はじめに
本稿では、米国の著名な投資家であり、実業家でもあるマーク・キューバン氏が、どのように人工知能(AI)を日常生活に取り入れているかについて、CNBCの「Mark Cuban: I use AI daily ‘for everything,’ from monitoring my health to writing code—but ‘you’ve got to be careful’」という記事をもとに解説します。
引用元記事
- タイトル: Mark Cuban: I use AI daily ‘for everything,’ from monitoring my health to writing code—but ‘you’ve got to be careful’
- 著者: Ashton Jackson
- 発行元: CNBC
- 発行日: 2025年7月11日
- URL: https://www.cnbc.com/2025/07/11/mark-cuban-i-use-ai-daily-for-monitoring-health-writing-code-more.html
要点
- 億万長者の投資家マーク・キューバンは、AIをコーディング、健康管理、コンテンツ制作など「あらゆること」に日常的に活用している。
- AIは、専門知識がない分野でも迅速に成果物を生み出す強力なツールであるが、その出力は完璧ではない。
- AIは「ハルシネーション」と呼ばれる、事実に基づかない情報を生成するリスクがあるため、利用者は必ずファクトチェックを行い、専門家の意見と同様に慎重に扱う必要がある。
- AIを効果的に使う鍵は、望む出力を得るための指示方法である「プロンプトエンジニアリング」を習得することである。
詳細解説
マーク・キューバン氏によるAI活用術
本稿で取り上げるマーク・キューバン氏は、米国の著名な実業家であり、NBAチーム「ダラス・マーベリックス」のオーナーとしても知られる人物です。そんな彼が、AIを「あらゆること」に日常的に使っていると語り、その具体的な活用法が紹介されています。
1. ソフトウェア開発の高速化
キューバン氏は、何年も使っていなかったプログラミングのスキルをAIの助けを借りて復活させました。彼は「Replit」というAI搭載のプログラミングツールを使い、「自社の薬局と他社の薬局の価格を比較し、価格が変動したら通知を送る」というアイデアを伝えたところ、わずか数分でソフトウェアの初版が完成したと語っています。これは、専門的なプログラマーでなくても、アイデアを素早く形にできるAIの可能性を象徴する事例です。
Replitは、ウェブブラウザ上でコードを記述し、実行できるオンラインの統合開発環境(IDE)です。AIによるコード補完や自動生成機能を備えており、初心者からプロまで、迅速なソフトウェア開発をサポートします。
2. パーソナルな健康管理アシスタント
キューバン氏は、自身が経験した心房細動(不整脈の一種)の治療において、ChatGPTを健康管理に活用しました。彼は服用した薬やワークアウトの内容をChatGPTに記録させ、「もし記録した内容に懸念すべき点があれば知らせてほしい」と指示したのです。これは、AIが単なる情報検索ツールではなく、個人の状況に合わせて能動的にサポートするパーソナルアシスタントになり得ることを示しています。
3. コンテンツ制作の効率化
さらに、彼がオーナーを務めるNBAチームのコンテンツ制作においても、テキスト情報から動画を生成するためにAIを利用しているとのことです。これにより、情報発信のスピードと量を向上させていると考えられます。
AI利用における最大の注意点:「ハルシネーション」
AIの素晴らしい可能性を紹介する一方で、キューバン氏は「注意が必要だ」と強く警告しています。その最大の理由が、AIが時折引き起こす「ハルシネーション(Hallucination)」です。
ハルシネーションとは、AIが事実に基づかない情報や、文脈に合わない内容を、あたかも事実であるかのように自信を持って生成する現象を指します。「AIがもっともらしい嘘をつく」と考えると分かりやすいでしょう。
記事で引用されているコロンビア大学の研究によれば、AIチャットボットは答えられない質問に対して「分かりません」と答えるのが苦手で、不正確な答えや推測を提示する傾向があるとされています。さらに、偽のウェブサイトリンクを生成することさえあるのです。
キューバン氏は、このリスクを「物知りの友人と話しているようなものだ。それでも専門家に相談するように注意しなければならない」と巧みに表現しています。つまり、AIからの情報はあくまで参考意見と捉え、鵜呑みにせず、必ずファクトチェック(事実確認)を行うことが極めて重要なのです。
これからの必須スキル:「プロンプトエンジニアリング」
では、どうすればAIを賢く使いこなせるのでしょうか。キューバン氏は、その鍵として「プロンプトエンジニアリング」の重要性を指摘しています。
これは、AIから望むような質の高い出力を得るために、指示(プロンプト)をどのように設計し、工夫するかという技術や学問分野のことです。AIに「良い質問」を投げかける能力が、これからの時代に求められる重要なスキルとなります。
まとめ
マーク・キューバン氏の事例は、AIが私たちの能力を拡張し、専門家でなくても高度なタスクを実行可能にする、まさに革命的なツールであることを示しています。コーディングから健康管理まで、その応用範囲は無限大です。
しかし、その強力な力を安全かつ効果的に利用するためには、AIが決して完璧ではないことを理解しなければなりません。AIが生成した情報は常に批判的な視点で見つめ、ファクトチェックを怠らない姿勢が不可欠です。
そして、AIとの対話能力、すなわち「プロンプトエンジニアリング」のスキルを磨くことが、これからのデジタル社会を生き抜く上で、私たち一人ひとりにとって重要な課題となるでしょう。