[ビジネスマン向け]企業のAIクリエイティブ活用——責任あるAI導入の最前線

目次

はじめに

 IBM Thinkが2024年11月24日に報じた記事では、ロサンゼルスで開催された「Artist and the Machine Summit」での議論をもとに、企業がクリエイティブ領域でAIを活用する際の課題と実践例が紹介されています。本稿では、Adobe、Coca-Cola、Mattelなどの大手企業がどのようにAIを導入し、倫理的な配慮とビジネス効果のバランスを取っているかを解説します。

参考記事

要点

  • Adobe Firefly Foundryは、すべてライセンス済みデータで学習したAIモデルを企業向けに提供し、著作権侵害のリスクを排除している
  • Coca-Colaは2年連続でAI生成広告を公開したが、アーティストからの批判と一般消費者の好評という二極化した反応を受けている
  • MattelはOpenAIとの戦略的パートナーシップを通じて、子どもの想像力を奪うのではなく拡張する新しい玩具体験の創出を目指している
  • Lovableなどのノーコードツールは、非技術系チームでもプロトタイプ開発を可能にし、企業の時間とコストを削減している
  • アーティストのGrimesは、AIを人間の代替ではなく能力の拡張として活用し、特に映像生成での応用を推奨している

詳細解説

Artist and the Machine Summitでの議論

 ロサンゼルスで開催された「Artist and the Machine Summit」では、アーティスト、ブランド、テクノロジストが集まり、責任あるAIがいかに人間の創造性を代替するのではなく増幅できるかを探求しました。生成AI技術が登場してから3年が経過し、クリエイティブ業界は「AIを脅威ではなく味方にできるか」という重要な問いに直面しています。

 このサミットは、AI技術の急速な進化に伴い、倫理的で責任ある創造性の定義を明確にしようとする業界全体の動きを象徴するイベントと言えます。企業とアーティストの双方が、技術的可能性と倫理的配慮のバランスを模索している状況が浮き彫りになりました。

Adobe Firefly Foundryの著作権保護アプローチ

 AdobeによればFirefly Foundryは、企業向けに独自のIP保護型生成AIモデルを提供するサービスです。最も重要な特徴は、Fireflyの学習に使用されたすべてのデータがAdobeによってライセンス供与されている点で、これは創作者が明示的に許可を与えたことを意味します。

 Adobe Global Gen AI New Business VenturesのVP、Hannah Elsakr氏は、「これは私たちにとって非常に重要でした。なぜなら、私たちの全ての歴史はクリエイティブコミュニティを中心としているからです」と述べています。Adobeは数十年前にPhotoshopを導入した際、David Hockneyのような著名アーティストと協力しており、この伝統を現在のAI時代でも継承しています。

 この取り組みは、著作権侵害を懸念する企業にとって重要な選択肢を提供していると考えられます。学習データの出所が明確であることで、企業は法的リスクを回避しながらAIツールを活用できます。従来の生成AIツールでは学習データの権利関係が不透明な場合が多く、商用利用に二の足を踏む企業も少なくありませんでした。

動画生成AIと企業利用の課題

 動画生成はAI分野で注目を集める機能であり、OpenAIのSora 2やGoogleのVeoなど、性能が向上し続けているツールが登場しています。しかし、多くのアーティストや専門家がAIによる職の喪失を恐れている状況では、消費者向け製品でAIを使用することは企業にとって単純な判断ではありません。

 Coca-Colaは2023年に初めてAI生成のホリデー広告を公開し、一部から批判を受けました。2024年も同じAIスタジオを使用して広告を制作し、同様に賛否両論の反応を得ています。PR Weekによれば、公開から2週間でYouTubeでの視聴回数は90万回を超え、インターネット上で最も話題になったクリスマス広告の1つとなりました。

 この広告を制作したAIネイティブ制作会社Secret LevelのJason Zada氏は、「Twitterではアーティストから多くの批判を受けています」と認めつつも、「Coca-Colaチームは公開前に数ヶ月間テストを行い、AIであることを伝えずにテストした結果、非常に好評でした」と説明しています。

 この事例は興味深い問いを提起しています。視聴者の反応がAI使用の事実を知ることで変化するのであれば、問題は品質ではなく認識にあるのかもしれません。Zada氏にとって、AIを使う利点はコスト削減ではなく、人々がより意味のある仕事に時間を使えるようにすることです。「私にとって、それは支出を減らすことではありません。効率性の向上と、通常ではできないようなあらゆることを行うことです」と述べています。

