[ニュース解説]AIによる問題解決の新時代:Geminiが競技プログラミング世界大会ICPCで金メダル級の性能を達成

目次

はじめに

 Google DeepMindは2025年9月17日、同社の先進的なAIモデル「Gemini 2.5 Deep Think」の特別バージョンが、世界で最も権威ある大学生向けの競技プログラミングコンテスト「ICPC(国際大学対抗プログラミングコンテスト)」の世界決勝大会で、金メダルに相当するレベルの成績を収めたことを発表しました。

 本稿では、Google DeepMindの公式ブログで発表された「Gemini achieves gold-medal level at the International Collegiate Programming Contest World Finals」という記事を基に、その成果の技術的なポイントや今後の可能性について解説します。

参考記事

・本稿中の画像に関しては特に明示がない場合、引用元記事より引用しております。
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要点

  • AIモデル「Gemini 2.5 Deep Think」の先進バージョンが、2025年のICPC世界決勝大会で金メダルレベルの性能を達成した。
  • 全12問中10問を制限時間内に正解し、人間のどの大学チームも解けなかった問題を1問解決した。
  • この結果は、AIが単なる情報処理だけでなく、高度な抽象的推論と創造的な問題解決能力を持つことを示している。
  • 強化学習、多段階推論、並列思考といった複数の先進技術を組み合わせることで、この成果が実現された。
  • 将来的には、AIがプログラマや科学者の協力なパートナーとなり、より複雑な課題解決に貢献することが期待される。

詳細解説

競技プログラミングの最高峰「ICPC」とは

 今回の舞台となったICPC(International Collegiate Programming Contest)とは、世界中の大学生が3人1組のチームで参加する、最も歴史が古く、最大規模で、最も権威あるアルゴリズムプログラミングコンテストです。参加者は、複雑な課題を解決するためのアルゴリズムを考案し、それをプログラムとして正確に実装する能力を競います。

 2025年の世界決勝大会は、アゼルバイジャンのバクーで開催され、世界中の約3000大学から予選を勝ち抜いた139チームが参加しました。5時間の制限時間内に、より多くの問題を、より速く、完璧に解いたチームが上位となります。完璧な解答でなければポイントにならないという非常に厳しいルールが特徴です。この厳しい条件下で、金メダルを獲得できるのはわずか上位4チームのみです。

Geminiが達成した具体的な成果

 今回、Gemini 2.5 Deep Thinkの先進バージョンは、人間の参加者から10分遅れて競技を開始し、公式ルールに則ってオンラインで参加しました。その結果、以下の驚くべき成果を達成しました。

  • 12問中10問を正解: 制限時間内に10問を正解し、金メダル獲得レベルのパフォーマンスを示しました。もし大学チームと比較した場合、その成績は総合2位にランクインするものでした。
  • 人間が解けなかった問題を解決: 最も注目すべきは、人間のどのチームも解くことができなかった「問題C」を、競技開始後30分以内に解決したことです。

人間を越えた「問題C」へのアプローチ

 「問題C」は、相互に接続されたダクトのネットワークを通じて液体を貯水池に分配し、すべての貯水池を可能な限り速く満たすためのダクトの最適な構成を見つける、という課題でした。各ダクトの開き具合(全開、全閉、部分的に開く)の組み合わせは無限に存在するため、最適な構成を探し出すことは極めて困難です。

 Geminiは、この問題に対して非常に巧妙なアプローチを取りました。まず、各貯水池に「優先度」という値を設定し、その優先度に基づいて最適なダクト構成を動的計画法で見つけ出します。そして、ミニマックス法(ゲーム理論で使われる手法)を応用し、最も制約が厳しい状況を生み出す優先度の組み合わせを発見しました。この独創的な洞察により、人間ではたどり着けなかった効率的な解法を見つけ出すことに成功したのです。

成功を支えた技術的背景

 この成果は、単一の技術ではなく、複数の高度な技術の組み合わせによって実現されました。

  • 強化学習(Reinforcement Learning): 非常に困難なプログラミング問題に対して、コード生成と推論を繰り返し訓練させました。試行錯誤からフィードバックを得て、アプローチを進化させる学習手法です。
  • 多段階推論と並列思考: 1つの問題に対して、複数のGeminiエージェントがそれぞれ独自のアプローチを提案します。各エージェントはコードを実行・テストし、すべての試行結果を基に解決策を反復的に改善していきます。これにより、多様な視点から最適な解を探索することが可能になりました。

 これらの技術により、Geminiは複雑な問題を多角的に分析し、人間には思いつかないような解決策を導き出す能力を獲得したのです。

実際に解答コードを確認する

 Google DeepMindは、Geminiが本大会で提出した解答コードをGitHub上で公開しています。これにより、誰でも実際にAIが生成したコードを確認し、そのアプローチを詳細に分析することができます。

 コードはApache 2.0ライセンスで公開されており、研究や開発の参考にすることが可能です。

まとめ

 今回のGeminiによるICPCでの金メダル級の成果は、AIが単に既存の情報を処理するだけでなく、未知の複雑な問題に対して抽象的な推論を行い、創造的な解決策を生み出す能力を持ち始めたことを示す重要な一歩です。

 発表では、AIと人間の最高の解答を組み合わせれば、大会の全12問が完璧に解けたであろうと述べられています。これは、AIが人間と競い合う存在ではなく、人間の専門家が持つスキルや知識を補完し、協力してより困難な課題に取り組む「問題解決のパートナー」となりうる可能性を示唆しています。

 競技プログラミングで必要とされる能力は、新薬や半導体の設計など、多くの科学技術分野で求められるものと共通しています。将来的には、物流の最適化から科学研究、デバッグ作業に至るまで、AIを協力的なツールとして活用することで、これまで解決不可能とされてきた問題の解決策が見つかるかもしれません。

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