企業と正面から競争するのではなく、異なる土俵で独自の地位を築こうとする賢明な戦略と言えるでしょう。
著作権問題と今後の展望
Perplexityは過去に、AIが生成した回答がメディア記事の内容と酷似しているとして、コンテンツの盗用ではないかとの批判を受けました。この問題に対し、同社は出版社と提携し、トラフィックや収益を分配するモデルを導入するなどの対策を進めています。
AIによる情報生成と、著作権や情報の信頼性をどう両立させるかという問題は、PerplexityだけでなくAI業界全体の大きな課題です。同社はブログ投稿で「正確で信頼できるAIの構築に絶え間なく注力する」と述べており、この課題に真摯に取り組む姿勢が、今後の成長を左右する重要な鍵となります。
まとめ
今回発表されたPerplexityのAIブラウザ「Comet」は、単なる新製品の登場に留まりません。これは、私たちが日々行う「検索」という行為、ひいては情報との関わり方そのものを変革する可能性を秘めた、野心的な挑戦です。
検索エンジンからAI搭載ブラウザへ、そして外部アプリとの連携へとサービスを拡張することで、Perplexityは同社の掲げる「人間の知性を増幅させる」という目標の実現にまた一歩近づきました。Googleという巨人が支配する市場で、この新しい挑戦がどのような未来を切り開くのか、今後の動向から目が離せません。