[Google I/O 2025]Geminiで進化する学習の方法

目次

はじめに

 本稿では、Googleが公式ブログで発表した記事「Learn in newer, deeper ways with Gemini」を基に、AIを活用した新しい学習体験について詳しく解説します。

引用元記事

要点

  • Googleは、学習に特化したAIモデル群であるLearnLMを開発し、これを最新のAIモデルGemini 2.5に直接統合した。これにより、Gemini 2.5は学習分野において世界をリードするモデルとなった。
  • Gemini 2.5 Proは、学習科学の原則に関するあらゆるカテゴリーの評価で競合他社のモデルを上回り、教育者や教育学の専門家からも、様々な学習シナリオにおいてユーザーの学習目標達成を支援する能力や教育学的原則の遵守において高い評価を得ている。
  • LearnLMの能力は、NotebookLMGoogle検索Geminiアプリなど、Googleの様々な製品に応用され、より能動的で魅力的、かつ効果的な学習体験を提供する。
  • NotebookLMでは、アップロードした資料に基づいて音声で概要を説明する機能が強化され、新たにビデオ概要機能も導入予定である。
  • Google検索のAI ModeにはGemini 2.5が搭載され、より高度な推論やマルチモーダル機能が利用可能になる。また、難解な質問に対してより深く調査できるDeep Searchや、現実世界の事象についてリアルタイムで質問できるSearch Liveといった新機能が追加される。
  • Geminiアプリでは、日本を含む一部の国の学生に対し、Google AI Proプランの15ヶ月間無料アクセスが提供されるほか、あらゆるトピックやアップロードした資料に基づいてカスタムクイズを作成する機能が導入される。
  • Googleは、質問やアイデアを短編アニメーション動画に変換するSparkify、宿題をサポートする対話型家庭教師Project Astra、対話を通じて好奇心を満たすLearn Aboutといった、学習を強化するための新しい実験的プロジェクトも積極的に進めている。

詳細解説

 近年、AI技術は目覚ましい進化を遂げており、私たちの生活の様々な側面に影響を与え始めています。教育や学習の分野も例外ではありません。Googleは、AIを活用して誰もがより効果的に、そして主体的に学べるようにするための取り組みを強化しています。

学習に特化したAI「LearnLM」と「Gemini 2.5」の融合

 Googleは、「世界中の誰もがあらゆることを学べるように手助けする」という目標を掲げ、長年にわたり教育専門家と協力して、効果的な学習を支援するAIシステムの構築に取り組んできました。その成果の一つが、学習に特化して微調整されたAIモデル群であるLearnLMです。

 そして、2025年のGoogle I/Oにおいて、このLearnLMの能力が、Googleの最新かつ最も高性能なAIモデルであるGemini 2.5に直接統合されたことが発表されました。Geminiは、テキスト、画像、音声、動画など、様々な種類の情報を処理できるマルチモーダルAIです。LearnLMを組み込むことで、Gemini 2.5は単に情報を提供するだけでなく、「どのようにしてその答えにたどり着くのか」を説明する能力が向上しました。これにより、複雑な質問やトピックであっても、ユーザーがより深く、効果的に理解できるよう支援します。

 Googleが公開したレポートによると、Gemini 2.5 Proは学習科学の原則に関する評価において、競合する他のAIモデルを全てのカテゴリーで上回ったとされています。教育者や教育学の専門家からも、学習目標のサポートや教育学的観点において高い評価を得ています。これは、LearnLMが長年の研究と教育現場からのフィードバックに基づいて開発されてきたことの証と言えるでしょう。

Google製品へのLearnLM機能の展開

 LearnLMを搭載したGemini 2.5の能力は、Googleの様々な製品やサービスに展開され、私たちの学習体験を大きく変えようとしています。

1. NotebookLM:あなただけの専門家を育成

 NotebookLMは、ユーザーがアップロードした特定の資料(PDF、テキストファイル、Googleドキュメント、ウェブサイトなど)に基づいて、AIがその内容を深く理解し、ユーザーの調査や学習をサポートするツールです。資料をアップロードすると、NotebookLMはその資料に関する「専門家」となり、質問応答、要約作成、アイデア創出などを、アップロードされた資料の内容に限定して行います。

 NotebookLMには、資料の内容を音声で要約してくれる「音声概要(Audio Overviews)」機能があり、これが80以上の言語で利用可能になっています。今回、この音声概要機能がさらに柔軟になり、ユーザーが要約の長さを選択できるようになります(まずは英語から対応し、順次他の言語にも拡大予定)。

 さらに、近日中には「ビデオ概要(Video Overviews)」機能が導入される予定です。これは、NotebookLM内のコンテンツを基に、AIが自動で教育的なビデオを生成してくれるという画期的な機能です。文字情報だけでなく、視覚的な情報を組み合わせることで、より深い理解を促すことが期待されます。

2. Google検索:AIによる高度な探求学習へ

 Google検索は、多くの人々が日常的に学習のために利用するツールです。AI技術の進化は、検索体験も大きく変えようとしています。

 Google検索の最も強力なAI検索機能である「AI Mode」には、今回発表されたGemini 2.5のカスタムバージョンが搭載されます(米国から展開)。これにより、ユーザーは非常に複雑な質問や、答えが一つではないような問いに対しても、AIによる深い洞察に基づいた回答や、関連情報へのリンクを得ることができます。

