[開発者向け]Google「Gemini 3 Pro」はエージェント開発とVibe Codingをどう進化させるのか?

目次

はじめに

 Googleが2025年11月18日、最新のAIモデル「Gemini 3 Pro」を開発者向けに公開しました。本稿では、Google公式ブログの発表内容をもとに、Gemini 3 Proの性能、エージェント開発プラットフォーム「Google Antigravity」、自然言語のみでアプリを作成できる「Vibe Coding」、そしてマルチモーダル理解能力について詳しく解説します。

参考記事

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要点

  • Gemini 3 Proは、すべての主要AIベンチマークでGemini 2.5 Proを上回り、コーディングにおいてエージェントワークフローと複雑なゼロショットタスクの両方で優れた性能を発揮する
  • プレビュー版の価格は、20万トークン以下のプロンプトで入力$2/100万トークン、出力$12/100万トークンであり、Google AI Studioでは制限付きで無料利用が可能である
  • Google Antigravityという新しいエージェント開発プラットフォームが導入され、エディタ、ターミナル、ブラウザを横断して自律的に動作する複数のエージェントを管理できる
  • Vibe Codingにより、自然言語のみで完全なインタラクティブアプリを1つのプロンプトから生成でき、WebDev Arenaリーダーボードで1487 Eloを記録した
  • MMMU-Proで複雑な画像推論、Video MMMUで動画理解において世界最高性能を達成し、100万トークンのコンテキストウィンドウと組み合わせてマルチモーダルユースケースで大幅な改善を実現する

詳細解説

Gemini 3 Proの基本性能とベンチマーク結果

 Googleによれば、Gemini 3 Proは最先端の推論能力を基盤として構築されており、すべての主要AIベンチマークで前バージョンと比較して優れた結果を示しました。特にコーディング分野では、Gemini 2.5 Proを上回る性能を記録し、エージェントワークフローと複雑なゼロショットタスクの両方に習熟しています。

 発表では、Gemini 3 Pro、Gemini 2.5 Pro、Claude Sonnet 4.5、GPT-5.1との比較ベンチマーク表が示されており、Gemini 3 Proが競合モデルと比較して優位性を持つことが明示されています。

 価格設定については、20万トークン以下のプロンプトでプレビュー版が入力$2/100万トークン、出力$12/100万トークンで提供されます。Google AI StudioとVertex AI(企業向け)を通じてGemini API経由で利用可能で、Google AI Studioでは制限付きながら無料での利用も可能です。

 この価格設定は、従来の大規模言語モデルと比較して、特に開発段階やプロトタイピングにおいて導入しやすい水準と考えられます。ただし、本格的な商用利用では、トークン使用量に応じたコスト管理が重要になります。

エージェント開発能力とTerminal-Bench 2.0での評価

 Googleは、Gemini 3 Proがエージェント型コーディングモデルの新しい基盤になると位置づけています。Terminal-Bench 2.0において、Gemini 3 Proは54.2%のスコアを記録しました。

 Terminal-Bench 2.0は、モデルがターミナルを介してコンピュータを操作するツール使用能力を評価する標準的なベンチマークです。このスコアは、AIモデルが実際の開発環境でどれだけ効果的にコマンドラインツールを扱えるかを示す重要な指標となります。

 Gemini 3 Proは、Google Antigravity、Gemini CLI、Android Studioといった公式ツールに加え、Cursor、GitHub、JetBrains、Manus、Clineなどのサードパーティ開発ツールでも利用可能です。

 第三者評価として、Clineの開発責任者Nik Pash氏は、「Gemini 3 Proは、コードベース全体にわたる複雑で長期的なタスクを処理し、複数ファイルのリファクタリング、デバッグセッション、機能実装を通じてコンテキストを維持します。Gemini 2.5 Proよりもはるかに効果的に長期文脈を使用し、他の主要モデルでは解決できなかった問題を解決しました」とコメントしています。

Google Antigravity:新しいエージェント開発プラットフォーム

 Googleは、Gemini 3との連携を前提とした新しいエージェント開発プラットフォーム「Google Antigravity」を発表しました。このプラットフォームは、開発者がタスク指向の高いレベルで作業できるように設計されており、ワークスペース全体でエージェントを管理しながら、コアにはなじみのあるAI IDE体験を保持しています。

 Google Antigravityでは、開発者が設計者として振る舞い、エディタ、ターミナル、ブラウザを横断して自律的に動作するインテリジェントエージェントと協働します。これらのエージェントは複雑なソフトウェアタスクを計画・実行し、詳細なアーティファクトを通じてユーザーに作業内容を伝達します。

