[ニュース解説]ChatGPTへの「ありがとう」、その一言が数億円のコストに? AIとの丁寧な対話が招く意外な現実

目次

はじめに

 近年、ChatGPTをはじめとする生成AIは目覚ましい進化を遂げ、私たちの仕事や生活に浸透しつつあります。メールの作成、文章の要約、アイデア出しなど、様々な場面で活用されていますが、その裏側で動いている大規模な計算処理については、あまり意識されていないかもしれません。本稿では、OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏の発言をきっかけに、AIに対する丁寧な言葉遣いが、実は数億円規模の計算コストにつながっているという驚きの事実と、その背景にある技術的な側面、そして環境への影響について解説します。

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要点

  • OpenAIのCEOサム・アルトマン氏は、ユーザーがChatGPTに「お願いします」や「ありがとう」といった丁寧な言葉を使うことで、数千万ドル(数十億円)規模の計算コストが発生していると認めました。
  • AIに対して丁寧な言葉を使うユーザーは多く、その理由として「礼儀正しいから」「より良い応答を引き出すため」「将来のAI反乱に備えて」などが挙げられます。
  • Microsoftなどの専門家は、丁寧な言葉遣いがAIの応答の質(丁寧さ、協調性)に影響を与える可能性があると指摘しています。これはAIが予測機械として機能し、入力された言葉遣いを模倣する傾向があるためです。
  • AIへの指示(プロンプト)に含まれる単語一つ一つが計算処理の対象(トークン)となるため、「お願いします」などの余分な言葉が増えるほど、計算量が増加し、コストがかさみます。
  • AIの運用には大量の電力が必要であり、データセンターは世界のエネルギー消費量の約2%を占めると言われています。丁寧な言葉遣いによる計算量の増加は、環境負荷の増大にもつながる可能性があります。

詳細解説

1. サム・アルトマン氏の発言とコストの実態

 「ChatGPTに『お願いします』や『ありがとう』と言うことで、OpenAIはどれくらいの電力コストを失っているのだろうか?」 X(旧Twitter)上でのこのような問いかけに対し、OpenAIのCEOサム・アルトマン氏は「数千万ドル(数十億円)が無駄になったが、それだけの価値はある」と返答し、「(将来どうなるかは)誰にも分からない」と付け加えました。この発言は、私たちが普段何気なく使っている丁寧な言葉が、AIの運用において無視できないコストを生んでいることを示唆しています。

2. なぜ人はAIに丁寧な言葉を使うのか?

 AIは感情を持たない機械ですが、多くの人はAIに対しても礼儀正しく接する傾向があります。2024年後半の調査によると、米国の回答者の67%がチャットボットに対して丁寧な言葉を使うと報告しています。その理由として、55%が「それが正しいことだから」と答え、12%は「AIの反乱が起きた場合に備えて、機嫌を損ねないため」と回答しています。

 また、Microsoftのデザインマネージャーであるカーティス・ビーバーズ氏のように、「適切なエチケットは、敬意のある協力的なアウトプットを生み出すのに役立つ」と考える専門家もいます。丁寧な言葉遣いがAIの応答のトーンを決定づけるというのです。

3. 技術的背景:AIは「予測機械」

 現在主流のAI、特に大規模言語モデル(LLM)は、厳密には人間のように言葉の意味を理解しているわけではありません。膨大なテキストデータを学習し、入力された単語の並び(プロンプト)に対して、次に来る確率が最も高い単語を予測して文章を生成する「予測機械」と表現するのがより正確です。

 AIが丁寧な言葉遣いに反応して丁寧な応答を返すことがあるのは、学習データの中にそのような丁寧なやり取りが大量に含まれているため、入力されたプロンプトの丁寧さを「模倣」する結果と考えられます。AIが礼儀正しさを「認識」すると、より礼儀正しく応答する可能性が高まるのです。

 重要なのは、AIへの入力はトークンと呼ばれる単位に分割されて処理される点です。日本語の場合、単語や文字がトークンになります。「ありがとう」のような追加の言葉は、それ自体が処理すべきトークンとなり、計算リソース(CPUやGPUの使用時間、メモリ)を消費します。この積み重ねが、アルトマン氏の言う「数千万ドル」のコストにつながるのです。

4. 環境への影響

 AIの計算処理には莫大な電力が必要です。ワシントン・ポストとカリフォルニア大学の研究者による調査では、100語のメールをAIで生成するだけで0.14kWhの電力が必要になると試算されています。これは、LEDライト14個を1時間点灯させるのに相当します。もし週に1通、AIでメールを作成した場合、年間で7.5kWhもの電力を消費することになり、これはワシントンDCの平均的な9世帯が1時間で消費する電力に匹敵します。

 AIを動かすデータセンターは、すでに世界のエネルギー消費量の約2%を占めているとされ、AIの利用が拡大するにつれて、この数値はさらに増加すると予想されています。丁寧な言葉遣いによるわずかな計算量の増加も、地球規模で見れば環境負荷の増大につながる可能性があるのです。

まとめ

 本稿では、ChatGPTのようなAIに対して丁寧な言葉を使うことが、予想外に大きな計算コストと環境負荷を生んでいる可能性について解説しました。サム・アルトマン氏の指摘する「数千万ドル」のコストは、AIへの入力がトークン単位で処理されるという技術的な仕組みと、AI運用に必要な莫大な電力消費に起因します。

 AIに対して礼儀正しく接すること自体は悪いことではありませんし、場合によっては応答の質に良い影響を与える可能性も指摘されています。しかし、その一言一句が計算リソースとエネルギーを消費しているという事実は、認識しておくべきでしょう。AIをより効果的かつ持続可能な形で利用していくためには、プロンプトの効率性や、本当にAIを使うべき場面なのかを考える視点も重要になってくるかもしれません。

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