はじめに
本稿では、Googleが提供する最先端のAI動画生成ツール「Flow」を使いこなし、創造性を最大限に引き出すための具体的な方法について、Google AIの公式ブログに掲載された記事「5 tips for getting started with Flow」をもとにご紹介します。
引用元記事
- タイトル: 5 tips for getting started with Flow
- 著者: Elias Roman (Senior Director, Product Management, Google Labs)
- 発行元: Google
- 発行日: 2025年6月25日
- URL: https://blog.google/technology/ai/flow-video-tips/


要点
- 高品質なAI動画生成の基礎は、被写体、動き、構図、場所、照明、スタイルなどを具体的に記述した詳細なプロンプトにある。
- キャラクターや小道具を「Ingredient」として登録することで、複数の動画クリップ間で一貫性を保つことが可能である。
- 「Ingredients to Video」機能は、登録した「Ingredient」を動画内で意図通りに動かすためのものである。
- 「Frames to Video」機能は、開始フレームとなる画像をアップロードすることで、動画の構図を精密に制御するものである。
- 「Scenebuilder」は、生成したクリップを組み合わせ、「Jump To」や「Extend」といったツールで物語として編集するためのものである。
詳細解説
そもそも「Flow」とは?
本題に入る前に、いくつかの重要なキーワードについてご説明します。
「Flow」とは、2024年5月のGoogle I/Oで発表された、テキストや画像から高品質な動画を生成できるAI映像制作ツールです。このツールの心臓部には「Veo」という、Googleが開発した最新鋭の動画生成AIモデルが搭載されています。Veoは、ユーザーが入力した指示(プロンプト)を深く理解し、非常にリアルで、感情豊かで、映画のような映像を生成する能力を持っています。
また、FlowはGoogleの画像生成AI「Imagen」や、大規模言語モデル「Gemini」とも連携しており、これらの技術を組み合わせることで、ユーザーのアイデアをより忠実かつ創造的に映像化することができます。
Flowを使いこなす5つの秘訣
それでは、引用元の記事で紹介されている5つのヒントを、さらに詳しく解説していきます。
1. Geminiも活用し、詳細なプロンプトから始める
AI動画生成において、最も重要なのはプロンプト(AIへの指示文)の質です。単純な指示でも素晴らしい結果が得られることもありますが、より創造的で意図通りの動画を作るには、詳細なプロンプトが不可欠です。(なお、2025年6月現在、対応している言語は英語のみです)
- 含めるべき要素:
- 被写体とアクション: 「誰が」「何を」しているのかを明確にします。(例:「宇宙飛行士が、無重力空間をゆっくりと漂っている」)
- 構図とカメラワーク: 専門的な映画用語を使うと、より精密な制御が可能です。(例:「被写体の顔に寄るクローズアップ」「被写体を追いかけるトラッキングショット」「上空から見下ろす空撮」)
- 場所と照明: シーンの雰囲気を決定づける重要な要素です。「部屋」のような漠然とした表現ではなく、「忘れられた宝物で満たされた埃っぽい屋根裏部屋、汚れた窓から午後の光が一筋差し込んでいる」のように情景を描写します。
- スタイル: 写実的なスタイルだけでなく、様々なアニメーションスタイルを試すことができます。(例:「ストップモーションアニメ風」「編み物のアニメーション」「粘土アニメーション」)
- 音声とセリフ(実験的機能): Veo 3モデルを選択すると、音声も生成できます。環境音、効果音、さらにはセリフまでプロンプトに含めることが可能です。
- Geminiの活用:
良いプロンプトが思いつかない時は、対話型AIのGeminiに相談するのが非常に有効です。アイデアを伝え、より映画的で、技術的に正確なプロンプトを作成してもらうことができます。記事では、以下のようなプロンプトをGeminiに投げかけることを推奨しています。
You are the world’s most intuitive visual communicator and expert prompt engineer. You possess a deep understanding of cinematic language, narrative structure, emotional resonance, the critical concept of filmic coverage and the specific capabilities of Google’s Veo AI model. Your mission is to transform my conceptual ideas into meticulously crafted, narrative-style text-to-video prompts that are visually breathtaking and technically precise for Veo.
