はじめに
本稿では、Googleが発表した新しい検索体験「AIモード」について、Google公式ブログの記事「A closer look inside AI Mode」をもとに、解説します。
引用元記事
- タイトル: A closer look inside AI Mode
- 著者: Ari Marini
- 発行元: Google Blog
- 発行日: 2025年6月5日
- URL: https://blog.google/products/search/ai-mode-development/



要点
- AIモードは、Google検索に導入される新しいインターフェースであり、AIを活用して複雑な質問や対話形式での検索を可能にするものである。
- ユーザーがより自然な言葉で、複数の要素を含む質問を投げかけると、AIが情報を整理し、分かりやすい概要や詳細情報へのリンクを提供する。
- この機能は、ユーザーがAIによる回答をより積極的に求めているという調査結果と、AIが得意とする探索的なアドバイスやハウツーガイド、地域情報検索といったニーズの高まりから生まれた。
- UIデザインは、従来の検索とは異なる新しい体験であることを意識させ、より長い文章での入力やフォローアップの質問を促すように工夫されている。
- 開発は、AIパワーユーザーとの連携やLabsでのテストを通じて、ユーザー中心のアプローチで迅速に改善が進められた。
- 現在は米国で展開が開始されており、今後数週間から数ヶ月で新機能が順次ロールアウトされる予定である。
詳細解説
AIモードとは? – 検索の未来を垣間見る新体験
Google検索は、私たちが情報を得るための主要な手段として長年利用されてきました。しかし、そのインターフェースや機能は、時代の変化とともに進化を続けています。今回発表されたAIモードは、その進化の中でも特に大きな変革と言えるでしょう。
AIモードは、従来の検索のように単にキーワードを入力して関連性の高いウェブページを探すだけでなく、より複雑で、複数の要素が絡み合った質問や、対話形式での情報探索を可能にする新しい検索体験です。例えば、「週末に友人とナッシュビルへ旅行に行くんだけど、音楽が好きで美味しいものも食べたい。でも、落ち着いた雰囲気で、あまり知られていない穴場スポットも巡りたいんだけど、おすすめはある?」といった、具体的な状況や好みを詳細に伝えた質問に対しても、AIがその意図を汲み取り、整理された形で回答を提示してくれます。
この機能は、まず米国でGoogle検索の新しいタブとして、またGoogleアプリの検索バーのショートカットとして提供が開始されます。ユーザーが質問を入力すると、AIモードは明確でAIによって生成された回答を提供し、重要な詳細情報やさらに深く調べるための便利なリンクも併せて表示します。さらに、フォローアップの質問を続けることで、より掘り下げた情報を得たり、後で検索を再開して中断したところから続けることも可能です。
なぜAIモードが登場したのか? – ユーザーニーズの変化とAI技術の進化
AIモード開発の背景には、ユーザーの検索行動の変化と、AI技術の進化があります。Googleは以前から、検索結果の上部にAIが生成した概要を表示する「AI Overviews」という機能を提供していました。この機能の利用状況を分析したところ、多くのユーザーが積極的にAIによる回答を求めている傾向が見られたそうです。
UXリサーチディレクターのClaudia Smith氏は、「ユーザーはAI Overviewsの価値を理解していましたが、いつ表示されるか予測できないという課題がありました。また、ユーザーは直感的に、より長く複雑な質問をするようになっていました」と述べています。これは、例えば「乳幼児2人を連れた家族旅行で、静かなホテルがある子連れフレンドリーな休暇プラン」といった、AIが得意とする種類の質問です。
プロダクトマネジメントディレクターのSoufi Esmaeilzadeh氏は、「AIモードは、人々がより自然でニュアンスのある方法で対話できるようにすることで、情報へのアクセスを容易にするという私たちの使命の限界を押し広げます。キーワードに頼るのではなく、自然な言葉で複雑な質問を投げかけることができるようになり、普段の会話に近い形で自分を表現できるようになります」と語っています。
このように、ユーザーが求める情報の質や検索方法の変化、そしてそれに応えるAI技術の成熟が、AIモードの誕生を後押ししたのです。
AIモードのUXデザイン – より自然で直感的な情報探索へ