 この仕組みにより、機能構築、UI反復、バグ修正から調査・レポート生成まで、開発のあらゆる側面が向上すると説明されています。パブリックプレビュー版は無料でダウンロード可能で、現在MacOS、Windows、Linuxに対応しています。

 従来のIDE(統合開発環境)では、開発者が手動でコードを記述し、ツールを切り替える必要がありましたが、このプラットフォームではAIエージェントが複数のツール間を自律的に移動しながらタスクを完遂する点が特徴的と言えるでしょう。

Gemini APIの新機能:Bashツールと構造化出力

 Gemini 3のリリースに伴い、Gemini APIにクライアントサイドのbashツールが導入されました。このツールにより、モデルはエージェントワークフローの一部としてシェルコマンドを提案できるようになり、ローカルファイルシステムのナビゲーション、開発プロセスの駆動、システム操作の自動化などのタスクに対応します。

 さらに、多言語コード生成と安全なプロトタイピングのためのホスト型サーバーサイドbashツールも提供されます。現在、早期アクセスパートナー向けにGemini APIで利用可能で、一般提供も近日中に予定されています。

 加えて、Gemini hosted toolsの「Grounding with Google Search」と「URL context」が構造化出力と組み合わせ可能になりました。これは、データの取得・抽出を行い、下流のエージェントタスク向けに特定フォーマットで出力するエージェントユースケースの構築において特に有効とされています。

 構造化出力は、AIモデルからの応答を特定のデータ形式(例:JSON)で受け取る機能で、APIを通じた自動化やデータ処理パイプラインの構築において重要な役割を果たします。

Vibe Coding:自然言語のみでアプリを作成

 Googleは、Gemini 3 Proが「Vibe Coding」の真の可能性を引き出すと説明しています。Vibe Codingとは、自然言語が唯一必要な構文となる開発手法を指します。

 複雑な指示への対応とツール使用の深化により、モデルは高レベルのアイデアを単一のプロンプトから完全にインタラクティブなアプリに変換できます。多段階の計画やコーディング詳細の処理を担当し、より豊かなビジュアルと深いインタラクティビティを提供しながら、開発者はクリエイティブなビジョンに集中できると説明されています。

 Googleによれば、Gemini 3 ProはWebDev Arenaリーダーボードで1487 Eloという印象的なスコアを記録し、トップの座を獲得しました。WebDev Arenaは、AIモデルのウェブ開発能力を評価する競技形式のベンチマークで、Eloレーティングシステムによって各モデルの相対的な強さが測定されます。

 第三者評価として、EmergentのCTO Madhav Jha氏は、「Gemini 3の優れたプロンプト遵守が、Emergentのフルスタックアプリ開発プラットフォーム、特にUI/フロントエンドワークフローを大幅に強化しています。Gemini 3の複数ステップツール呼び出しをエージェントコード開発セットアップに組み込むことで、素晴らしい結果が得られています」とコメントしています。

Google AI Studioでの単一プロンプト生成

 Google AI Studioは、Gemini 3を活用した最速のAIネイティブアプリ開発環境として提供されています。単一のプロンプトでゲームを構築したり、構造化されていない音声メモからインタラクティブなランディングページを作成したり、ナプキンのスケッチから本格的なアプリを生成したりできます。

 Googleは、Gemini 3により単一プロンプト生成能力をかつてないほど推し進めたと説明しており、アイデアからAI搭載アプリまでを1つのプロンプトで実現できるとしています。例として、Google AI Studioで構築されたレトロゲームが紹介されています。

 Build modeでは、AI機能をこれまで以上に迅速に追加でき、適切なモデルとAPIを自動的に接続します。annotationsなどの機能により、高速で直感的な反復が可能になります。

 従来のアプリ開発では、UI設計、フロントエンド実装、バックエンド連携などを段階的に進める必要がありましたが、この手法では構想段階から動作するプロトタイプまでの時間を大幅に短縮できる可能性があります。

マルチモーダル理解:画像・動画・空間推論

 Googleによれば、Gemini 3は複雑なマルチモーダル理解において世界最高のモデルであり、複雑な画像推論のためのMMM-Pro、動画理解のためのVideo MMMUで新記録を樹立しました。

 その知能と100万トークンのコンテキストウィンドウを組み合わせることで、開発者は主要なマルチモーダルユースケースの構築において大幅な改善を実現できます。レイテンシとコストをより細かく制御できるよう、アプリケーションに必要な視覚的忠実度に基づいて、Gemini APIでマルチモーダルビジョン処理をより細かく設定できるようになりました。

