はじめに
GoogleのAI開発チームが2025年10月17日、Gemini APIに「Grounding with Google Maps」機能を一般公開しました。これにより、開発者はAIアプリケーションをGoogleマップの豊富な地理空間データと統合できるようになります。本稿では、この新機能の仕組みと活用方法、実用的な可能性について解説します。
参考記事
- タイトル: Grounding with Google Maps: Now available in the Gemini API
- 著者: James Harrison (Group Product Manager, Geo Developer)、Alisa Fortin (Product Manager, Google DeepMind)
- 発行元: Google Blog
- 発行日: 2025年10月17日
- URL: https://blog.google/technology/developers/grounding-google-maps-gemini-api/
要点
- Gemini APIに「Grounding with Google Maps」機能が追加され、2億5000万件以上の場所データをAIアプリに統合できるようになった
- 緯度・経度の指定により検索結果を特定地域にローカライズし、営業時間やレビューなどの最新情報を活用できる
- Google SearchとGoogle Mapsの両方のグラウンディングを同時利用することで、応答品質が大幅に向上する
- 旅行、不動産、小売、物流など幅広い分野での活用が想定されており、現在すべての最新モデルで利用可能である
詳細解説
Google Mapsグラウンディングの概要
Grounding with Google Mapsは、Geminiの推論能力とGoogle Mapsの地理空間データを接続する機能です。公式ブログによれば、2億5000万件以上の場所に関するデータを活用でき、位置情報が役立つあらゆるクエリに対して豊富で最新のデータを提供します。
「グラウンディング」とは、AIモデルの応答を外部の信頼できるデータソースを参照させる手法を指します。これにより、モデルは学習データだけでなく、リアルタイムの情報を参照して回答できるようになります。既に提供されているGrounding with Google Searchと同様に、このMaps版も応答の正確性と実用性を高める役割を果たすと考えられます。
実装方法と技術仕様
Gemini APIのリクエスト内でGoogle Mapsツールを有効化することで、この機能を利用できます。公式ドキュメントで示されているPython SDKの実装例では、google_maps=types.GoogleMaps()
をツールとして指定し、オプションで緯度・経度を提供することで検索結果を特定地域にローカライズします。
from google import genai
from google.genai import types
client = genai.Client()
prompt = "What are the best Italian restaurants within a 15-minute walk from here?"
response = client.models.generate_content(
model='gemini-2.5-flash-lite',
contents=prompt,
config=types.GenerateContentConfig(
tools=[types.Tool(google_maps=types.GoogleMaps())],
# Optionally provide the relevant location context (this is in Los Angeles)
tool_config=types.ToolConfig(retrieval_config=types.RetrievalConfig(
lat_lng=types.LatLng(
latitude=34.050481, longitude=-118.248526))),
),
)
print(response.text)
if grounding := response.candidates[0].grounding_metadata:
if grounding.grounding_chunks:
print("Google Maps sources:")
for chunk in grounding.grounding_chunks:
print(f'- [{chunk.maps.title}]({chunk.maps.uri})')
返されたコンテキストトークンを使用すると、インタラクティブなMapsウィジェットを取得でき、写真、レビュー、その他の詳細を含む馴染みのあるUIをアプリケーションに組み込むことも可能です。これは、ユーザーに対して単なるテキスト情報だけでなく、視覚的で操作可能な地図情報を提供できることを意味します。
技術的には、モデルがクエリに地理的コンテキストがあることを自動検出し、Google Mapsデータを使用してグラウンディングされた応答を生成します。Google Mapsは、場所データやユーザーレビューなどの関連コンテンツをソースとして活用し、応答の生成を支援する仕組みです。
実用的なユースケース
公式ブログでは、旅行、不動産、小売、物流の各分野での活用例が紹介されています。
詳細な旅程計画では、単なる場所のリストを超えた完全な1日のプランを生成できます。「サンフランシスコで1日過ごしたい。ゴールデンゲートブリッジを見て、美術館を訪れ、素敵なディナーを楽しみたい」という要求に対し、最新の営業時間や休日情報を含む実用的な旅程を提供できるとのことです。
ハイパーローカルなパーソナライズ推奨では、ユーザーの好みと指定された場所に基づいた提案が可能になります。不動産アプリであれば、近くの遊び場、学校、公園を特定することで、子育て世帯向けの賃貸物件を探すサポートができます。
ローカルな場所ベースの回答では、ユーザーレビューやその他のMapsデータから得られる洞察を活用して、特定の場所に関する詳細な質問に答えられます。「1番通りとメイン通りの角にあるカフェには屋外席がありますか?」といった具体的な質問にも、Mapsのデータに基づいた回答を提供できる可能性があります。
これらのユースケースは、従来のAPIでは実現が難しかった「最新の地理情報と自然言語処理の統合」を可能にするものです。一般的なLLMは学習時点のデータしか持たないため、営業時間の変更や新規開店などには対応できませんでしたが、このグラウンディング機能によりそうした制約を克服できると考えられます。
Google SearchとMapsの組み合わせ活用
同じリクエスト内でGrounding with Google MapsとGrounding with Google Searchの両方を有効化することで、より強力でコンテキストに沿ったアプリケーションを構築できます。
公式ブログによれば、Google Mapsは住所、営業時間、ユーザー評価といった構造化された事実データでグラウンディングを提供し、Google Searchはイベントスケジュール、ニュース、記事など、ウェブ全体からの記述的でタイムリーなコンテキストを提供します。
具体例として、「Beale Streetのライブミュージック」について尋ねられた場合、ツールを組み合わせることで、モデルは会場の営業時間についてはMapsデータを、夜のショーの具体的な開始時刻についてはSearchデータを使用できます。内部評価では、両方のツールを一緒に使用すると、いずれか単独で使用する場合と比較して応答品質が大幅に向上することが示されたとのことです。
この組み合わせは、静的な場所情報と動的なイベント情報を統合する際に特に有効でしょう。従来は別々のAPIを呼び出して結果をアプリケーション側で統合する必要がありましたが、Gemini APIがこれを自動的に処理してくれることになります。
利用可能性と技術仕様
Grounding with Google Mapsは現在一般提供されており、最新モデルすべてでサポートされています。これにより、開発者はアプリケーションに適したパフォーマンスとコストのバランスを選択できる柔軟性があります。
公式ドキュメントでは、料金体系と利用制限についても説明されており、Google AI Studioでデモアプリをリミックスしたり、Gemini API Cookbookでサンプルコードを試したりすることができます。Google AI Studioは、Googleが提供するWebベースのAI開発環境で、コードを書かずにプロンプトや設定をテストできるツールです。
まとめ
Gemini APIへのGoogle Mapsグラウンディング機能の追加により、開発者は地理空間データを活用した高度なAIアプリケーションを構築できるようになりました。最新の場所情報、営業時間、レビューなどのデータを統合することで、旅行計画、不動産検索、ローカル情報提供など、幅広い分野での実用的なサービス開発が期待できます。Google Searchとの組み合わせにより、さらに包括的な情報提供が可能になる点も注目されます。