はじめに
本稿では、NVIDIAの公式ブログで2025年9月9日に公開された記事「Get Started Using Generative AI for Content Creation With ComfyUI and NVIDIA RTX AI PCs」を基に、生成AIによるコンテンツ制作の最新動向を解説します。
特に、ノードベースのUIで人気の画像・動画生成ツール「ComfyUI」が、NVIDIAの技術によってどのように進化し、クリエイターの作業を効率化するのかを詳しく見ていきます。
参考記事
- タイトル:Get Started Using Generative AI for Content Creation With ComfyUI and NVIDIA RTX AI PCs
- 発行元:NVIDIA
- 発行日:2025年9月9日
- URL:https://blogs.nvidia.com/blog/rtx-ai-garage-comfyui-wan-qwen-flux-krea-remix/
Comfy UI:
- タイトル:omfyUI
- URL:https://www.comfy.org/
要点
- ComfyUIはNVIDIAとの協力により、RTX GPU上で最大40%の性能向上を実現した。
- NVIDIAはTensorRTで最適化したAIモデルをNIMマイクロサービスとして提供し、ComfyUI上での推論を最大3倍高速化、VRAM使用量を50%削減した。
- Wan 2.2(動画)、Qwen-Image(テキスト・画像)、FLUX.1(リアルな画像)、Hunyuan3D 2.1(3D)など、最新の高性能AIモデルがComfyUIで利用可能になった。
- ComfyUIはテンプレート機能や各種クリエイティブツールとのプラグイン連携により、専門家でなくても高度なAIワークフローを手軽に構築できる環境を提供した。
詳細解説
ComfyUIとは?- ノードベースUIがもたらす柔軟性
まず、ComfyUIについて簡単に説明します。ComfyUIは、Stable Diffusionなどの画像生成AIを動かすためのツールの一つです。最大の特徴は、「ノードベース」のグラフィカルなインターフェースを採用している点にあります。
これは、AIモデルの読み込み、プロンプトの入力、画像のサンプリングといった各機能を「ノード」と呼ばれる箱で表現し、それらを線で繋いで処理の流れ(ワークフロー)を構築する方式です。
一般的なWebUI(AUTOMATIC1111版など)と比較して、以下のようなメリットがあります。
- 処理の可視化:データの流れが視覚的にわかるため、何が起きているか把握しやすいです。
- 高いカスタマイズ性:ノードを自由自在に組み替えることで、複雑で独創的なワークフローを構築できます。
- 優れた再現性:ワークフロー自体を保存・共有できるため、他人と同じ結果を簡単に再現できます。
この柔軟性の高さから、ComfyUIは多くのクリエイターや開発者に支持されています。
NVIDIA RTX GPUによる劇的なパフォーマンス向上
Nvidiaの発表によると、ComfyUIは最新バージョン(v3.57)で、NVIDIAとの協力によりNVIDIA RTX GPU上でのパフォーマンスが最大40%向上しました。これは、通常20〜30%程度とされるGPUの世代交代による性能向上を上回る、大きな改善です。
この高速化の背景には、AI処理に特化した「Tensorコア」を搭載するRTX GPUの能力を最大限に引き出すための最適化があります。

TensorRTとNIMによる更なる高速化と効率化
NVIDIAは、パフォーマンスをさらに引き上げるための強力なツールを提供しています。それが「TensorRT」と「NIM」です。
- TensorRT (TensorRT an NVIDIA library)
これは、AIモデルの推論(実際にAIが処理を実行すること)を高速化するためのNVIDIA製のライブラリです。AIモデルを特定のGPUアーキテクチャに合わせて最適化(チューニング)することで、処理速度を大幅に向上させます。ComfyUIでは、「TensorRTノード」を使用することで、ユーザーが自身の環境でモデルを最適化し、その恩恵を受けることができます。 - NIM (NVIDIA Inference Microservices)
NIMは、専門家によってTensorRTで最適化され、さらに軽量化(量子化)されたAIモデルを、すぐに使えるパッケージとして提供するサービスです。ユーザーは複雑な設定を行うことなく、ComfyUIの「NIMノード」からこのパッケージを読み込むだけで、以下のようなメリットを享受できます。- 最大3倍の高速化
- 50%のVRAM(GPUメモリ)使用量削減
特にVRAMの削減は、より高性能なモデルや高解像度の画像を、メモリが限られたPCでも扱いやすくするため、非常に重要です。
ComfyUIで利用可能になった最新AIモデル
今回のアップデートにより、ComfyUIは以下のような最先端のAIモデルに対応しました。
- Wan 2.2:高品質な動画生成モデル。特に大規模な14Bモデルは、NVIDIA RTX GPUでなければ遅延なく動作させることが困難です。
- Qwen-Image:Alibabaが開発した画像生成モデル。画像内に自然な文字を描画したり、精密な画像編集を行ったりする能力に長けています。
- FLUX.1 Krea [dev]:彩度を抑えた、よりリアルで多様な画像を生成することに特化したモデルです。
- Hunyuan3D 2.1:一枚の画像やテキストから、物理ベースレンダリングに対応した高品質な3Dアセットを生成できるオープンソースのシステムです。
専門家でなくても高度なAI生成が可能に
ComfyUIの強みは、そのアクセシビリティにもあります。「テンプレート」機能を使えば、例えば「生成する画像全体でキャラクターの見た目を一貫させる」といった複雑なワークフローを、プリセットを読み込むだけで簡単に利用できます。
発表では、画像を高解像度化する「アップスケール」や、画像の一部を修正・描き足す「インペインティング」「アウトペインティング」など、クリエイティブな作業に不可欠な10の主要技術がテンプレートによって手軽に利用できると紹介されています。
クリエイティブツールとのシームレスな連携
ComfyUIはプラグインを通じて、既存のクリエイティブワークフローにAIを統合することも可能です。
- Adobe Photoshop:Photoshopのネイティブ機能(Firefly)を補完し、ローカル環境で無制限の生成塗りつぶしなどを低遅延で実行できます。
- Blender / Foundry Nuke:3Dシーンから2D画像を生成したり、逆にComfyUIで生成したテクスチャを3Dモデルに適用したりと、2Dと3Dのワークフローを連携させます。
- Unreal Engine:ゲームエンジン内で直接テクスチャを生成・調整することが可能になり、開発サイクルを高速化します。
これにより、アプリケーションを切り替える手間なく、普段使っているツールの中でシームレスにAIの力を活用できます。
まとめ
NVIDIAとComfyUIの連携は、生成AIによるコンテンツ制作を、パフォーマンス、効率性、そしてアクセシビリティの面で向上させました。特にTensorRTやNIMといった技術は、これまで専門的な知識が必要だったAIモデルの最適化を不要にし、誰もが最新モデルの性能を最大限に引き出すことを可能にします。ComfyUIの柔軟なノードベースUIと、テンプレートやプラグインによるエコシステムは、クリエイターが自身のワークフローにAIを自在に組み込むための強力な基盤となることが期待されます。