[AIツール利用者向け]OpenAI、人間とAIの健全な関係を専門家と模索:ウェルビーイング評議会を設立

目次

はじめに

 OpenAIが2025年10月14日、「Expert Council on Well-Being and AI」(ウェルビーイングとAIに関する専門家評議会)の設立を発表しました。心理学、精神医学、人間とコンピュータの相互作用を専門とする8名の研究者で構成され、ChatGPTやSoraが人々、特に若年層のメンタルヘルスや発達にどう影響するかを助言する役割を担います。本稿では、この評議会の設立背景と、9月に導入されたペアレンタルコントロール機能とあわせて、OpenAIの安全対策の全体像を解説します。

参考記事

メイン記事(公式発表:専門家評議会):

関連情報:

公式発表(ペアレンタルコントロール):

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要点

  • OpenAIは心理学・精神医学の専門家8名で構成される「Expert Council on Well-Being and AI」を設立し、ChatGPTとSoraが人々のウェルビーイングに与える影響について助言を受ける体制を整えた
  • 評議会メンバーには、若年層のソーシャルメディア利用がメンタルヘルスに与える影響を研究する専門家や、デジタル技術とメンタルヘルスの関係を探求する研究者が含まれる
  • 9月に導入されたペアレンタルコントロール機能では、保護者がティーンのアカウントと連携し、利用時間の制限や音声モード・画像生成機能のオフ、危機的状況の通知受信などが可能になった
  • 評議会は定期的なミーティングを通じて、複雑な状況でのAIの振る舞いや適切なガードレールについて助言し、ペアレンタルコントロールの優先順位づけにも関与している

詳細解説

専門家評議会の設立背景と目的

 専門家評議会に関する公式発表によれば、OpenAIは「すべての人にとって有益なChatGPTとSoraの体験を構築する」という継続的な取り組みの一環として、この評議会を組織しました。8名のメンバーは、テクノロジーが感情、モチベーション、メンタルヘルスに与える影響について数十年の研究経験を持つ専門家です。

 評議会の役割は、OpenAIに助言し、問いを投げかけ、あらゆる年齢層にとってAIとの健全な相互作用がどうあるべきかを定義する手助けをすることです。OpenAIは2025年初頭から、ペアレンタルコントロールの開発時などに、これらの専門家の一部と非公式に相談を始めていました。評議会の正式化にあたり、OpenAIは心理学、精神医学、人間とコンピュータの相互作用の専門家をさらに加え、人々がテクノロジーとどう関わり、どう影響を受けるかについて新たな視点を取り入れたとされています。

 公式発表では、ティーンは大人とは異なる使い方をするため、健全な若年層の発達を支える技術構築の経験を持つメンバーも複数含めたと説明されています。

評議会メンバーの専門性

 公式発表(専門家評議会)では、8名のメンバーが紹介されています。それぞれの専門分野は以下の通りです。

  • David Bickham博士: ボストン小児病院デジタルウェルネスラボの研究ディレクター、ハーバード医学大学院助教授。若年層のソーシャルメディア利用がメンタルヘルスと発達に与える影響を研究
  • Mathilde Cerioli博士: 非営利団体everyone.AIの最高科学責任者。認知神経科学の博士号と心理学の修士号を持ち、AIが子どもの認知的・感情的発達とどう交差するかを研究
  • Munmun De Choudhury博士: ジョージア工科大学J.Z. Liang Professor of Interactive Computing。計算アプローチを活用し、オンライン技術がメンタルヘルスをどう形成し改善するかを理解することに取り組む
  • Tracy Dennis-Tiwary博士: ハンター大学心理学教授、Arcade Therapeuticsの共同創設者兼CSO。メンタルヘルスのためのデジタルゲームを開発し、技術と感情的ウェルビーイングの相互作用を探求
  • Sara Johansen医師: スタンフォード大学臨床助教授、スタンフォードのデジタルメンタルヘルスクリニック創設者。デジタルプラットフォームがメンタルヘルスとウェルビーイングをどう支えられるかを探求
  • David Mohr博士: ノースウェスタン大学教授、Center for Behavioral Intervention Technologiesディレクター。テクノロジーがうつ病や不安症などの一般的なメンタルヘルス症状の予防と治療にどう役立つかを研究
  • Andrew K. Przybylski博士: オックスフォード大学Human Behaviour and Technology教授。ソーシャルメディアとビデオゲームがモチベーションとウェルビーイングをどう形成するかを研究
  • Robert K. Ross医師: 健康慈善活動、公衆衛生、地域ベースの健康イニシアチブの全国的リーダー・専門家。小児科医としてキャリアを開始し、元The California Endowment会長兼CEO