AIモードの設計において、Googleが特に重視したのは、ユーザーがより自然で直感的に情報を探索できるようなユーザーエクスペリエンス(UX)の提供です。Claudia Smith氏は、「25年間、Googleは最小限の入力で情報を見つける方法を人々に教えてきました。AIモードは、そのインタラクションを再定義し、人々がより流動的な方法で関わることを促します」と述べています。
従来の検索インターフェースは、短いキーワードを入力することに最適化されていました。しかしAIモードでは、ユーザーがより詳細な状況や背景を含んだ長い文章で質問することを想定しています。そのため、インターフェースもそれに合わせてデザインされており、入力欄も長めの文章を記述しやすいようになっています。
また、一つの質問で完結するのではなく、AIとの対話を通じて情報を深掘りしていくこともAIモードの重要な特徴です。画面下部には検索バーが常に表示され、フォローアップの質問を簡単に行えるようになっています。さらに、関連情報へのリンクも分かりやすく提示されるため、ユーザーはAIが提供する概要から、さらに詳細な情報へとスムーズにアクセスできます。
興味深いのは、Googleが情報を処理している間、ユーザーに「考えている」ことを示す動的な要素(アニメーションなど)がインターフェースに組み込まれている点です。これは、AIがバックグラウンドで複雑な処理を行っていることをユーザーに伝え、待っている間のストレスを軽減する効果も期待できます。
AIモードのUIデザイン – 新しい体験を視覚的に伝える工夫
AIモードのユーザーインターフェース(UI)は、これが従来の検索とは異なる、新しく特別な体験であることをユーザーに直感的に伝えることを意図してデザインされています。
例えば、AIモードの画面は、従来の検索結果ページとは異なるレイアウトや配色が採用される可能性があります。また、AIが生成した回答は、単なるテキストの羅列ではなく、情報を整理し、視覚的に分かりやすく表示されるように工夫されています。箇条書きや太字、関連画像などを効果的に使用することで、ユーザーは複雑な情報も素早く理解できるようになります。
前述の通り、長い入力やフォローアップ質問を促すデザイン、そしてAIが「思考中」であることを示す動的要素なども、新しい検索体験を支えるUIデザインの重要なポイントです。
開発プロセスと今後の展望 – ユーザーと共に進化するAI検索
AIモードの開発は、ユーザー中心のアプローチで進められました。特に、「AIパワーユーザー」と呼ばれるAIの利用に長けたユーザー層と緊密に連携し、初期開発段階での方向性を定めたといいます。彼らのフィードバックから、人々がAIを探索的なアドバイス、ハウツーガイド、さらには地域の買い物支援などに活用する傾向が強まっていることが明らかになりました。
社内チームや信頼できるテスターからのフィードバックを取り入れた後、AIモードは3月にLabs(Googleの実験的な新機能を試せるプラットフォーム)で公開されました。これにより、最も熱心なユーザーからの意見を迅速に収集し、わずか3ヶ月後の米国での正式リリースに向けて体験を磨き上げることができました。Google I/Oで発表された新機能も、今後数週間から数ヶ月かけて順次展開される予定です。
Soufi Esmaeilzadeh氏は、「ユーザーは、私たちが単に情報を見つけるだけでなく、最もインテリジェントなAIモデルの助けを借りて、非常に消費しやすい方法で情報を整理し理解するのを積極的に手伝ってくれることを評価しています。私たちはこれまでの進歩を誇りに思っていますが、まだやるべきことがたくさんあることも認識しており、このユーザー中心のアプローチが目標達成に役立つでしょう」と述べています。
現時点では米国での展開が主ですが、このAIモードで培われた技術や知見は、将来的に日本のGoogle検索にも導入される可能性があります。より自然な言葉で、複雑な質問にも的確に答えてくれるAI検索の登場は、私たちの情報収集のスタイルを大きく変えるかもしれません。
まとめ
本稿では、Googleの新しい検索機能「AIモード」について、その概要、開発背景、UX/UIデザインの特徴、そして今後の展望を解説しました。AIモードは、単なる情報検索ツールから、ユーザーの意図を深く理解し、対話を通じて最適な情報を提供するインテリジェントなアシスタントへと進化するGoogle検索の未来を示唆しています。
AI技術の進化は目覚ましく、私たちの生活や仕事のあり方を大きく変えつつあります。AIモードのような新しいサービスが、情報格差の解消や、より創造的な活動への時間の活用といった、ポジティブな変化をもたらすことを期待したいと思います。今後のGoogleの動向、そして日本でのサービス展開にも注目していきましょう。