はじめに
ここ数年、世界中の注目を集めてきたAI(人工知能)分野ですが、その熱狂に少し陰りが見え始めているかもしれません。本稿では、現在シリコンバレーで起きているAIに対する「雰囲気の変化」について解説します。
参考記事
- タイトル: The AI vibe shift is upon us
- 著者: Allison Morrow
- 発行元: CNN
- 発行日: 2025年8月22日
- URL: https://edition.cnn.com/2025/08/22/business/ai-vibe-shift-nightcap

要点
- これまで熱狂的であったAI業界において、投資家や企業の間に懐疑的な「雰囲気の変化(vibe shift)」が起きている。
- Meta社の採用凍結、OpenAI社CEOによる「バブル」発言、期待されたChatGPT-5の不調など、具体的な失速の兆候が複数見られる。
- マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究では、企業が導入した生成AIの95%が収益向上に繋がっていないという結果が示された。
- 市場では、かつてのドットコムバブル崩壊の再来を警戒する動きが強まっている。
- AI技術は、単なる期待や誇大広告の段階を終え、具体的な収益や成果が問われる「真価の証明」の段階へと移行しつつある。
詳細解説
AI業界に漂う「雰囲気の変化」とは
「vibe shift(ヴァイブ・シフト)」とは、特定の集団や社会全体の「空気感」や「潮流」が、ある時点を境に大きく変わることを指す言葉です。これまでAI、特に生成AIは、私たちの働き方や社会を根底から変える技術として、シリコンバレーやウォール街から熱狂的な支持を受けてきました。しかし、CNNはいくつかの出来事を挙げ、その熱狂が冷め始めている可能性を指摘しています。
失速を示す具体的な兆候
なぜ今、AIに対する雰囲気が変化しているのでしょうか。CNNは、以下の具体的な事例を挙げています。
- Meta(旧Facebook)の戦略転換: かつてはAI人材に1億ドル(約140億円以上)もの契約金を提示していたMeta社が、一転して採用を凍結し、AI部門の規模縮小を検討していると報じられています。これは、AIへの巨額投資に対する費用対効果への懸念が高まっていることを示唆します。
- 業界リーダーからの警告: ChatGPTを開発したOpenAI社のCEOであり、AIブームの立役者でもあるサム・アルトマン氏自身が、メディアのインタビューで「バブル」という言葉を使い始めました。業界を牽引する人物からの警告は、市場に大きな影響を与えます。
- 期待外れの技術開発: OpenAI社が博士号レベルの性能を持つと宣伝していた次世代モデル「ChatGPT-5」が、期待されたほどの成果を上げられず、事実上の失敗と見なされています。技術の進歩が市場の期待に追いついていない現状が浮き彫りになりました。
- 関連企業の株価下落: AI向けのクラウドサービスを提供し、Nvidia社から支援を受けるCoreweave社が、わずか1週間あまりでその価値の約40%を失いました。これは、AIインフラを支える企業への投資熱が冷え込んできている兆候と捉えられます。
最も深刻な問題:「AIは利益を生み出しているのか?」
中でも特に深刻な指摘は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究報告です。この報告によると、企業が導入した生成AIプログラムの95%が、その主な目的であった「収益の増加」を達成できていないことが明らかになりました。
多くの企業がAI導入に多額の投資を行っていますが、それが直接的な利益に結びついていないという事実は、AIブームの持続可能性そのものに疑問を投げかけます。技術的な面白さや話題性だけでなく、「実際のビジネスで役に立つのか、儲かるのか」という、より現実的な評価軸が重視されるようになってきたのです。
市場の警戒感と専門家の見方
こうした一連の動きを受け、投資家たちは1990年代後半の「ドットコムバブル」の崩壊を思い起こし、市場の急落に備える動きを見せ始めています。
もちろん、専門家の間でも意見は分かれています。一部には「これは一時的な調整局面に過ぎない」という楽観的な見方もあります。しかし、テックライターのEd Zitron氏のように、「AI技術は、誇大広告以外でその価値を証明したことがない」と厳しく指摘する声も上がっています。彼は「3年間という時間があったにもかかわらず、投資に見合うだけの実際のリターンを示せた企業は一つもない」と述べ、AI業界が物語(ナラティブ)の修正を迫られていると分析しています。
まとめ
本稿では、CNNの記事を基に、現在のAI業界で起きている「雰囲気の変化」について解説しました。これが本格的な「AIの冬」の到来を意味するのか、それとも一時的な調整なのかを判断するのはまだ早いかもしれません。
しかし、確かなことは、AIを取り巻く環境が、単なる期待や話題性で投資が集まるフェーズから、具体的な成果や収益性が厳しく問われるフェーズへと移行しつつあるということです。この流れは、日本の企業や開発者にとっても無関係ではありません。AI技術をいかにしてビジネス上の価値に結びつけていくか、その戦略がこれまで以上に重要になっていくでしょう。
