[ニュース解説]進化する研究用ARグラスの最前線:Meta「Aria Gen 2」が搭載するセンサーとAI技術

目次

はじめに

 本稿では、Meta AIが発表した最新の研究用ARグラス「Aria Gen 2」について、Meta AI Blogに2025年6月4日付で掲載された「Inside Aria Gen 2: Explore the Cutting-Edge Tech Behind the Device」を基に解説します。

引用元記事

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・記載されている情報は、投稿日までに確認された内容となります。正確な情報に関しては、各種公式HPを参照するようお願い致します。
・内容に関してはあくまで執筆者の認識であり、誤っている場合があります。引用元記事を確認するようお願い致します。

要点

  • Aria Gen 2は、コンピュータビジョン、機械学習、センサー技術の最先端を結集した研究用ウェアラブルデバイスである。
  • 前モデルAria Gen 1と比較して、装着性、カメラ性能、センサー機能、データ同期精度、オンデバイス処理能力が大幅に向上している。
  • 装着性の向上:より軽量(74-76g)で、多様な顔の形状に対応する8つのサイズバリエーション、折りたたみ可能なアームを採用し、日常的な使用と持ち運びが容易になった。
  • コンピュータビジョンカメラの進化:ダイナミックレンジが120dBに向上し(Gen 1は70dB)、より多様な照明条件下での撮影が可能になった。CVカメラは4台に倍増し、視野角とステレオオーバーラップ(80°、Gen 1は35°)が拡大、3Dハンドトラッキングや物体追跡の精度が向上した。
  • 新センサーの統合:キャリブレーション済みの環境光センサー(ALS)、騒音下での音声認識を改善するコンタクトマイク、心拍数推定が可能なPPGセンサーを新たに搭載した。
  • 高精度なデバイス間時刻同期:SubGHz無線技術により、ミリ秒以下の精度で複数のデバイス間の時刻同期を実現した。
  • オンデバイスでのリアルタイム機械知覚:Meta独自の省電力カスタムコプロセッサにより、視覚慣性オドメトリ(VIO)、高精度な視線追跡、3Dハンドトラッキングなどの高度な処理をデバイス上でリアルタイムに実行する。

詳細解説

装着性の大幅な向上:より快適に、より多くの人へ

 Aria Gen 2は、研究者が長時間にわたり快適に使用できるよう、装着性が大幅に改善されました。デバイスの重量は74~76グラムと軽量化され、顔の幅や鼻の形状など、さまざまなユーザーの顔の形態に対応するために8種類のサイズバリエーションが用意されています。これにより、より多くの研究者が最適なフィット感でデバイスを使用できます。さらに、アーム部分が折りたたみ可能になったことで、保管や持ち運びが格段に容易になり、日常的な利用シーンでの利便性が向上しています。

コンピュータビジョンカメラの飛躍的進化:見たままの世界をより忠実に捉える

 Aria Gen 2の最も注目すべき進化の一つが、コンピュータビジョン(CV)カメラの性能向上です。コンピュータビジョンとは、機械(コンピュータ)が視覚情報(画像や動画)を認識し、理解するための技術分野です。

  • 高ダイナミックレンジ(HDR):
     Aria Gen 2に搭載されたグローバルシャッターカメラセンサーは、120dBという非常に高いダイナミックレンジを実現しています。これは、前モデルAria Gen 1の70dBと比較して大幅な向上です。ダイナミックレンジが広いということは、非常に明るい場所と非常に暗い場所が混在するような環境でも、白飛びや黒つぶれを起こすことなく、細部まで鮮明に情報を捉えられることを意味します。例えば、明るい屋外から薄暗い室内へ移動する際など、照明条件が大きく変化する場面でも、安定したデータ収集が可能になります。
  • 広視野角(Wide FOV)とステレオオーバーラップの拡大:
     Aria Gen 2には、合計4台のコンピュータビジョンカメラが搭載されており、これはAria Gen 1の2台から倍増しています。カメラが増えたことで、デバイスが捉えられる視野角(FOV: Field of View)が広がり、より広範囲の情報を一度に収集できるようになりました。
     特に重要なのが、左右のカメラで同じ範囲を捉えるステレオオーバーラップの角度です。これがAria Gen 1の35°から80°へと大幅に拡大しました。ステレオオーバーラップが広いほど、両眼視差(左右の目で見える映像のわずかなズレ)を利用した奥行き認識の精度が向上し、より正確な3D空間の把握や、手や物体の3Dトラッキングが可能になります。これにより、例えばNVIDIAのFoundationStereoのようなステレオベースの基盤モデルを活用し、より精緻なシーンの幾何学的再構築が期待できます。