 また、AI Modeには「Deep Search」という新機能が間もなく追加されます。これは、特に難解なトピックについて、より深く、多角的に情報を掘り下げて調査したい場合に役立ちます。

 さらに注目すべきは、「Search Live」という機能です。これは、Project Astra(後述)のリアルタイム認識・応答能力をAI Modeに統合するもので、テキストや画像だけでなく、スマートフォンのカメラを通して現実世界のものを映しながら、それについてリアルタイムで質問することを可能にします。例えば、目の前にある植物の名前や特徴を尋ねたり、歴史的建造物についてその場で解説を得たりといったことが可能になります。Search Liveは、2025年の夏にLabs(Googleの実験的な機能を提供するプラットフォーム)で公開予定です。

3. Geminiアプリ:学生の学習を強力にサポート

 Geminiアプリは、対話型AIアシスタントとして、文章作成、アイデア出し、情報収集など、様々なタスクを支援します。

 Googleは、米国の大学生に対し、2026年の期末試験までGeminiの有料プラン(Google AI Proプラン)を無料で提供するプログラムを実施していましたが、この対象国が拡大され、新たに日本、ブラジル、インドネシア、英国の学生も利用可能になります。対象となる学生(18歳以上)は、2025年6月30日までに登録することで、15ヶ月間無料でGoogle AI Proプランを利用でき、高度な文章作成支援、試験勉強、宿題のヘルプ、2TBの無料ストレージ、NotebookLMなどの特典を享受できます。

 さらに、Geminiアプリには、学生が試験対策に役立てられる「カスタムクイズ作成機能」が全世界で順次導入されます。ユーザーは、特定のトピックについてクイズを作成するようGeminiに指示したり、授業ノートなどのアップロードした資料に基づいてクイズを生成させたりすることができます。このクイズはインタラクティブで、ヒントの提示、正誤の解説、そして最後に得意な分野と復習が必要な分野を示してくれる便利なサマリー機能も備わっています。

※カスタムクイズ作成機能の様子(通常利用するGeminiアプリに問題の作成を依頼すると自動的に作成してくれます)

学習を革新する実験的プロジェクト

 Googleは、既存製品の強化に加え、学習体験をさらに向上させるための新しいアイデアを常に模索し、実験的なプロジェクトも進めています。

Sparkify:アイデアをアニメーション動画に

 Sparkifyは、ユーザーの質問やアイデアを基に、短編のアニメーション動画を生成する実験的なツールです。これは、Googleの最新のAIモデルであるGeminiと、高品質な動画生成モデルであるVeoによって実現されています。複雑な概念やストーリーを視覚的に分かりやすく伝えたい場合に非常に有効な手段となり得ます。この機能は、年内にGoogle製品に搭載される予定ですが、ウェイティングリストに登録することで、先行して試用できる可能性があります。

Project Astra:あなたのパーソナル家庭教師

 Project Astraは、Googleが開発中の次世代AIアシスタントのプロトタイプで、特にパーソナライズされた家庭教師としての応用に大きな期待が寄せられています。Project Astraは、ユーザーが取り組んでいる作業(例えば数学の問題)をリアルタイムで認識し、段階的に問題を解く手助けをしたり、間違いを指摘したり、理解を助けるための図をその場で生成したりすることができます。この研究プロジェクトも年内にGoogle製品に統合される予定で、AndroidのTrusted Testerはウェイティングリストに登録することでプレビュー版を試用できる可能性があります。

Learn About:対話を通じて好奇心を満たす

 Learn Aboutは、対話型AIを通じてユーザーの好奇心を満たし、探求学習を支援する実験的なプロジェクトです。Geminiモデルに搭載されたLearnLMの能力により、よりニュアンスに富んだ説明や、関連性の高い情報を提供できるようになりました。この体験は、ティーンエイジャーを含むより多くの学習者が利用できるようになり、中断したところから再開できるセッション履歴機能や、ユーザー自身の資料(コース教材、ノート、研究論文など)をアップロードして、それに基づいた説明を得る機能も追加されています。

まとめ

 本稿では、Google I/O 2025で発表された、LearnLMを搭載したGemini 2.5と、それによって実現される新しい学習支援機能について解説しました。

 Googleは、AIを単なる情報検索ツールとしてではなく、個々の学習スタイルや目的に合わせて能動的な学びを促すパートナーとして進化させようとしています。 NotebookLMによる資料の深い理解と多角的な活用、Google検索におけるAI Modeの高度化とリアルタイム検索の実現、Geminiアプリによるパーソナライズされた学習支援、そしてSparkifyやProject Astraといった未来志向のプロジェクトは、その方向性を明確に示しています。

 これらの技術は、教育現場における個別最適化された指導や、生涯学習における新たな可能性を切り拓くものとして、大きな期待が寄せられます。もちろん、AIの教育利用には倫理的な配慮や適切なガイダンスが不可欠ですが、Googleが示すビジョンは、テクノロジーが学習をより豊かでアクセスしやすいものにする未来を示唆していると言えるでしょう。これらの新しいツールや機能を活用することで、これまでにない新しい学びの世界を体験できる日も近いかもしれません。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次