はじめに
OpenAIが2025年12月11日、創業10周年を迎えました。同社CEOのSam Altman氏は公式ブログで、15人の小さなチームから始まった挑戦が、ChatGPTという世界を変える技術へと発展した軌跡を振り返り、今後10年でsuperintelligenceの実現がほぼ確実と考えていることを明らかにしました。本稿では、この発表内容をもとに、OpenAIの歩みと今後の展望について解説します。
参考記事
- タイトル: Ten years
- 著者: Sam Altman
- 発行元: OpenAI
- 発行日: 2025年12月11日
- URL: https://openai.com/index/ten-years/
要点
- OpenAIは2015年12月11日に設立を発表し、2016年1月に正式に活動を開始した
- 2017年にDota 1v1、unsupervised sentiment neuron、reinforcement learning from human preferencesという3つの基礎的な研究成果を発表し、スケールアップの方向性を確立した
- 2022年にChatGPTをローンチし、その後GPT-4を発表したことで、AGIが現実的な目標として認識されるようになった
- 技術を早期に公開して社会と共進化させる「iterative deployment」という戦略を採用し、これが業界標準となった
- 今後10年以内にsuperintelligenceを構築できる可能性がほぼ確実であるとSam Altman氏は考えている
詳細解説
OpenAIの創業期:15人から始まった挑戦
OpenAIは2015年12月11日に設立が発表され、実際の活動は2016年1月初旬に開始されました。Sam Altman氏によれば、当時は「15人のオタクが座って、どうやって進歩を遂げるかを考えていた」状態だったとのことです。
創業期の特徴として、Altman氏は「極めて楽観的で幸せそうな表情」を振り返っています。当時は世間から大きく誤解されていたものの、深い確信と、成功の可能性が小さくても重要だという意識、優秀な人材、そして明確な焦点があったと述べています。
ディープラーニングは明らかに優れた技術でしたが、実世界での運用経験なしに開発を進めることは適切ではないと考え、さまざまな取り組みを通じて経験を積んでいったとのことです。この時期から、実用的な方法でAIを安全かつロバストにするための技術的な取り組みを先駆的に行い、そのDNAは現在まで受け継がれていると考えられます。
2017年の3つの基礎的成果
OpenAIによれば、2017年には3つの重要な研究成果が得られました。
1つ目は、Dota 1v1の結果です。これは強化学習を新たなスケールレベルまで押し上げたものでした。2つ目は、unsupervised sentiment neuronで、言語モデルが単なる構文ではなく、明確に意味論を学習していることを示しました。3つ目は、reinforcement learning from human preferences(人間のフィードバックからの強化学習)の結果で、AIを人間の価値観に整合させるための初歩的な道筋を示しました。
この時点でイノベーションは完了には程遠かったものの、これらの成果をそれぞれ大規模な計算能力でスケールアップする必要があることが分かったとのことです。この判断が、その後の発展の基盤となったと考えられます。
ChatGPTとGPT-4:AGIが現実的な目標に
OpenAIは3年前(2022年)にChatGPTをローンチしました。世界が注目し、その後GPT-4を発表すると、突然AGIはもはや検討するのが非現実的なものではなくなったとAltman氏は述べています。
この3年間は「極めて集中的で、ストレスと重い責任に満ちていた」とのことです。この技術は、かつてないスケールとスピードで世界に統合されました。これには、即座に新しい能力を構築しなければならない極めて困難な実行が必要だったと振り返っています。
何もない状態から短期間で大規模な企業へと成長することは容易ではなく、毎週数百の決定を下す必要があったとのことです。Altman氏は、チームが多くの決定を正しく下したことを誇りに思う一方、間違った決定の多くは自分の責任であると述べています。
Iterative deployment:社会との共進化戦略
OpenAIによれば、AIを世界に最大限の利益をもたらす方法について検討する中で、「iterative deployment(反復的展開)」という戦略を開発しました。これは、技術の初期バージョンを世界に投入し、人々が直感を形成し、社会と技術が共進化できるようにするというアプローチです。
この戦略は当時かなり物議を醸したものの、Altman氏はこれまでで最高の決定の1つであり、業界標準になったと考えています。
この手法は、AI技術の急速な発展において、技術開発と社会的受容の間のギャップを埋める上で重要な役割を果たしたといえ、早期に技術を公開することで、倫理的・社会的な課題を実際の使用状況の中で発見し、対処できるという利点があると考えられます。
現在の到達点と今後の展望
OpenAIによれば、創業から10年が経過した現在、「最も難しい知的競争において、最も優秀な人々の大多数よりも優れた成果を出せるAI」を実現しています。
世界はこの技術を使って素晴らしいことを成し遂げており、来年にはさらに素晴らしいことが期待されるとのことです。また、世界はこれまでのところ潜在的なマイナス面を軽減することにも成功しており、それを継続する必要があるとAltman氏は述べています。
Altman氏は、研究と製品のロードマップ、そしてミッションへの全体的な見通しについて、これまで以上に楽観的に感じているとのことです。さらに10年後には、superintelligence(超知能)を構築することがほぼ確実と考えています。
未来については「奇妙に感じるだろう」と予測しています。ある意味では、日常生活や最も大切にしていることはほとんど変わらず、人々は機械が何をするかよりも他の人々が何をするかに焦点を当て続けるとのことです。しかし別の意味では、2035年の人々は「今では簡単には想像できないようなこと」ができるようになると考えています。
superintelligenceという概念は、人間の知能を大きく超えるAIシステムを指します。これが実現した場合、科学研究、医療、教育など、あらゆる分野で劇的な進歩が期待される一方、制御や安全性の確保が極めて重要な課題になると考えられます。
ミッション:AGIを全人類の利益に
Altman氏は、OpenAIのミッションは「AGIが全人類に利益をもたらすことを保証すること」であると改めて強調しています。まだ多くの作業が残っているものの、チームが進んでいる軌道を誇りに思っているとのことです。
人々が現在この技術で行っていることにおいて、すでに大きな利益が見られており、今後数年でさらに多くのことが来ると分かっているとのことです。
また、Altman氏は製品を信頼して使用し、素晴らしいことを成し遂げている人々や企業に感謝を表明しています。それがなければ、OpenAIは単なる研究室の技術に過ぎず、多くの場合、早期かつ不合理なほど高い確信を持って賭けをしてくれたユーザーや顧客がいなければ、この水準に到達できなかったとのことです。
まとめ
OpenAIは15人の小さなチームから始まり、10年間でAI業界を牽引する企業へと成長しました。2017年の基礎研究、2022年のChatGPTローンチ、そしてiterative deploymentという戦略を通じて、AGIの実現を現実的な目標にまで近づけています。Sam Altman氏は今後10年でsuperintelligenceの実現がほぼ確実と考えており、その影響は私たちの想像を超えるものになる可能性があります。同時に、全人類に利益をもたらすという使命の実現に向けて、安全性の確保と社会との共進化が重要な課題となっていくと思います。
