[ビジネスマン向け]OpenAIとBBVA、12万人規模のAI変革プログラムで金融業界の新基準を提示

目次

はじめに

 OpenAIが2024年12月12日、スペイン大手銀行BBVAとの戦略的協業拡大を発表しました。複数年にわたるAI変革プログラムとして、ChatGPT Enterpriseを全世界12万人の従業員に展開し、従来の10倍規模となります。本稿では、この発表内容をもとに、金融業界におけるAI導入の実例と、その実践的な意味について解説します。

参考記事

要点

  • BBVAは全世界12万人の従業員にChatGPT Enterpriseを展開し、金融サービス業界で最大規模の生成AI導入事例となる
  • 2024年5月に3,300アカウントで開始した試験導入では、従業員が週3時間の業務時間を削減し、80%以上が毎日利用する結果となった
  • 顧客向けには自然言語で操作できる仮想アシスタント「Blue」を既に展開しており、今後ChatGPTを通じた銀行サービスの直接利用も検討している
  • OpenAIの専門チームと協働し、顧客体験の変革、リスク分析の最適化、ソフトウェア開発プロセスの再設計を進める

詳細解説

段階的な導入と実証された効果

 BBVAとOpenAIの協業は2024年5月に始まりました。OpenAIによれば、当初3,300のChatGPTアカウントを従業員に提供したところ、初期段階で成果が確認されたため、1万1,000人に拡大したとされています。この段階で数千のカスタムGPTが作成され、従業員は定型業務において週3時間近くを削減し、80%以上が毎日利用する状況になりました。

 この成功を踏まえ、今回の発表では25カ国で事業を展開する全12万人の従業員にChatGPT Enterpriseを展開します。金融サービス業界における生成AI導入としては最大規模の事例であり、高度に規制された環境でAIをどう活用できるかを示す実例と言えます。

 週3時間の削減という数値は、年間換算で従業員1人あたり約150時間に相当します。12万人規模では総計1,800万時間となり、業務効率化の規模が見えてきます。ただし、これは定型業務における削減時間であり、創造的な業務や意思決定にどのような影響があるかは、今後の展開を見守る必要があると思います。

ChatGPT Enterpriseの展開内容

 全社展開されるChatGPT Enterpriseには、セキュリティとプライバシー管理機能、OpenAIの最新モデルへのアクセス、BBVAの社内システムと連携する内部エージェント作成ツールが含まれます。

 OpenAIとBBVAは、これらのツールを全部門・全機能で一貫性を持って安全に統合するため、専門的なトレーニングプログラムと構造化された導入モデルを共同で開発するとしています。

 金融機関では顧客情報や取引データの保護が最優先課題です。ChatGPT Enterpriseは企業向けの設計として、データが学習に使用されない仕様となっており、このような規制環境での利用を想定していると考えられます。BBVAの事例は、こうしたエンタープライズ向け機能が実際の大規模展開でどう機能するかを示すものと言えます。

顧客向けAIサービスの展開

 従業員向けの展開に加え、BBVAは顧客体験の変革も進めています。既にOpenAIのモデルを基盤とした仮想アシスタント「Blue」を提供しており、カード管理、口座操作、日常的な問い合わせを自然言語で処理できます。

 OpenAIによれば、今回の協業拡大により、BBVAの製品・サービスを統合し、顧客がChatGPTを通じて直接銀行とやり取りできる方法も検討しているとのことです。

 これは、ChatGPTのインターフェースが銀行サービスへの入り口となる可能性を示唆しています。従来のモバイルアプリやウェブサイトではなく、対話型AIを通じて口座確認や送金などの操作を行う形態は、金融サービスのアクセス方法を大きく変える可能性があります。ただし、セキュリティ認証や取引の承認プロセスをどう設計するかは、技術的にも規制面でも検討が必要な領域と考えられます。

AI-native銀行への移行

 BBVAは単なる業務効率化ツールとしてではなく、「AI-native銀行」への移行を目指しています。OpenAIの専門チームがBBVAと直接協働し、製品、研究、技術導入の各領域で支援を提供します。

 具体的な変革領域として、顧客とのやり取りの変革、銀行員による顧客支援の強化、リスク分析の効率化と高度化、ソフトウェア開発や従業員の生産性支援といった内部プロセスの再設計が挙げられています。

 BBVAのCarlos Torres Vila会長は「デジタルとモバイルの変革において先駆者であり、今やさらに大きな野心を持ってAI時代に入っている」と述べています。OpenAIとの提携により、銀行全体にAIをネイティブに統合し、よりスマートで、より積極的で、完全にパーソナライズされた銀行体験を創出し、すべての顧客のニーズを予測することを目指しています。

 「AI-native」という表現は、AIを後付けのツールとしてではなく、サービス設計の根幹に組み込むことを意味していると思います。これは既存のプロセスをAIで効率化する段階から、AIを前提とした新しいプロセスを設計する段階への移行を示唆しています。

エンタープライズAI市場における位置づけ

 OpenAIのSam Altman CEOは「BBVAは大規模金融機関が真の野心とスピードでAIを導入できることを示す強力な例」とコメントしています。この協業拡大により、BBVAは製品と業務の中核にAIを組み込み、顧客の銀行体験全体を向上させるとしています。

 OpenAIによれば、現在Deutsche Telekom、Virgin Atlantic、Accentureなどを含む100万社以上の企業顧客がOpenAIと協業しており、史上最速で成長するビジネスプラットフォームとなっているとのことです。

 この発表は、企業がAIの実験段階を超えて、事業の中核に組み込む段階に移行していることを示しています。金融業界は規制が厳格で、セキュリティ要件も高い領域ですが、BBVAの12万人規模の展開は、そうした環境でも大規模なAI導入が可能であることを実証する事例と言えます。

まとめ

 OpenAIとBBVAの協業拡大は、金融業界における最大規模の生成AI導入事例として、実験段階を超えた本格的な事業変革の実例を示しています。週3時間の業務時間削減という具体的な成果と、80%以上の日常利用率は、AIツールの実用性を裏付けるデータと言えます。今後、顧客向けサービスの拡充やAI-native銀行への移行がどのように進展するか、注目される展開です。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次