はじめに
OpenAIのCEOであるSam Altman氏が、AIの次の大きなブレークスルーとして「無限で完璧な記憶」の実現を挙げました。The Independentが2025年12月24日に報じたインタビューで、Altman氏は現在のAI企業が注力する推論能力の向上とは異なる方向性を示しています。本稿では、この発言の背景と、OpenAIが2026年に向けて取り組む記憶機能の強化について解説します。
参考記事
- タイトル: OpenAI boss Sam Altman predicts next big AI breakthrough
- 著者: Anthony Cuthbertson
- 発行元: The Independent
- 発行日: 2025年12月24日
- URL: https://www.the-independent.com/tech/openai-sam-altman-ai-breakthrough-chatgpt-b2890125.html
要点
- Sam Altman氏は、超人的なAIの実現に向けた次のブレークスルーとして「無限で完璧な記憶」の獲得を予測している
- 現在の多くのAI企業は大規模言語モデル(LLM)の推論能力向上に注力しているが、OpenAIは記憶機能の強化を重視している
- OpenAIは2026年に「ユーザーの人生のあらゆる詳細を記憶する」AI実現を目指している
- GoogleのGemini 3リリース後、OpenAIは「コードレッド」状態と報じられたが、Altman氏は影響を限定的と評価している
- ChatGPTの市場シェアは約71%(前年87%)に低下し、一方でGoogleは5%から15%以上に増加している
詳細解説
「無限で完璧な記憶」という次の目標
Altman氏はBig Technology Podcastでのインタビューで、AIの次の重要な発展として記憶機能の強化を挙げました。The Independentによれば、Altman氏は「世界最高の個人アシスタントでも、あなたが人生で話したすべての言葉を覚えることはできない。あなたが書いたすべての文書を読むこともできないし、毎日のすべての仕事を見てあらゆる細部を覚えることもできない」と述べています。
この発言は、現在のAIシステムが持つ記憶の限界を指摘したものと考えられます。大規模言語モデルは膨大な知識を学習していますが、個々のユーザーとのやり取りを長期的に記憶し、文脈を保持する能力には制約があります。OpenAIが目指す「無限で完璧な記憶」は、ユーザーの過去のすべてのやり取り、文書、行動を記憶し、それを活用できるAIシステムを意味していると思います。
現在のAI業界の焦点との違い
The Independentの記事では、OpenAIやその競合企業が最近、推論能力の向上に注力してきたと説明されています。大規模言語モデルの推論能力向上は、複雑な問題解決や論理的思考を必要とするタスクでの性能向上につながります。
一方、Altman氏が強調する記憶機能は、AIシステムがユーザー個人の文脈を深く理解し、長期的な関係性を構築する能力に関わります。Altman氏は「現時点で、記憶機能はまだ非常に粗削りで初期段階」と認めており、OpenAIがこの分野に注力していることを明らかにしました。
この方向性の違いは、AIの発展における異なるアプローチを示しています。推論能力の向上がAIの「知性」を高めるのに対し、記憶能力の強化はAIの「個別化」と「継続性」を高めると言えます。
Google Gemini 3への対応
The Independentは、Altman氏の発言の数週間前、OpenAIがGoogle最新モデルGemini 3のリリースを受けて「コードレッド」状態を宣言したと報じられたことに言及しています。GoogleはGemini 3を2025年11月にリリースし、「新しい知性の時代」と表現しました。このモデルは複数の業界ベンチマークテストで記録的なスコアを達成したとされています。
しかし、Altman氏はこの脅威を軽視する姿勢を示しました。The Independentによれば、「潜在的な競合の脅威が現れたときに、警戒心を持ち迅速に行動するのは良いこと」としながらも、「Gemini 3は、少なくとも今のところ、私たちが心配していたような影響は及ぼしていない」と述べています。
ただし、Altman氏はGemini 3がOpenAIの製品提供と戦略における弱点を特定するきっかけになったと認め、それらに迅速に対処していると説明しました。競合の動きを脅威として捉えるだけでなく、自社の改善機会として活用する姿勢が見られます。
市場シェアの変化
The Independentの記事では、ChatGPTとGoogleのAIアプリの市場シェアについても触れられています。OpenAIによれば、ChatGPTは現在約8億人のユーザーを抱え、AIアプリ市場シェアの約71%を占めています。しかし、この数字は前年同時期の87%から低下しています。
一方、Googleの市場シェアは約5%から15%以上に上昇し、Geminiは最近6億5000万人のユーザーを突破しました。この変化は、AI市場の競争が激化していることを示していると考えられます。
市場シェアの変動は、技術的優位性だけでなく、製品の使いやすさ、統合性、価格設定など多様な要因に影響されます。OpenAIが市場シェアを維持・拡大するためには、技術革新だけでなく、製品戦略全体の見直しが必要かもしれません。
OpenAIの勝利戦略
The Independentによれば、Altman氏はAI競争に勝つための戦略として「最高のモデルを作り、その周りに最高の製品を構築し、大規模にサービスを提供するための十分なインフラを持つこと」を挙げています。
この戦略は、技術開発、製品設計、インフラ投資の三位一体を重視するものです。特に「大規模にサービスを提供する」という点は、8億人のユーザーを抱えるChatGPTの運営において重要な課題と思います。記憶機能の強化は、個々のユーザーのデータを長期的に保存し処理する必要があるため、インフラへの要求も増大すると考えられます。
まとめ
OpenAIのSam Altman氏は、AIの次のブレークスルーとして「無限で完璧な記憶」の実現を予測し、2026年にこの目標達成に向けて取り組んでいます。現在のAI業界が推論能力向上に注力する中、記憶機能の強化という異なる方向性を示したことは注目に値します。一方で、GoogleのGemini 3によって市場シェアが低下する中、OpenAIがどのように技術革新と製品戦略を進化させるかが今後の焦点になると思います。
