はじめに
AI技術が急速に進化し、多くの産業でその活用が模索される中、それを支えるコンピューティングインフラの重要性はますます高まっています。本稿では、ロイターが報じたDell Technologies (デル・テクノロジーズ)によるNVIDIA (エヌビディア) 製の最新チップを搭載した新型AIサーバーの発表について解説します。
引用元記事
- タイトル: Dell unveils new AI servers powered by Nvidia chips to boost enterprise adoption
- 発行元: Reuters
- 発行日: 2025年5月19日
- URL: https://www.reuters.com/business/dell-unveils-new-ai-servers-powered-by-nvidia-chips-boost-enterprise-adoption-2025-05-19/
要点
- デル・テクノロジーズが、NVIDIAの最新AIチップ「Blackwell Ultra」を搭載した新型AIサーバーを発表した。
- これらのサーバーは、AIモデルのトレーニング時間を従来モデルと比較して最大4倍高速化する能力を持つ。
- サーバーは空冷式と液冷式の両方のバリエーションがあり、標準で最大192個、カスタマイズにより最大256個のNvidia Blackwell Ultraチップを搭載可能である。
- デルは、AIサーバー市場の競争激化とコスト増に対応するため、ネットワーク製品やストレージ製品の販売を強化し、収益性の確保を目指す方針である。
- 将来的には、NVIDIAの次期CPU「Vera」およびBlackwellシリーズの後継となる「Vera Rubin」チップもサポートする計画である。
- AI開発者向けに、デバイス上で大規模AIモデルを処理できるNPU (Neural Processing Unit) を搭載したノートPC「Pro Max Plus」も同時に発表された。
詳細解説
AI技術の進化と高性能サーバーへの需要
近年、ChatGPTのような生成AIをはじめとするAI技術は目覚ましい発展を遂げており、ビジネスや研究開発の現場での活用が急速に進んでいます。しかし、これらの高度なAIモデルを開発・運用するためには、膨大な計算処理能力を持つ専用のハードウェア、特にAIサーバーが不可欠です。AIサーバーは、大量のデータを高速に処理し、複雑な計算を行うために最適化されており、その中核を担うのがGPU (Graphics Processing Unit) などのAIアクセラレータです。
Dellの新型AIサーバー:その技術的特徴
今回デルが発表した新型AIサーバーは、AIチップ市場をリードするNVIDIAの最新世代アーキテクチャ「Blackwell」を採用した「Blackwell Ultra」チップを搭載しています。このBlackwellアーキテクチャは、前世代に比べてAIのトレーニング性能や推論性能を大幅に向上させることを目的として設計されています。
- 処理能力の向上: デルによると、この新型サーバーはAIモデルのトレーニングを従来モデルの最大4倍の速さで行うことができます。これは、より複雑で大規模なAIモデルの開発期間を大幅に短縮し、イノベーションを加速させる可能性を秘めています。例えば、数週間かかっていた学習プロセスが数日で完了するようになれば、試行錯誤のサイクルを速め、より高性能なAIを早期に実用化できるようになります。
- 柔軟な冷却システムと拡張性: 高性能なチップは大量の熱を発生させるため、冷却が非常に重要です。デルの新型サーバーは、従来の空冷式に加え、より効率的な冷却が可能な液冷式のバリエーションも提供します。これにより、高密度なチップ実装時でも安定した動作を確保します。
さらに、標準構成で最大192個のNvidia Blackwell Ultraチップをサポートし、顧客の要求に応じて最大256個までカスタマイズ可能という高い拡張性も備えています。これは、極めて大規模なAIワークロードにも対応できる能力を示しており、企業のAI導入規模の拡大に柔軟に対応できます。 - 将来のNVIDIA技術への対応: デルは、今回のサーバーがNVIDIAの次期サーバーCPUである「Vera」(現行のGraceサーバープロセッサの後継)や、さらにその先のBlackwellシリーズの後継となる「Vera Rubin」チップもサポートする計画であることを明らかにしています。これは、企業が長期的な視点でAIインフラ投資を行う上で、将来の技術進化にも対応できる安心感を提供します。
市場動向とデルの戦略
AIサーバー市場は、AI技術の普及とともに急成長しており、デルやSuper Micro Computer (スーパーマイクロコンピュータ) といった企業がその恩恵を受けています。しかし、高性能なシステムを製造するためのコストは高く、また市場競争も激化しているため、利益率の確保が課題となっています。ロイターの記事によれば、デルは2026年度の調整後売上総利益率の低下を予測しており、スーパーマイクロも関税に起因する経済の不確実性から第4四半期の収益予測が市場予想を下回ったとされています。
このような状況下で、デルのインフラストラクチャ・ソリューションズ・グループのプレジデントであるアーサー・ルイス氏は、「適切なレベルの収益性を確保するために、ネットワーク製品とストレージ製品の販売に注力する」と述べています。AIシステムは、計算処理能力だけでなく、大量の学習データを高速に供給するためのストレージや、サーバー間でデータを効率的にやり取りするためのネットワーク性能も極めて重要です。デルはこれらの周辺技術を含めたトータルソリューションを提供することで、競争力を高めようとしています。
AI開発者向けノートPC「Pro Max Plus」
サーバー製品に加えて、デルはAI開発者向けのノートPC「Pro Max Plus」も発表しました。このノートPCは、NPU (Neural Processing Unit) を搭載している点が特徴です。NPUはAI処理に特化したプロセッサであり、これにより開発者はクラウドサービスに頼ることなく、自身のデバイス上で直接、大規模なAIモデルを処理できるようになります。ローカル環境でのAI開発やテストがより手軽かつ迅速に行えるようになり、開発効率の向上が期待されます。
まとめ
今回デルが発表したNVIDIA Blackwell Ultraチップ搭載の新型AIサーバーは、AIモデルのトレーニング速度を飛躍的に向上させ、企業のAI導入とイノベーションを強力に後押しするものです。空冷・液冷対応や高い拡張性、将来のNVIDIA技術への対応など、技術的な先進性も注目されます。
AI技術の進化は止まることなく続いており、それを支えるインフラの役割はますます重要になっています。デルの今回の発表は、AI時代におけるコンピューティングの未来を示す一つのマイルストーンと言えるでしょう。日本の産業界や研究機関においても、このような最新技術動向を注視し、自社の競争力強化や新たな価値創造にどう活かせるかを検討していくことが求められます。