MattelとOpenAIのパートナーシップ

 大手玩具メーカーのMattelは2024年にOpenAIとの戦略的パートナーシップを発表しましたが、批評家からは「AIが子どもの想像力を奪うのではないか」という懸念が示されました。Mattel Future LabのHead of Discovery、Carrie Buse氏によれば、社内ではこのパートナーシップを新しい方法で新しい玩具を作る機会と捉えています。

 「私たちには、自分たちの価値観に沿った何かをする機会があります。楽しいのは、手の届きやすい果実を狙わないようにすることです。真実は、おもちゃと話すこと以上にやるべきことがあるということです。そして、そこに豊かな仕事が生まれています」とBuse氏は説明しています。

 MattelはまだOpenAIとのパートナーシップの成果を発表していませんが、Buse氏はAIが新しい体験を解放できると信じています。「それがAIの機会です。頭の中にあるものを現実にするためのツールを提供してくれます」と述べています。

 この取り組みは、AIを単なる効率化ツールではなく、創造的な表現を拡張する手段として位置づけている点が特徴的です。子どもの玩具という領域では特に、技術が想像力を制限するのではなく促進する設計が求められると考えられます。

ノーコードツールによる企業内民主化

 ヨーロッパを拠点とするスタートアップLovableは、コードなしでプラットフォームを構築できるツールを提供しており、急速に成長しています。LovableのCreator Lead、Mindaugas Petrutis氏によれば、MicrosoftやHubSpotなどの大企業がこのツールを採用しています。

 「これらの企業は、時間とコストを節約していると言っています。非技術系チームがプロトタイプを作成し、ソリューションを実装できること、それだけでも大きな意味があります」とPetrutis氏は述べています。

 視覚アーティストのShantell Martinは、このアプリを使って、彼女の特徴的なグラフィック要素をユーザーがミックスアンドマッチできるプラットフォームを構築しました。これは彼女が10年前から探求していたアイデアでした。「さまざまなデザイナーやUXデザイナーと仕事をしようとしましたが、多額のお金を費やし、多くの調査を行ったにもかかわらず、あまり進展しませんでした」とMartin氏は説明しています。

 しかし、生成AIツールの登場でこの状況が変わりました。「興味深いのは、小さなアイデアがあっても、それが良いか悪いかを判断するのに多くの時間とリソースを費やす必要がある場合があることです。このようなツールがあれば、20の異なるアイデアを作成し、それが追求する価値のあるものかどうかを判断できます」と述べています。

 この事例は、AIツールがアーティストの創造性を制限するのではなく、実験と探索の障壁を下げることで新しい可能性を開く側面を示していると言えます。

アーティストによるAI活用の実践例

 カナダのシンガーソングライター、Grimesは技術を積極的に取り入れてきたアーティストの代表例です。2023年には、ファンが彼女の声を新しい作品で使用することを招待し、ロイヤリティを分配する仕組みを導入しました。最近では、映画監督Matt Zienと共に、AIを使ったアート制作に関するシリーズ「The Tutorial」を公開しています。

 「私たちは多くの哲学的な問題に直面しました。ツールを使っていますが、使いながら、どのように使うべきか、道徳哲学でアプローチすべきかを議論しています」とGrimesは述べています。

 彼女は映像生成におけるvideo-to-video AIツールの活用を支持しており、これを人間の能力の代替ではなく拡張として捉えています。「これまで見た中で唯一良いAIライティングは、AI自身について書いているときです。それは興味深いことです。そのままであってほしいと思います。AIに自分自身について本物らしく書かせ、人間をライターとして置き換えないでください」と述べています。

 この視点は、AIの適用領域を慎重に選択することの重要性を示唆しています。技術的に可能であることと、倫理的・創造的に望ましいことは必ずしも一致しないという認識が重要と考えられます。

まとめ

 企業のAIクリエイティブ活用には、技術的可能性と倫理的配慮のバランスが不可欠です。Adobeのようなライセンス重視のアプローチ、Coca-Colaの実験的な姿勢、Mattelの価値観重視の開発、そしてアーティストによる主体的な技術活用など、多様な実践例が示されました。今後、企業がAIを「人間の代替」ではなく「能力の拡張」として位置づけられるかが、持続可能な活用の鍵になると思います。

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