はじめに
本稿では、OpenAIが2025年9月23日に発表した内容を基に、OpenAI、Oracle、そしてソフトバンクグループによる巨大AIインフラストラクチャ計画「Stargate」の拡張について、その技術的なポイントや意義を解説します。
参考記事
- 発行元: OpenAI
- 発行日: 2025年9月23日
- URL: https://openai.com/index/five-new-stargate-sites/
要点
- OpenAI、Oracle、ソフトバンクは、OpenAIのAIインフラ基盤「Stargate」の下で、米国に新たに5つのAIデータセンターを建設することを発表した。
- この拡張により、計画されている総容量は約7ギガワット、今後3年間の投資額は4000億ドルを超える規模となる。
- 当初の目標であった「5000億ドル、10ギガワット」のコミットメントを、予定より早く2025年末までに達成する見通しが立った。
- 新たなデータセンターはテキサス州、ニューメキシコ州、オハイオ州などに建設され、数万人規模の雇用創出が見込まれる。
- このプロジェクトは、AIモデルの研究開発と実用化に不可欠な膨大な計算能力(コンピュート)を確保することを目的としている。
詳細解説
AIインフラ計画「Stargate」とは?
まず前提として、「Stargate」とは、OpenAIが推進するAI開発のための包括的なインフラ基盤プラットフォームの名称です。近年のAI、特に生成AIの進化は、その裏で大規模な計算処理能力を必要とします。高性能なモデルを訓練したり、多くのユーザーからの要求に応答したりするためには、膨大な数の高性能なサーバーで構成されるデータセンターが不可欠です。Stargate計画は、このAIの心臓部ともいえる計算基盤を、前例のない規模で構築しようとするものです。
今回の発表の具体的な内容
今回の発表の核心は、このStargate計画を大幅に加速させるため、新たに5つのデータセンターを米国に建設するという点です。この拡張は、Oracleとソフトバンクという強力なパートナーとの連携によって実現します。
- Oracleとの連携:
- 新たに3つの拠点をテキサス州、ニューメキシコ州、そして中西部に建設します。
- これらは既存のテキサス州アビリーンの拠点と合わせて、合計5.5ギガワット以上の電力容量を供給できる規模になります。
- 両社のパートナーシップは今後5年間で3000億ドルを超える規模となり、Oracleのクラウドインフラ「Oracle Cloud Infrastructure (OCI)」上で構築されます。すでにOCIは、AI向けの最新半導体であるNVIDIA GB200ラックの納入を開始しており、次世代AIの研究開発が始まっています。
- ソフトバンクとの連携:
- オハイオ州とテキサス州に2つの拠点を建設します。これらは今後18ヶ月で最大1.5ギガワットまで拡張可能な設計です。
- ソフトバンクは先進的なデータセンター設計技術や、グループ会社であるSBエナジーのエネルギーインフラ供給能力を活かし、迅速な拠点展開とコスト効率の向上に貢献します。
これらを合わせると、Stargate計画全体の総容量は約7ギガワットに達し、当初の目標である10ギガワット達成に向けて大きく前進したことになります。
「ギガワット」規模のデータセンターが持つ意味
データセンターの規模を示す際に「ギガワット(GW)」という電力の単位が使われることに疑問を持つ方もいるかもしれません。これは、データセンターが消費する電力の大きさを示しており、その数値がそのまま収容できるサーバーの数、つまり計算能力の規模を測る指標となるためです。
1ギガワットは100万キロワットであり、これは大規模な原子力発電所1基分の出力に相当します。つまり、7ギガワットというのは、原発7基分もの膨大な電力を消費するほどの、凄まじい規模の計算インフラを構築することを意味します。これほどの計算能力が、次世代のAIを開発し、社会に普及させるために必要とされているのです。
経済・社会への影響
この巨大プロジェクトは、技術的なインパクトだけでなく、経済的にも大きな影響をもたらします。
今回発表された5つの拠点だけでも、現場で25,000人以上、そして関連産業で数万人の雇用が米国全土で創出されると見込まれています。AIという最先端技術が、物理的なインフラ建設と地域経済の活性化に直結する好例と言えるでしょう。
まとめ
今回のOpenAI、Oracle、ソフトバンクによる発表は、単なるデータセンターの増設に留まりません。AI開発の競争が、ソフトウェアやアルゴリズムの領域だけでなく、それを支える物理的な計算基盤、エネルギー、そして巨額の資本を巻き込んだ総力戦の様相を呈していることを明確に示しています。
5000億ドル(日本円で数十兆円規模)という投資額と、10ギガワットという目標は、AIが今後の社会や産業の根幹をなす技術になるという確信の表れです。この巨大なインフラの上で、どのような革新的なAIが生まれ、私たちの生活をどう変えていくのか、今後の動向を注視していく必要があります。