 このように、若年層の発達、デジタル技術とメンタルヘルスの関係、オンライン技術の影響など、多様な専門性を持つメンバーが集められています。

評議会の具体的な活動内容

 公式発表(専門家評議会)によれば、OpenAIは先週、対面セッションで評議会を開始し、この分野での現在の取り組みについて詳しく検討し、メンバーが協働・助言するチームと顔合わせを行いました。

 評議会との活動には、アプローチに関する定期的なチェックイン、複雑または繊細な状況でAIがどう振る舞うべきか、ChatGPT利用者を最もよく支えるガードレールの種類などのトピックを探求する定期会議が含まれます。例として、ペアレンタルコントロールの展開において、OpenAIは個別のメンバーに相談し、どのコントロールを最初に構築すべきか、ティーンが苦境にあるように見える場合に保護者にどう通知するのが最善かの優先順位づけを手伝ってもらったとされています。専門家のフィードバックは、メッセージのトーンを形成し、ティーンと家族の両方に配慮的で敬意を持ったものにすることに貢献したと説明されています。

 また、評議会はChatGPTが人々の生活にポジティブな影響を与え、ウェルビーイングに貢献する方法についても考える手助けをするとのことです。初期の議論では、ウェルビーイングとは何か、ChatGPTが人々の生活のあらゆる側面をナビゲートする際にどう力を与えられるかに焦点が当てられています。

グローバル医師ネットワークとの連携

 ウェルビーイングに関する広範なアプローチについて助言するExpert Council on Well-Being and AIと並行して、OpenAIはGlobal Physician Network内のメンタルヘルス臨床医と研究者の学際的サブセットとも協力しています。このグループは、モデルの振る舞いとポリシーを形成し、ChatGPTが現実世界の状況でどう応答するかをテストする役割を担っています。この作業は精神医学、心理学、小児科、危機介入にまたがり、システムが臨床的理解とベストプラクティスに基づいていることを確実にする手助けをしているとのことです。

 OpenAIは近日中に、メインのChatGPTモデルに対して進行中の改善と、それが人々を最もよく支える方法について学んでいることについて、さらに共有する予定だとしています。

ペアレンタルコントロールの導入と機能

 OpenAIは2025年9月29日から、すべてのChatGPTユーザーにペアレンタルコントロールと新しい保護者向けリソースページを展開しています。保護者は自分のアカウントとティーンのアカウントをリンクし、安全で年齢に適した体験のために設定をカスタマイズできます。

 セットアップは、保護者または保護者がティーンにアカウント接続の招待を送ることから始まります。ティーンが承諾すると、保護者は自分のアカウントからティーンの設定を管理できます。ティーンも保護者を招待できます。リンクされた後、保護者はアカウント設定のシンプルなコントロールページからティーンのChatGPT体験をカスタマイズできます。ティーンがアカウントのリンクを解除すると、保護者に通知されます。

 リンクされたティーンアカウントには、自動的に追加のコンテンツ保護が適用されます。これには、グラフィックコンテンツ、バイラルチャレンジ、性的・ロマンチック・暴力的なロールプレイ、極端な美の理想の削減が含まれ、年齢に適した体験を維持する手助けをします。これらの保護措置は、ティーン特有の発達上の違いを理解するための既存研究の慎重なレビューに基づいて設計されたとのことです。

 保護者は希望すればこの設定をオフにできますが、ティーンユーザーは変更できません。ガードレールは役立つものの完璧ではなく、意図的に回避しようとする場合はバイパスされる可能性があります。OpenAIは継続的に改善を重ねるとともに、保護者がティーンと健全なAI利用について話し合うことを推奨しています。

カスタマイズ可能な機能

 ペアレンタルコントロールについては、保護者が追加でカスタマイズできる機能も紹介されています。シンプルなコントロールページから、保護者は以下の設定が可能です。

  • 静かな時間の設定: ChatGPTを使用できない特定の時間帯を設定
  • 音声モードのオフ: ChatGPTで音声モードを使用するオプションを削除
  • メモリのオフ: ChatGPTが応答時にメモリを保存・使用しないようにする
  • 画像生成の削除: ChatGPTが画像を作成・編集する機能を持たないようにする
  • モデルトレーニングのオプトアウト: ティーンの会話がChatGPTを動かすモデルの改善に使用されないようにする

