はじめに
ギリシャ当局がアテネで試験運用したAI搭載交通カメラが、わずか4日間で約2,500件の交通違反を記録したことが明らかになりました。Carscoopsが2025年12月27日に報じた内容をもとに、AI交通監視システムの仕組みと検出実績、今後の拡大計画について解説します。
参考記事
- タイトル: A Single AI Traffic Camera Issued Over 1,000 Fines In Just Four Days
- 著者: Thanos Pappas
- 発行元: Carscoops
- 発行日: 2025年12月27日
- URL: https://www.carscoops.com/2025/12/ai-traffic-cameras-fines-pilot-program/
要点
- ギリシャがアテネ市内8箇所でAI交通カメラの試験運用を実施し、4日間で約2,500件の違反を記録した
- シングロウ大通りに設置された1台のカメラだけで1,000件以上の違反を検出し、試験期間中の全違反の約半数を占めた
- カメラはシートベルト不着用、運転中の携帯電話使用、信号無視、緊急車線の不正使用などを自動検出する
- 今後全国に2,000台の固定カメラと500台の移動式カメラを配備する計画で、デジタルガバナンス省が運用を主導する
- 同様のAI交通カメラは英国、ドイツ、フランス、スペイン、オーストラリア、インド、中国、中東、米国などでも導入されている
詳細解説
AI交通カメラの検出対象と技術的仕組み
Carscoopsによれば、ギリシャで導入されたAI交通カメラは、スピード違反や信号無視に加えて、シートベルト不着用、運転中の携帯電話使用、緊急車線の不正使用など、複数の違反行為を自動的に検出します。
違反が検出されると、カメラはタイムスタンプ付きの動画と静止画像を撮影し、証拠の完全性を確保するために暗号化して保存します。このような画像認識技術は、ディープラーニングによる物体検出と行動認識を組み合わせたもので、車両の動きだけでなく、ドライバーの行動パターンまで分析できる技術と考えられます。
違反者への通知は、従来の路上での取り締まりとは異なり、SMS、メール、または政府ポータルサイト経由で送信されます。違反者はこれらのチャネルを通じて直接罰金を支払うことができ、異議申し立ての仕組みも用意されていますが、暗号化された動画証拠の存在により、反論の余地は限定的になると思います。
試験運用の検出実績
Carscoopsの報道によれば、アテネとピレウス港を結ぶ主要幹線道路であるシングロウ大通りに設置された1台のカメラだけで、4日間に1,000件以上の違反を記録しました。この1台だけで試験期間中の全違反件数の約半数を占めたことになります。
他の地点でも同様に多数の違反が検出されました。アギア・パラスケヴィ地区のメソゲイオン大通りとハランドリウ大通りの交差点では、480人のドライバーが信号無視で摘発されています。また、カリテア地区のヴリアグメニス大通りとティヌー通りの交差点では285人が同様の違反で検挙されました。
これらの数字は、特定の場所だけの問題ではなく、広範囲にわたる交通ルール遵守の課題を示していると考えられます。従来の人的監視では把握しきれなかった違反の実態が、AI技術によって可視化されたとも言えます。
罰金体系と収入見込み
Carscoopsによれば、シートベルト不着用または運転中の携帯電話使用に対する罰金は€350(現在のレートで約$410)で、スピード違反の場合は違反の程度に応じて€150-750($180-880)の範囲で罰金が科されます。
この罰金額を考慮すると、1台のAIカメラが3日間で最大€750,000($880,000、日本円で約1億2,000万円相当)の罰金収入を生み出す可能性があると試算されています。この数字が抑止力として機能するのか、それとも行政システムの機能不全を示すものなのかは解釈が分かれるところですが、収入創出の可能性は現実的と考えられます。
ただし、この収入見込みは違反件数が現在のペースで継続することを前提としており、カメラ設置の周知が進めば違反件数は減少する可能性もあります。
今後の拡大計画と運用体制
Carscoopsによれば、現在稼働しているのはデジタルガバナンス省が運用する8箇所のAIカメラのみですが、今後大規模な拡大が予定されています。具体的には、全国に2,000台の固定カメラを設置し、さらに500台の移動式カメラを公共バスに搭載して、専用バスレーンの不正使用を監視する計画です。
当局は、この拡大システムによって交通事故と死亡者数の削減、警察リソースへの負担軽減、公共サービス向上のための安定的な収入確保を目指しています。ドライバーの行動変容を促せるかどうかに関わらず、行政側は自動化への移行を進める姿勢と思います。
デジタルガバナンス大臣のディミトリス・パパステルギウ氏はギリシャ紙Kathimeriniに対して、「これは明確な社会的目標を持つ政治的決定です。交通事故を減らし、人命を救うことが目的です」と述べ、「罰則的なアプローチではありません。ルールがすべての人に適用され、公正かつ現代的な方法で施行されることを市民に知ってもらいたい」と説明しています。
世界的な導入状況
Carscoopsによれば、AI交通カメラの導入はギリシャだけの試みではありません。英国、ドイツ、フランス、スペイン、オーストラリア、インド、中国、中東諸国、米国など、世界各国で同様のシステムがすでに使用されています。
各国で導入の背景や目的は異なりますが、交通監視の自動化は世界的なトレンドと言えます。日本でも速度違反自動取締装置(オービス)は以前から使用されていますが、近年はAI技術を活用した高度な画像認識システムの試験導入が進んでいます。
プライバシーと公共安全のバランスをどう取るかは各国で議論が続いていますが、技術的な実現可能性と行政効率化のメリットから、AI交通監視の導入は今後も拡大する可能性があります。
まとめ
ギリシャのAI交通カメラは、わずか4日間の試験運用で約2,500件の違反を検出し、1台で1,000件超を記録する高い検出能力を示しました。今後2,000台の固定カメラと500台の移動式カメラへと大規模に拡大される計画で、世界的にも同様の技術導入が進んでいます。交通安全とプライバシーのバランスをどう取っていくかが、今後の課題になると思います。
