はじめに
Googleは、同社のAIモデルファミリーにおける最新かつ最も高性能な「Gemini 2.5」を発表しました。本稿では、この新しいAIモデル、特にエンタープライズ(企業向け)利用に焦点を当てた「Gemini 2.5 Pro」と「Gemini 2.5 Flash」について、その特徴と可能性を公式ブログ「Gemini 2.5 brings enhanced reasoning to enterprise use cases」をもとに解説します。
引用元:
- タイトル: Gemini 2.5 brings enhanced reasoning to enterprise use cases
- URL: https://cloud.google.com/blog/products/ai-machine-learning/gemini-2-5-pro-flash-on-vertex-ai?hl=en
- 発行日: 2025年4月10日
・本稿中の画像に関しては特に明示がない場合、引用元記事より引用しております。
・記載されている情報は、投稿日までに確認された内容となります。正確な情報に関しては、各種公式HPを参照するようお願い致します。
・内容に関してはあくまで執筆者の認識であり、誤っている場合があります。引用元記事を確認するようお願い致します。

要点
- Gemini 2.5は「思考するモデル」へ進化: 回答する前に推論(筋道を立てて考えること)を行う能力が大幅に向上し、より高品質で信頼性の高い応答が可能になりました。この透明性の高い思考プロセスは、企業のコンプライアンス(法令遵守)においても重要です。
- Gemini 2.5 Pro: 複雑なタスクや高度な推論、コーディング能力に優れ、100万トークンという非常に大きなコンテキストウィンドウ(一度に処理できる情報量)を持ちます。これにより、長文の契約書や医療記録などの分析、大規模なコードベースの理解などが可能です。Vertex AI(Google CloudのAI開発・管理プラットフォーム)でプレビュー版が利用可能です。
- Gemini 2.5 Flash: 低レイテンシ(応答速度が速いこと)と費用対効果に最適化されたモデルです。大量の処理が必要なカスタマーサービスやリアルタイムの情報要約など、速度と効率が求められる場面に適しています。こちらもVertex AIとGoogle AI Studioで提供されます。
- Vertex AIの機能強化: Geminiモデルの性能を最大限に引き出すための新機能(Model Optimizer, Global Endpoint, Live APIなど)も発表され、より高度なAIアプリケーションやエージェント(自律的にタスクを実行するAI)開発が可能になります。
詳細解説
「思考するAI」Gemini 2.5の登場
従来のAIモデルの多くは、与えられた情報(プロンプト)に対して即座に応答を生成していました。しかし、Gemini 2.5は、応答を生成する前に段階的な推論を行う「思考するモデル」へと進化しました。これは、人間が複雑な問題を解決する際に、いきなり結論を出すのではなく、いくつかのステップを踏んで考えるプロセスに似ています。この能力により、特に複雑な問題に対する回答の質が劇的に向上しました。企業にとっては、AIがどのように結論に至ったのか、その思考プロセスが透明であることは、AIの判断を信頼し、コンプライアンスを確保する上で非常に重要です。
Gemini 2.5 Pro: 複雑な課題解決のエキスパート
Gemini 2.5 Proは、Gemini 2.5ファミリーの中でも最高品質のモデルとして位置づけられています。特に、高度な推論やコーディング(プログラミング)タスクにおいて、世界最高レベルの性能を発揮します。
特筆すべきは、100万トークンという広大なコンテキストウィンドウです。トークンとは、AIがテキストを処理する際の基本的な単位(おおよそ単語や文字の一部)のことです。コンテキストウィンドウが大きいほど、AIはより多くの情報を一度に記憶し、文脈を理解することができます。100万トークンは、一般的な書籍数冊分に相当する情報量であり、これによりGemini 2.5 Proは、例えば以下のようなタスクを高い精度で実行できます。
- 長大な文書の読解と分析: 法律の契約書、詳細な研究論文、医療記録など、情報が密集した文書から重要な洞察を抽出する。
- 複雑なコーディング: プログラム全体の構造(コードベース全体)を理解し、修正や機能追加を行う。
すでにBox社やMoody’s社といった企業が、Gemini 2.5 Proの高度な推論能力を評価し、自社サービスへの活用を進めています。Box社は非構造化データ(整理されていないデータ)からの情報抽出に、Moody’s社は複雑なPDF文書の処理時間短縮と精度向上に期待を寄せています。
さらに、企業固有のデータに合わせてモデルをチューニング(微調整)する機能や、長いコンテキストを効率的に処理するコンテキストキャッシュ機能も近日中に提供予定であり、性能向上とコスト削減が期待されます。
Gemini 2.5 Flash: スピードと効率を重視した働き者
すべてのAIアプリケーションが最高品質を求めるわけではありません。応答速度やコストが重視される場面も多くあります。そこで登場するのがGemini 2.5 Flashです。
このモデルは、低レイテンシ(応答の遅延が少ない)と費用対効果に特化して最適化されています。大量のリクエストを高速かつ低コストで処理する必要がある、以下のような用途に最適です。
- カスタマーサービス: チャットボットなどでの迅速な顧客対応。
- リアルタイム処理: ニュース記事の即時要約や、リアルタイムでの情報分析。
Gemini 2.5 Flashは、動的かつ制御可能な推論という特徴も持ちます。簡単な質問には素早く答え、複雑な質問にはより時間をかけて考える(思考の予算を調整する)といった柔軟な対応が可能です。開発者は、アプリケーションの要件に合わせて、速度、精度、コストのバランスを細かく調整できます。Palo Alto Networks社は、このモデルの応答速度と精度のバランスに注目し、AIを活用した脅威検出や顧客サポートへの応用を検討しています。
Vertex AIによる開発体験の最適化と高度なAIエージェント
Google CloudのAIプラットフォームであるVertex AIも進化しています。Vertex AI Model Optimizerは、ユーザーが求める品質とコストのバランスに応じて、最適なモデル(例えばProとFlash)を自動で選択してくれる機能です(現在は実験的機能)。また、Vertex AI Global Endpointは、アクセスが集中しても応答性を維持できるよう、負荷に応じてリクエストを最適なサーバーに振り分ける仕組みです。
さらに注目すべきは、Live APIの登場です。これは、Geminiモデルがリアルタイムで音声や動画、テキストのストリーミングデータを処理できるようにするものです。これにより、人間と自然に対話するAIアシスタント、会議にリアルタイムで参加して議事録を作成するAI、作業中に音声指示を理解するAIなど、より高度でインタラクティブなAIエージェントの開発が可能になります。
まとめ
本稿では、Googleの最新AIモデル「Gemini 2.5 Pro」と「Gemini 2.5 Flash」について解説しました。Gemini 2.5は、単に情報を処理するだけでなく、推論によって「思考する」能力を獲得したことで、AIの可能性を大きく広げました。Proモデルは複雑なタスクで最高の品質を、Flashモデルは速度と効率を求めるタスクで優れたパフォーマンスを発揮します。これらのモデルとVertex AIの進化により、企業はより高度で実用的なAIアプリケーションやエージェントを開発し、ビジネスにおける様々な課題解決や新たな価値創造を加速させることが期待されます。
コメント