目次
はじめに
本稿では、Googleの社員(Googler)たちが日常業務でどのようにAIを活用しているかを公式ブログをもとに、開発業務の効率化から、創造的なアイデア出し、さらには食品廃棄の削減に至るまで、多岐にわたる具体的な事例を通じて、AIを仕事のパートナーとするためのヒントを紹介します。
参考記事
- タイトル: 14 ways Googlers use AI to work smarter
- 発行元: Google Blog
- 発行日: 2025年8月18日
- URL: https://blog.google/technology/ai/google-ai-workplace-examples/
要点
- Google社員は、開発、マーケティング、営業、人事など、社内のあらゆる業務でAIを日常的に活用している。
- AIは、コード生成やバグ修正といった開発プロセスの速度を向上させるためのコーディングパートナーとして機能している。
- Geminiのような生成AIは、キャンペーンのアイデア出しやコンテンツ作成など、創造性を刺激するアシスタントとして利用されている。
- 営業提案書の作成や会議の議事録作成など、定型的な業務を自動化・効率化し、より戦略的な活動に時間を割くことを可能にしている。
- 社員からのフィードバック分析や採用活動、さらには社員食堂での食品廃棄削減といった組織運営の改善にもAIが貢献している。
- GoogleにおけるAIの活用は、単なる効率化にとどまらず、社員がより革新的で価値の高い仕事に集中するための協調的なパートナーと位置づけられている。
詳細解説
Googleは、自社で開発したAIツールをユーザーに提供するだけでなく、社員自身の業務効率と生産性を高めるためにも積極的に活用しています。ここでは、記事で紹介されている14の事例を、いくつかのカテゴリーに分けて詳しく見ていきましょう。
1. ソフトウェア開発の効率化
Googleの中核であるソフトウェア開発の現場では、AIが不可欠なパートナーとなっています。
- コード生成: 開発者はAIをコーディングの相棒として利用しています。Googleで書かれる新規コードの30%はAIによって生成されており、その後エンジニアによるレビューと承認を経て実装されます。これにより、開発と修正のサイクルが高速化されています。
- 開発速度の向上: AIの支援はコード生成だけにとどまりません。コードレビュー、テスト、システム移行といった開発ライフサイクル全体に及び、エンジニアリングの速度が推定10%向上したと報告されています。
- バグの優先順位付けと修正: AIモデルは、システム内のバグを整理し、問題の原因を迅速に特定するのに役立っています。これにより、エンジニアは最も重要な問題から集中して取り組むことができます。例えば、重複したバグ報告の12%はAIエージェントによって自動的に処理されています。
2. クリエイティブ業務とマーケティングの支援
アイデアやコンテンツが重要となるクリエイティブな分野でも、AIはその能力を発揮しています。
- 創造性の発火点として: マーケティングチームは、クリエイティブアシスタントとしてGeminiを活用しています。Googleのマーケティングスタイルや過去の成功事例を反映したキャンペーンのコンセプトや、YouTube動画のスクリプト案などを生成させています。
- 魅力的なコンテンツ作成: YouTubeの編集チームは、Geminiを使ってポッドキャストから興味深い引用と正確なタイムスタンプを素早く抽出しています。これにより、より魅力的なタイトルや動画説明文を作成する時間を短縮しています。
- ビジュアル素材の作成: Googleの開発者向けイベント「Google I/O」では、基調講演のスライド219枚がAIの支援を受けて作成されました。使用されたビジュアルの48%は画像生成AIのImagen、動画の80%は動画生成AIのVeoまたはImagenを用いて制作されたものです。
- アイデアのテスト: Google DeepMindの研究者たちは、新しいアイデアを試すための「壁打ち相手」としてAIを利用しています。動画のモックアップ作成や、新しいアイデアを売り込むための様々な表現方法の探求にAIが役立っています。
3. 営業および管理業務の最適化
顧客対応や社内会議など、日々のビジネスシーンでもAIによる効率化が進んでいます。
- 営業提案書の迅速化: 営業チームが顧客からの提案依頼書(RFP)に効率的に対応できるよう、社内向けのAIツールを開発しました。このツールは、Google CloudのRFP完了件数を前年比で78%増加させることに直接貢献しました。
- 営業リードの質向上: Google CloudのAIベースのリードフィルタリングツールは、最も有望な潜在顧客を特定するのに役立っています。これにより、リードが商談に転換する確率が14%向上しました。
- 会議の自動議事録: Google Meetでは、Geminiが会話をリアルタイムで文字起こしし、要点やアクションアイテムをまとめた要約を生成します。これにより、参加者はメモを取る作業から解放され、議論に集中できます。2025年6月だけで、5,000万人以上の会議参加者がこの機能の恩恵を受けました。
4. 組織運営と安全性の向上
プラットフォームの安全性維持から人事、総務に至るまで、組織運営の裏側でもAIが活躍しています。
- プラットフォームの安全性維持: Trust & Safetyチームは、ポリシーに違反する可能性のあるコンテンツをAIが検出し、フラグを立てることで、レビュー作業の時間を大幅に節約しています。2024年だけでも10億件以上のコンテンツを人手でレビューしており、この効率化は非常に重要です。
- 従業員フィードバックの理解: NotebookLMというAIツールを使い、何千もの従業員サーベイの回答から主要なテーマを即座に要約・特定しています。これにより、社内イベントなどを改善するための実用的な情報を迅速に得ることができます。
- 適切な人材の発見: 人事部門は、採用プロセスの一環としてAIを活用しています。候補者データベースをより効果的に検索し、候補者のスキルや経験を適切な職務とマッチングさせています。ただし、最終的な判断は常に採用担当者が主導します。
- 食品廃棄の削減: Googleのシェフたちは、AIによるデータ分析から得られる洞察を活用してメニューを改善し、社員食堂での廃棄を未然に防いでいます。これにより、2024年には従業員一人当たりの食品廃棄量を2019年比で約39%削減しました。
まとめ
今回紹介した14の事例は、GoogleにおいてAIが単なる作業の高速化ツールではなく、社員の能力を拡張し、より創造的で戦略的な業務に集中できるようにするための「協調的なパートナー」として機能していることを示しています。
AIに定型業務を任せることで、人間はより複雑な課題解決や新しいアイデアの創出といった、本質的な仕事に時間とエネルギーを注ぐことができます。本稿で紹介したGoogleの取り組みは、AI時代の新しい働き方を考える上で、日本の多くのビジネスパーソンにとっても貴重なヒントとなるでしょう。