[開発者向け]人間とAIモデルは同じコードで混乱する?ザールラント大学とマックスプランク研究所の実証研究

目次

はじめに

 ザールラント大学とマックスプランク・ソフトウェアシステム研究所が人間と大規模言語モデル(LLM)が複雑なプログラムコードに対して示す反応の類似性を実証した研究成果を発表しました。本稿では、この研究の内容と、AI支援プログラミングの未来に与える示唆について解説します。

参考記事

関連情報:

  • タイトル: How do Humans and LLMs Process Confusing Code?
  • 著者: Youssef Abdelsalam, Norman Peitek, Anna-Maria Maurer, Mariya Toneva, Sven Apel
  • 発行元: arXiv
  • 発行日: 2025年8月25日
  • URL: https://arxiv.org/abs/2508.18547

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・記載されている情報は、投稿日までに確認された内容となります。正確な情報に関しては、各種公式HPを参照するようお願い致します。
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要点

  • 人間の脳活動とLLMのモデル不確実性を比較した結果、複雑なコードに対する反応が有意に一致することが初めて実証された
  • EEG信号の「後期前頭陽性」とLLMの「perplexity値」のピークが、コードの同じ箇所で発生することが確認された
  • この類似性をもとに、コード内の混乱を引き起こす箇所を自動検出する手法が開発され、60%以上の精度で既知パターンを識別できた
  • 新たに150以上の未認識の混乱パターンが発見され、これらも人間の脳活動増加と一致していた

詳細解説

研究の背景:「atoms of confusion」とは

 この研究が対象としたのは、プログラミングにおける「atoms of confusion」と呼ばれる概念です。atoms of confusionとは、構文的には正しいものの、人間にとって誤解を招きやすい短いプログラミングパターンを指します。これらは経験豊富な開発者でさえ混乱させる可能性があるとして、ソフトウェア工学の分野で研究されてきました。

 現在、LLMベースのプログラミングアシスタントと人間が日常的に協働する中で、両者がコードを理解する方法の不一致は、誤解や非効率、コード品質の低下、バグの原因となる可能性があります。そのため、人間とLLMが同じ種類のコードで混乱するかどうかを明らかにすることは、AI支援開発ワークフローの改善において重要な意味を持つと考えられます。

学際的アプローチ:脳科学とAIの融合

 ザールラント大学のSven Apel教授とマックスプランク研究所のMariya Toneva研究員が主導したこの研究は、神経科学とAI研究を組み合わせた独創的な手法を採用しています。

 人間側の分析では、Apel教授らの以前の研究データを活用し、参加者が混乱を引き起こすコードとクリーンなコードを読む際の脳活動を脳波計(EEG)とアイトラッキングで測定しました。EEGは脳の電気的活動をリアルタイムで記録する非侵襲的な手法で、認知プロセスの研究に広く用いられています。

 一方、LLM側の分析では「perplexity」という指標を用いました。perplexityは言語モデルの評価において確立された指標で、モデルがテキストトークンの系列を予測する際の不確実性を定量化します。perplexity値が高いほど、モデルがその箇所で「混乱」していることを示すと解釈できます。

驚くべき一致:脳活動とモデル不確実性の相関

 研究の最も注目すべき結果は、人間が混乱した箇所とLLMのperplexityが上昇した箇所が一致したことです。特に、EEG信号の中でも「後期前頭陽性(late frontal positivity)」と呼ばれる成分が重要な役割を果たしました。

 後期前頭陽性は、言語研究において予期しない文末などに遭遇した際に観察される脳活動パターンとして知られています。この信号が、LLMの不確実性のピークと正確に対応して上昇したことは、人間とAIが同様の認知プロセスを経ている可能性を示唆していると考えられます。

 博士課程でこの研究に貢献したYoussef Abdelsalam氏は「脳活動とモデル不確実性のピークが有意な相関を示したことに驚きました」と述べています。この発見は、人間とAIの認知的な「アラインメント」について新たな視点を提供するものです。

実用的応用:混乱箇所の自動検出

 この類似性に基づいて、研究チームは混乱を引き起こすコード箇所を自動的に検出・ハイライトする手法を開発しました。このアルゴリズムは、テストコード内の既知の混乱パターン(手動で注釈されたもの)を60%以上の精度で識別することに成功しました。

 さらに注目すべきは、これまで認識されていなかった150以上の新しい混乱パターンを発見したことです。これらの新パターンも、人間の脳活動増加と一致していました。このことは、データ駆動型のアプローチが、人間の直感だけでは見逃されていた問題箇所を発見できる可能性を示していると言えます。

今後の展望:人間とAIの協働の改善に向けて

 Mariya Toneva研究員は「この研究により、人間と機械のアラインメントについてより深い理解への一歩を踏み出しています」と述べています。また、Sven Apel教授は「LLMと人間がどこで、なぜ同じ箇所でつまずくのかを理解できれば、コードをより理解しやすくし、人間とAIの協働を大幅に改善するツールを開発できます」と将来の可能性に言及しています。

 この研究は神経科学、ソフトウェア工学、人工知能の橋渡しをする取り組みとして、International Conference on Software Engineering(ICSE)での発表が受理されています。ICSEはソフトウェア工学分野における最も権威ある国際会議の一つであり、この成果が学術的に高く評価されていることを示していると考えられます。

まとめ

 ザールラント大学とマックスプランク研究所の研究は、人間とLLMがプログラムコードを処理する際の認知プロセスの類似性を実証的に示しました。この発見は、AI支援プログラミングツールの改善や、より効果的な人間とAIの協働環境の構築に向けた重要な一歩となる可能性があります。今後、このような学際的アプローチがさらに発展し、より理解しやすいコード環境の実現につながることが期待されます。

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