視覚推論とドキュメント理解

 Gemini 3 Proは、ドキュメント理解においてベストインクラスの性能を持ち、単純なOCR(光学文字認識)を超えて、複雑なドキュメント理解と推論をインテリジェントに処理します。

 OCRは文字を認識してテキストに変換する技術ですが、Gemini 3 Proはそれを超えて、ドキュメント内の情報の意味や関係性を理解し、複雑な質問に答えたり、情報を抽出したりできるということです。

 Google AI Studioのデモアプリでは、モデルのビジョン理解、推論、コーディング能力を確認でき、画像だけからインタラクティブなウェブ体験を作成できることが示されています。

空間推論と画面理解

 モデルの改善された空間理解は、ポインティング、軌跡予測、タスク進行などのエンボディド推論タスクにおいて強力なパフォーマンスを発揮し、自動運転車、XRデバイス、ロボティクスにわたる新しいユースケースを可能にします。

 エンボディド推論とは、物理的な環境や身体を持つシステム(ロボットなど)における推論能力を指し、空間認識や動作予測が重要な役割を果たします。

 空間推論は、デスクトップ、モバイル、OSスクリーンのインテリジェントな画面理解も強化し、コンピュータ使用エージェントで大幅なパフォーマンス向上を実現します。モデルは、マウスの動きや画面注釈に基づくユーザーアクションの意図も理解し、Visual Computerデモアプリのような新しい体験を可能にします。

 このデモでは、ユーザーが手描きの指示を画面上に描くと、Gemini 3がその指示を理解するだけでなく、画面とその要素の理解に基づいてインテリジェントに行動します。

動画推論と長時間コンテキスト処理

 Gemini 3 Proは、高フレームレート理解により高速アクションを捉え、動きの速いシーンで重要な瞬間を見逃しません。速度を超えて、long-contextリコールにより、何時間もの連続映像全体でナラティブを合成し、特定の詳細を特定できます。

 第三者評価として、OpusClipのCTO Jay Wu氏は、「動画エージェント推論とツール呼び出しにわたって、Gemini 3はAgent Opusにとって3つの重要な面で成果を上げています。速度では現在の実装と比較して32%以上の向上、精度では複雑な指示に従い構造化デコーディングを正確に実行する優れた能力、そして信頼性では長期文脈推論を管理し、幻覚という一般的な落とし穴なしに細かいツールを呼び出すことができます」とコメントしています。

 long-contextリコールとは、長時間の動画や大量のテキストを処理する際に、文脈全体を保持しながら情報を参照できる能力を指します。従来のモデルでは、入力が長くなるほど初期の情報を「忘れる」傾向がありましたが、Gemini 3では100万トークンのコンテキストウィンドウにより、この課題が大幅に改善されていると考えられます。

開発者向け統合と利用方法

 Gemini 3 Proは、既存のワークフローにシームレスに適合し、まったく新しいコーディング方法を可能にするため、多くの開発者製品とツールに統合されています。

 Gemini APIでの構築では、Google AI StudioとVertex AI for Enterprise経由でアプリケーションにすぐに統合できます。モデルのより深い推論能力をサポートするため、APIに新しいthinking levelとより細かいmedia resolutionパラメータが導入され、thought signaturesのより厳格な検証も行われます。このアップデートは、複数ターンの会話全体でモデルの思考を保持するために重要とされています。

 エージェント機能の体験では、AndroidアプリへのAIネイティブ機能の追加、Gemini CLIを通じたワークフローの自動化、Google Antigravityでの自律エージェントのフリート管理など、Gemini 3 Proが複雑なエージェントアーキテクチャに必要な信頼性を提供します。

 Gemini 3 ProでのVibe Codingでは、Google AI Studioがアイデアを実現する最速の道筋となります。Build modeで開始して、単一のプロンプトで完全に機能するアプリを生成できます。インスピレーションが必要な場合は、「I’m feeling lucky」をクリックすると、Gemini 3 Proがクリエイティブなひらめきとコード実装を同時に処理します。

まとめ

 Google「Gemini 3 Pro」は、エージェントワークフロー、Vibe Coding、マルチモーダル理解の各分野で大幅な性能向上を実現したAIモデルとして登場しました。Terminal-Bench 2.0やWebDev Arenaでの高評価、第三者開発者からの肯定的なフィードバック、そして新しいエージェント開発プラットフォーム「Google Antigravity」の導入により、AI支援による開発手法の選択肢が広がりそうです。今後、実際の商用プロジェクトでの採用事例や、コミュニティからのフィードバックが注目されるでしょう。

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