はじめに
Googleが2025年12月10日、AIコーディングエージェント「Jules」の大幅なアップデートを発表しました。本稿では、新たに追加された「Suggested Tasks」「Scheduled Tasks」「Render統合」の3つの機能を中心に、これらがどのように開発ワークフローを変えていくのかを解説します。
参考記事
- タイトル: New updates make Jules a proactive AI partner
- 著者: AK Kulkarni
- 発行元: Google Blog
- 発行日: 2025年12月10日
- URL: https://blog.google/technology/developers/jules-proactive-updates/
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要点
- Julesは、開発者が明示的に指示しなくても、コードベースから改善タスクを自動的に提案する「Suggested Tasks」機能を搭載した
- 定期的なメンテナンス作業を自動化する「Scheduled Tasks」により、依存関係チェックなどを指定した頻度で実行できるようになった
- Render統合により、デプロイ失敗時にJulesが自動的にログを分析し、修正案を作成してプルリクエストを開くようになった
- Google AI ProおよびUltra加入者は、最大5つのリポジトリでSuggested Tasks機能を利用可能である
詳細解説
Julesの「先回り支援」という新しいアプローチ
Googleによれば、今回のアップデートでJulesは「プロアクティブなエージェント」へと進化しました。プロアクティブとは、開発者が指示を出す前に、システムが自律的に問題を発見し、解決策を提案する動作を指します。
従来のコーディング支援ツールは、開発者がプロンプトを入力して初めて動作する「リアクティブ(反応的)」な性質を持っていました。これに対し、今回のJulesは継続的にコードベースを監視し、改善が必要な箇所を自発的に見つけ出すという点で、新しいアプローチと言えます。
Suggested Tasks: TODOコメントから始まる自動提案
Suggested Tasks機能は、Google AI ProおよびUltra加入者向けに提供される実験的機能です。Googleの説明では、この機能は最大5つのリポジトリで有効化でき、コードベースを継続的にスキャンして改善提案を行います。
現時点では「#todos」コメントを検出して提案を生成することから始まっていますが、Googleは今後、対応する使用ケースと上限を拡大していく予定としています。開発者は提案を確認し、承認または却下を選択できるため、最終的な判断は人間の手に残る設計です。
この機能が実用的かどうかは、提案の精度と頻度に依存すると考えられます。有用な提案が適切な頻度で届けば開発効率が向上しますが、ノイズが多いと逆効果になる可能性もあります。
Scheduled Tasks: 定期作業の自動化
Scheduled Tasksは、予測可能な定期作業を自動化する機能です。Googleは、依存関係のチェックや週次のハウスキーピング作業などを例として挙げています。
開発者が頻度を設定すると、Julesは指定されたタイミングでタスクを実行します。これにより、定期的なメンテナンス作業による中断が減り、開発フローを維持しやすくなると考えられます。
この機能は全ユーザーに提供されており、実験的機能ではない点が注目されます。定期的なメンテナンスタスクは多くの開発チームで共通の課題であり、自動化による効果が見込みやすい領域と言えます。

Render統合: デプロイ失敗から修正までのループを短縮
新しいRender統合機能により、JulesはRenderプラットフォームでのデプロイ失敗に自動対応します。GoogleはRenderアカウントを単一のAPIキーで接続できると説明しています。
Julesが作成したプルリクエストのデプロイが失敗すると、Julesは即座に介入し、開発者がログをコピー&ペーストする必要なくログを分析します。そして問題を特定し、修正コードを書き、レビュー用のプルリクエストを開きます。
この機能の実用性は、ログ分析と問題診断の精度にかかっていると思います。デプロイ失敗の原因は多岐にわたるため、どの程度の範囲で自動修正が有効かは、実際の使用事例の蓄積が必要でしょう。
Stitchチームでの実践例
Googleのブログでは、Googleの社内チームであるStitch(AIデザインエージェント)の開発チームでの活用事例が紹介されています。
このチームはScheduled Tasksを使って、パフォーマンスチューニング、セキュリティパッチ、アクセシビリティ改善、テストカバレッジ向上といった異なる役割を持つ複数のJulesエージェント「ポッド」を構成しました。Googleによれば、このバックグラウンド作業により、Julesはリポジトリへの最大の貢献者の1つとなり、人間のチームは複雑な機能開発と創造的問題解決に集中できるようになったとのことです。
この事例は、プロアクティブなエージェントが実際の開発環境でどのように機能するかを示す興味深い例です。ただし、Googleの社内プロジェクトという特殊な環境での成功例であり、一般的な開発チームで同様の効果が得られるかは、チームの規模やコードベースの性質によって異なる可能性があります。
まとめ
Julesの今回のアップデートは、AIコーディングエージェントが「指示待ち」から「先回り支援」へと進化する方向性を示しています。Suggested Tasks、Scheduled Tasks、Render統合という3つの機能は、それぞれ異なる角度から開発者の負担を軽減することを目指しています。これらの機能が実際の開発現場でどのように受け入れられ、どの程度の効果を発揮するのか、今後の展開が注目されます。