「あなたは世界で最も直感的なビジュアルコミュニケーターであり、プロンプトエンジニアリングの専門家です。あなたは映画言語、物語構造、感情的共鳴、映像表現における重要な概念、そしてGoogleのVeo AIモデルの特定能力を深く理解しています。あなたの使命は、私の概念的なアイデアを、Veoにとって視覚的に息をのむほど美しく、技術的に正確な、物語形式のテキストからビデオへのプロンプトに変換することです。」
2. Ingredient(材料)を作成する
物語を作る上で、同じキャラクターや小道具が何度も登場することはよくあります。Flowでは、こうした一貫性を保ちたい視覚要素を「Ingredient(材料)」として登録できます。
Ingredientは、画像生成AIのImagenを使ってテキストから生成するか、手持ちの画像をアップロードすることで作成します。これにより、あなただけのオリジナルキャラクターや特定のスタイルの参照を、いつでも動画に登場させることができるようになります。
3. Ingredients to Videoで世界をアニメートする
Ingredientを登録したら、次はこの材料を使って命を吹き込みます。「Ingredients to Video」機能は、登録したIngredientを動画プロンプト内で参照し、一貫性を保ったままアニメーション化するための機能です。
例えば、「ゼブラ柄のタクシーの後部座席」というIngredientと「クラゲ」というIngredientを登録しておけば、「クラゲがゼブラ柄のタクシーの後部座席で泳ぎ始める」といった、ユニークで一貫性のあるシーンを簡単に作り出すことができます。
4. Frames to Videoでシーンを設定する
動画の開始シーンの構図を、より厳密にコントロールしたい場合に役立つのが「Frames to Video」機能です。この機能では、動画の開始フレームとなる画像をアップロードすることができます。
これにより、前のシーンの最後のフレームからスムーズに繋がるようにしたり、特定の構図からシーンを開始させたりと、映像のトランジション(場面転換)を思い通りに演出できます。
5. Scenebuilderで物語を構築する
個別に生成した動画クリップは、「Scenebuilder」という絵コンテのようなツールで一つの物語にまとめ上げます。Scenebuilderには、物語の流れをスムーズにするための強力な機能が備わっています。
- Jump To: あるクリップに登場したキャラクターやオブジェクトの外観を保ったまま、全く新しい場所や状況に瞬間移動させる機能です。これにより、シーンが変わるたびにキャラクターを再生成する手間が省けます。
- Extend: 生成したクリップが「もう少し長ければ…」という時に、自然な形でクリップを延長してくれる機能です。AIが最後の数フレームを分析し、違和感なくアクションを継続させてくれます。
これらの機能を駆使することで、単発のクリップ作成に留まらず、複数のシーンから成る一貫したストーリーを構築することが可能になります。
まとめ
本稿では、GoogleのAI動画生成ツール「Flow」を最大限に活用するための5つのヒントを、具体的な機能と共に詳しく解説しました。
- 詳細なプロンプトでAIに明確なビジョンを伝える。
- Ingredient機能でキャラクターやスタイルの一貫性を保つ。
- Ingredients to Video機能でIngredientを動かす。
- Frames to Video機能でシーンの構図を精密に制御する。
- Scenebuilderでクリップを繋ぎ合わせ、物語を構築する。
Flowは、これらの強力な機能を通じて、私たちの創造的なアイデアをかつてないほど簡単かつ忠実に映像化してくれます。専門的な映像制作のスキルがなくても、誰もが頭の中にある物語を世界に発信できる可能性を秘めています。Flowは現在、世界70カ国以上でGoogle AIのサブスクリプション登録者向けに提供が開始されており、今後さらに多くの国で利用可能になる予定です。この新しいテクノロジーが、未来のクリエイティブシーンをどう変えていくのか、非常に楽しみです。