新センサーの統合:より豊かなコンテキスト情報を取得

 Aria Gen 2には、これまでのモデルにはなかった新しいセンサーが複数統合され、収集できるデータの種類と質が向上しました。

  • 環境光センサー(ALS):
     キャリブレーション(較正)済みの環境光センサー(ALS: Ambient Light Sensor)が搭載されました。これにより、周囲の光の状況を正確に把握し、カメラの露出制御アルゴリズムを最適化することができます。また、ALSの紫外線モードを使用することで、屋内と屋外の照明環境を区別することも可能になり、より環境に応じたデータ分析が行えます。
  • コンタクトマイク:
     デバイスのノーズパッド部分には、コンタクトマイクが内蔵されています。これは、骨伝導のように装着者の声帯の振動を直接拾うことができるマイクです。周囲の騒音が大きい環境(例えば、風が強い場所や雑踏の中)でも、装着者の声をクリアに集音することが可能になります。引用元の記事では、風洞実験で音響マイクでは拾えないささやき声をコンタクトマイクが捉えられた事例が紹介されています。
  • 心拍センサー(PPG):
     同じくノーズパッド部分には、フォトプレチスモグラフィ(PPG: Photoplethysmography)センサーが組み込まれています。PPGセンサーは、皮膚表面に光を照射し、その反射や透過光の変化から血流の変動を検出することで、装着者の心拍数を推定することができます。これにより、身体的な状態に関する情報もデータとして収集可能になります。

高精度なデバイス間時刻同期:複数の視点をシームレスに統合

 複数のAria Gen 2デバイスや互換性のある他のデバイスを同時に使用してデータを収集する際、各デバイスで記録されるデータの時刻を正確に一致させることが非常に重要です。Aria Gen 2は、オンボードのハードウェアソリューションとしてSubGHz(サブギガヘルツ帯)の無線技術を利用し、タイミング情報をブロードキャストします。これにより、デバイス間の時刻同期精度はミリ秒以下という極めて高いレベルを達成しています。これは、ソフトウェアベースで同期を行っていたAria Gen 1と比較して大幅な進歩であり、複数の視点からのデータをより正確に統合・分析することを可能にします。

オンデバイスでのリアルタイム機械知覚:賢いメガネがその場で状況を理解する

 Aria Gen 2の大きな特徴の一つは、Metaが開発したエネルギー効率の高いカスタムコプロセッサを搭載し、高度な機械知覚アルゴリズムをデバイス上でリアルタイムに実行できる点です。これにより、収集したデータをクラウドに送信することなく、メガネ自体がある程度の状況認識やデータ処理を行えます。

  • 視覚慣性オドメトリ(VIO):
     VIO(Visual Inertial Odometry)とは、カメラからの視覚情報と内蔵された慣性計測ユニット(IMU: 加速度センサーやジャイロセンサー)からの情報を統合することで、デバイス自身の位置と向き(6自由度:6DoF)を高精度に追跡する技術です。これにより、Aria Gen 2は装着者が空間内をどのように移動しているかをリアルタイムに把握し、環境のマッピングやナビゲーションを可能にします。これは、コンテクスチュアルAI(状況に応じた情報提供を行うAI)やロボティクス研究において非常に重要な基盤技術となります。
  • 高精度な視線追跡(Eye Tracking):
     Aria Gen 2は、内向きのカメラを用いた高度な視線追跡システムを搭載しています。これにより、装着者がどこを見ているのか(各目の視線方向、輻輳点)、まばたきの検出、瞳孔の中心位置や直径、角膜の中心といった詳細な情報を高い精度で取得できます。これらの情報は、装着者の視覚的注意や意図を理解する上で非常に有用であり、人間とコンピュータのインタラクション(HCI: Human-Computer Interaction)研究に新たな可能性をもたらします。
  • 3Dハンドトラッキング:
     装着者の手の動きを3D空間で追跡するハンドトラッキング機能も搭載されています。これにより、デバイスの座標系における手の関節の articulated pose(詳細な関節位置と角度)を生成できます。これは、データセット作成時の正確な手の動きのアノテーション(情報付与)を容易にするだけでなく、高精度な動きが要求されるロボットハンドの遠隔操作など、より高度なアプリケーション開発にも繋がります。

まとめ

 本稿では、Meta AIの最新研究用グラス「Aria Gen 2」に搭載された最先端技術について、その詳細と意義を解説してきました。Aria Gen 2は、大幅に向上した装着性、飛躍的に進化したカメラ性能、新たに統合された各種センサー、高精度な時刻同期、そしてデバイス上でリアルタイムに実行される高度な機械知覚機能など、多くの革新的な特徴を備えています。

 これらの技術は、機械が私たちの周囲の世界をより深く理解し、人間とより自然に対話するための研究を加速させることでしょう。Aria Gen 2は、研究者たちにとって強力なツールとなり、コンピュータビジョン、コンテクスチュアルAI、ロボティクスといった分野における新たな発見やイノベーションを生み出す基盤となることが期待されます。

 Metaは、Aria Gen 2を用いた研究アプリケーションの受付を今年後半に開始する予定です。また、2025年6月にテネシー州ナッシュビルで開催されるコンピュータビジョンとパターン認識のトップカンファレンス「CVPR 2025」では、Aria Gen 2の実機デモンストレーションも行われるとのことです。

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