[ニュース解説]AI新興企業Perplexity、Google Chromeへの巨額買収提案:その狙いと業界の反応

目次

はじめに

 本稿では、米国の新興AI企業であるPerplexity AIが、世界で最も利用されているウェブブラウザ「Google Chrome」に対して驚きの買収提案を行ったニュースについて、解説します。

参考記事

要点

  • AIスタートアップのPerplexity AIが、Google Chromeに対し345億ドルの買収提案を行った 。
  • Perplexity AIは、Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏や半導体大手のNvidiaなどが支援する企業である 。
  • 多くの専門家は、この提案をChromeの真の価値よりはるかに低い「スタント(売名行為)」と見ており、資金調達計画も不明確であると指摘している 。
  • この提案は、Googleが米国での独占禁止法訴訟の結果、検索事業の分割を命じられる可能性があるというタイミングで行われた 。
  • Perplexity AIは、買収が実現した場合でもChromeのデフォルト検索エンジンはGoogleを維持し、ブラウザの基盤であるオープンソースプロジェクト「Chromium」のサポートも継続すると表明している 。

詳細解説

Perplexity AIとはどのような企業か?

 Perplexity AIは、OpenAIのChatGPTやGoogleのGeminiなどと競合する、生成AI分野で注目を集めるスタートアップ企業です 。創業3年ほどの新しい企業ですが、Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏や半導体大手のNvidiaといった著名な投資家から支援を受けています 。CEOは、GoogleやOpenAIでの勤務経験があるAravind Srinivas氏です 。

 同社はすでに「Comet」というAI搭載のブラウザをリリースしており 、Web検索と対話型AIを融合させたサービスを展開しています。一方で、メディア企業からは著作権侵害を指摘されるなどの課題も抱えています 。

買収提案の具体的な内容と狙い

 Perplexity AIは、Googleの親会社であるAlphabetのCEO、サンダー・ピチャイ氏に送付した書簡の中で、今回の買収提案が「オープンウェブ、ユーザーの選択、そしてChromeを選んだすべての人々の継続性への重要なコミットメント」であると述べています 。また、推定30億人が利用するChromeを独立した運営者に移すことが公共の利益になると主張しています 。

 注目すべきは、Googleへの配慮とも取れる提案内容です。

  • 買収後も、GoogleをChromeのデフォルト検索エンジンとして維持する(ただしユーザーは設定変更が可能) 。
  • Chromeだけでなく、Microsoft EdgeやOperaなど多くのブラウザの基盤となっているオープンソースプラットフォーム「
    Chromium」の維持とサポートを継続する 。

 この「Chromium」のサポート継続は、技術的に非常に重要なポイントです。Chromiumはウェブブラウザ開発における一大エコシステムを形成しており、その維持を約束することで、Perplexity AIはウェブ全体の安定性にも貢献する姿勢を示そうとしていると考えられます。

なぜ今、この提案なのか? – 背景にあるGoogleの独占禁止法問題

 この買収提案の背景には、Googleが米国で直面している深刻な司法リスクがあります。Googleは現在、検索エンジンとオンライン広告市場での支配的な地位を巡り、2つの独占禁止法訴訟の対象となっています 。

 特に、米連邦判事が今月中に下す可能性のある判決では、Googleに対して検索事業の分割を命じる可能性が指摘されています 。Google側は、Chromeをスピンオフ(分離・独立)させるという考えは「前例のない提案」であり、消費者とセキュリティに害を及ぼすと強く反発しています 。

 Perplexity AIの提案は、このような司法判断が下される可能性を見越して、Chromeの新たな受け皿として名乗りを上げた、戦略的な動きと見ることができます。

専門家の厳しい見方と課題

 しかし、多くの専門家はこの提案の実現可能性に懐疑的です。第一に、資金調達計画が全く不透明である点が挙げられます 。Perplexity AIの2024年7月時点での企業価値は180億ドルと推定されており 、提案額である345億ドルをどのように調達するのか、具体的な計画は示されていません 。ある専門家は「大胆さは評価するが、これは未承諾の提案であり、まだ資金調達もされていない」と指摘しています 。

 第二に、提案額がChromeの真の価値に見合っていないという見方が大勢です。あるテクノロジー業界の投資家は、この動きを「スタント(売名行為)」であり、Chromeが持つ比類なきデータとリーチを考えれば「真の価値にはほど遠い」と断じています 。また、別の専門家はChromeの価値を「提案額の10倍かそれ以上かもしれない」と見積もっています 。

まとめ

 今回、本稿で解説したPerplexity AIによるGoogle Chromeへの買収提案は、その大胆さで業界を驚かせましたが、資金調達の不確実性や提案額の低さから、現時点では実現可能性が低い「スタント」と見なされています。

 しかしこの一件は、AI時代の新たな競争の幕開けを象徴する出来事とも言えます。新興のAI企業が、巨大テック企業の牙城であるブラウザ事業の支配権に野心を示したことは事実です。また、Googleが抱える独占禁止法という大きな問題が、このような予期せぬ形での挑戦を誘発する土壌となっていることも浮き彫りになりました。今後の巨大テック企業とAIスタートアップの動向を占う上で、非常に興味深い事例と言えるでしょう。

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