はじめに
Axiosが2025年12月13日に報じた記事では、OpenAIがAI経済全体の中心的存在となり、同社の動向が他企業や投資家に重大なリスクをもたらす可能性があると指摘されています。本稿では、この報道をもとに、OpenAIが直面する経営課題と、同社の変調が市場全体に与える可能性がある連鎖的影響について解説します。
参考記事
- タイトル: OpenAI isn’t too big to fail. It’s bigger.
- 著者: Megan Morrone
- 発行元: Axios
- 発行日: 2025年12月13日
- URL: https://www.axios.com/2025/12/13/open-ai-too-big-to-fail
要点
- OpenAI CEOサム・アルトマンは、Googleからの競争圧力、訴訟、1兆ドル超の支出約束といった複数の課題に直面している
- OpenAIはAI経済において極めて中心的な存在であり、同社の危機は他企業や投資家に重大なリスクをもたらす可能性がある
- OpenAIの需要減少はチップ注文の大幅削減を引き起こし、米国のGDP成長に寄与する設備投資の最大50%が停止する可能性がある
- チップを担保とした数十億ドル規模のローンが不良債権化するリスクも指摘されている
- アルトマンCEOは政府支援を明確に否定し、失敗すれば他社が市場を引き継ぐべきだと述べている
詳細解説
OpenAIが直面する経営課題
Axiosによれば、OpenAIは現在、上昇するコスト、激しい人材争奪戦、消費者戦略の不確実性という3つの主要課題に直面しています。Wall Street Journalの報道では、アルトマンCEOがChatGPTの改善とそれを支える新モデルの開発に会社の焦点を再調整していると伝えられています。
技術的な失敗の可能性は低いとされています。OpenAIは競争環境が厳しい中でもChatGPTの進化を続けており、技術面での進展は継続しています。しかし、一方で少数の企業間での複雑に絡み合った取引関係や、弱含みの労働市場の影響が、投資家の不安を引き起こし始めています。
AI経済におけるOpenAIの中心性
OpenAIとChatGPTは、AI技術を一般ユーザーと投資家の両方に広く認知させた存在です。ベンチャーキャピタリストでMIT研究員のPaul Kedrosky氏は、OpenAIの経済における個別の役割は「取るに足らないように感じられるべきだが、それは市場で起きていることの本質を大きく誤解している」と指摘しています。
同氏によれば、OpenAIの危機は「相互に絡み合った構造全体が完全に凍結する」という重大な混乱を引き起こす可能性があります。元国家安全保障副顧問でPGIMグローバルマクロ経済研究責任者のDaleep Singh氏も、「OpenAIが躓けば、AI分野全体の基盤が脆弱になる。金融の連鎖を考えなければならない」と述べています。
この中心性は、技術的優位性だけでなく、センチメント(市場心理)にも起因すると考えられます。OpenAIとChatGPTがAIという概念を大衆に浸透させ、今では頻繁に使わない人々の生活にも組み込まれています。
連鎖的な経済リスクの構造
Axiosが指摘する最も重大なリスクは、OpenAIの需要減少が引き起こす連鎖反応です。Singh氏によれば、MicrosoftやMetaは取り残されないためにチップを急いで購入しており、OpenAIが躓けば「チップを購入するFOMO(取り残されることへの恐怖)が消失する」と分析しています。
チップ注文の大幅削減は、今年の米国実質GDP成長を押し上げている数十億ドル規模の設備投資に実際の影響を与えます。Singh氏の試算では、「その最大50%が停止する可能性がある」とされています。
さらに、Nvidiaのチップは数十億ドル規模のローンの担保として機能しています。チップ需要が低下すれば担保価値も下落し、「ローンが不良債権化すれば、貸し手はかつての価値を持たない数十億ドル分の資産を抱えることになる」とSingh氏は警告しています。
この一連の連鎖は、AI分野への投資熱が単なる技術的進歩への期待だけでなく、市場心理や相互依存的な投資構造に支えられていることを示しています。
「大きすぎて潰せない」という議論
OpenAIの規模と他企業との深い金融的結びつきは、同社が「大きすぎて潰せない(too big to fail)」のではないかという懸念を引き起こしています。この議論は、OpenAI CFOのSarah Friar氏が先月、連邦政府の支援について言及したことで加速しました。
Singh氏は「大きすぎて潰せない」の定義を「政府が企業の破綻を許さないこと。なぜなら、それが経済を崩壊させ、経済的・政治的影響が大きすぎるから」と説明しています。しかし、同氏は政府が実際に支援に乗り出すとは考えておらず、その意味でOpenAIは「大きすぎて潰せない」企業ではないと見ています。
2008年の金融危機では、大手金融機関が「大きすぎて潰せない」として政府支援を受けた経緯があります。しかし、テクノロジー企業においてこの概念が適用されるかは議論の余地があると言えます。
アルトマンCEOの見解と市場の反応
アルトマンCEO自身は、政府支援の存在や要望を明確に否定しています。同氏はX(旧Twitter)上で「もし我々が失敗し、それを修正できなければ、失敗すべきだ。他の企業が良い仕事を続け、顧客にサービスを提供する。それが資本主義の仕組みであり、エコシステムと経済は問題ない」と述べています。
OpenAI広報担当のSteve Sharpe氏は、同社の強固な財務状況と、Khosla Ventures、Thrive Capital、a16z、Sequoia Capital、SoftBankなどを含む長い投資家リストに言及し、「我々が見ているすべてが、将来の軌道への自信を与えている」とコメントしています。
一方で、市場の反応は敏感です。OracleがOpenAI向けに建設しているデータセンターの一部が2027年から2028年に遅延する可能性があるという示唆だけで、金曜日にはテクノロジー株が動きました。これは、OpenAIに関連する情報が市場全体に与える影響の大きさを示しています。
まとめ
OpenAIは技術的には進化を続けていますが、その経済における中心的地位ゆえに、同社の動向は広範な連鎖的影響を持つ可能性があります。チップ需要、設備投資、担保価値という相互に結びついた構造の中で、OpenAIの変調は市場心理の変化を通じて実体経済に波及しうると考えられます。ただし、アルトマンCEOの発言や投資家の支援を見る限り、現時点で同社が深刻な危機に直面しているという証拠はありません。AI経済の成熟とともに、このような相互依存関係がどう展開していくのか、注視が必要だと思います。