 これらの設定はオプションで柔軟性があり、家族が自分たちに最適なものを選べるようになっています。

危機的状況の通知システム

 公式発表(ペアレンタルコントロール)によれば、一部のティーンが困難な瞬間にChatGPTを頼ることを認識し、OpenAIは保護者に何か深刻な問題があるかもしれないことを知らせる新しい通知システムを構築しました。

 ChatGPTがティーンが自傷を考えている可能性のある兆候を認識するのに役立つ保護措置が追加されました。システムが潜在的な危害を検出すると、特別に訓練された少人数のチームが状況をレビューします。急性の苦痛の兆候がある場合、OpenAIは保護者がオプトアウトしていない限り、メール、テキストメッセージ、電話のプッシュ通知で保護者に連絡します。

 OpenAIはメンタルヘルスとティーンの専門家と協力してこれを設計しており、正確に行いたいと考えているとのことです。完璧なシステムはなく、実際の危険がない場合にも警告を発する可能性があることを認めつつも、沈黙を守るよりも行動して保護者に警告し、介入できるようにする方が良いと考えているとされています。

 また、OpenAIは法執行機関や他の緊急サービスに連絡する適切なプロセスと状況についても取り組んでおり、例えば生命への差し迫った脅威を検出し保護者に連絡できない場合などが想定されています。このような稀な状況でも、OpenAIはティーンのプライバシーを真剣に受け止め、保護者や緊急対応者がティーンの安全を守るために必要な情報のみを共有するとのことです。

保護者向けリソースと今後の展開

 家族がChatGPTを日常生活に取り入れる方法が増えていることを踏まえ、OpenAIは保護者にChatGPTとティーンの安全で前向きな利用を導く方法についての情報を提供したいと考えています。

 新しい保護者向けリソースページが作成され、すべてを一か所にまとめています。ChatGPTの仕組み、利用可能なペアレンタルコントロール、ティーンが学習、創造性、日常生活にどう使えるかのアイデアが説明されています。これは出発点に過ぎず、OpenAIは定期的にヒント、ガイド、専門家のアドバイス、会話のきっかけで更新し、家族のAI利用が成長するにつれて保護者がサポートされていると感じられるようにする予定です。

 今後数か月間、OpenAIはユーザーが18歳未満かどうかを予測し、ChatGPTがティーンに適した設定を自動的に適用できるようにする年齢予測システムを構築しています。ユーザーの年齢が不確かな場合、OpenAIはより安全なルートを取り、ティーン設定を積極的に適用するとのことです。それまでの間、ペアレンタルコントロールが保護者にとってティーンが年齢に適したティーン体験にオプトインすることを確実にする最も効果的な方法となります。

※見解:実効性と継続的改善の必要性

 OpenAIがこうした安全対策に取り組むこと自体は、AIの能力が高度化し社会的な影響が大きくなってきた以上、ある種必然的な対応だと思えます。特に若年層のメンタルヘルスへの影響は、すでにソーシャルメディアなどで問題視されてきた領域であり、ChatGPTやSoraのような新しいテクノロジーについても同様の配慮が必要でしょう。

 ただ、ペアレンタルコントロールについての発表でも「ガードレールは役立つが完璧ではなく、意図的に回避される可能性がある」と認めているように、これらの対策がどこまで実効性を持つかは、今後の検証が必要な部分です。OpenAIとしても「効果がありそうなことをやっていく」というスタンスで継続的に改善していくしかない側面を認めています。

 これらのツールを使う上では、技術の不完全性を認識することが重要です。ペアレンタルコントロールや専門家評議会の設立は前向きな一歩ですが、これらが万能ではないことを、利用者である保護者やティーン、そして社会全体が理解しておく必要があるのではないでしょうか。OpenAIが専門家と協力しながら継続的に改善を重ねる姿勢を示している点は評価できますが、製品として不完全なものであることを前提に、利用者側も適切な判断とコミュニケーションを取ることが求められると思います。

まとめ

 OpenAIは専門家評議会の設立とペアレンタルコントロールの導入を通じて、特に若年層とAIの健全な関係構築に本格的に取り組み始めました。8名の専門家による助言体制と、保護者が利用を管理できる具体的な機能の両面から、ウェルビーイングへの配慮を示しています。ただ、これらの対策は完璧ではなく、継続的な改善と効果検証が必要です。AIと人間の関わり方という新しい課題に、OpenAIがどう向き合っていくのか、今後の展開が注目されます。

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