[ニュース解説]上海協力機構(SCO)サミットで示された中国の新たな世界戦略:AI協力推進と「冷戦思考」への反発

目次

はじめに

 2025年9月1日に中国の天津で開催された上海協力機構(SCO)首脳会議は、国際政治の新たな潮流を読み解く上で非常に重要な会合となりました。中国の習近平国家主席は、人工知能(AI)分野での協力を呼びかける一方で、米国などを念頭に置いた「冷戦思考」を明確に拒否する姿勢を示しました。本稿では、このサミットが持つ意味と、今後の国際秩序に与える影響について、AIの影響を踏まえて解説します。

参考記事

要点

  • 中国の習近平国家主席は、上海協力機構(SCO)サミットにおいて、加盟国間のAI(人工知能)分野における協力を強化するよう呼びかけた。
  • 同時に、特定の国々によるブロック政治や対立を煽る「冷戦思考」を拒否し、米国主導の国際秩序に対抗する姿勢を鮮明にした。
  • 中国は、米中間の貿易摩擦やウクライナ情勢が続く中、自らを「世界的な平和の仲介者」として位置づけようとする外交戦略を展開している。
  • 長年対立してきたインドとの関係改善の動きが見られ、これは非西側諸国の連携を強化し、多極化する世界秩序の中で中国の影響力をさらに高める可能性がある。

詳細解説

そもそも上海協力機構(SCO)とは?

 まず前提知識として、上海協力機構(SCO: Shanghai Cooperation Organisation)について理解しておくことが重要です。SCOは、中国、ロシア、インド、パキスタン、そしてカザフスタンなど中央アジアの国々が加盟する、ユーラシア大陸の広範な地域をカバーする政治・経済・安全保障の枠組みです。2001年に設立され、当初はテロ対策や国境地域の安定化を主な目的としていましたが、現在では米国主導の国際秩序に対抗し、加盟国間の経済的・政治的な連携を深めるプラットフォームとしての性格を強めています。西側諸国の価値観とは異なる、独自の地域秩序を形成しようとする動きとして注目されています。

習主席の演説の核心:「AI協力」と「冷戦思考の拒否」

 今回のサミットで、習近平主席は加盟国に対してAI分野での協力を強く呼びかけました。これは単なる技術協力の呼びかけに留まりません。AIは今後の経済や安全保障の根幹をなす重要技術であり、この分野でSCO加盟国が連携することで、西側諸国に対抗しうる独自の技術標準やサプライチェーンを構築する狙いがあると考えられます。

 また、習主席が言及した「冷戦思考の拒否」という言葉は、名指しは避けながらも、米国が同盟国と連携して中国やロシアを封じ込めようとする動き(例えば、日米豪印の枠組みである「Quad」など)を批判するものです。対立ではなく対話と協力を通じて国際関係を築くべきだと主張し、SCOをその中心的な舞台にしようとしています。

中国が目指す「世界的な平和の仲介者」としての役割

 CNBCによると、今回の会議は米中間の貿易摩擦、ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエル・ハマス紛争といった世界的な緊張が続く中で開催されました。このような状況下で、中国は自らを「世界的な平和の仲介者」として積極的にアピールしています。例えば、サウジアラビアとイランの国交正常化を仲介した実績を背景に、ウクライナ問題においても、ロシアとの良好な関係を活かして何らかの役割を果たせると主張しています。これは、武力や制裁を多用する米国とは違うアプローチで国際問題の解決に貢献できると世界に示すことで、国際社会における中国のリーダーシップを確立しようとする戦略の一環です。

注目される中印関係の雪解け

 今回のサミットで特に注目されたのが、習主席とインドのモディ首相が会談し、両国関係の安定化を確認した点です。中国とインドは国境問題を巡って長年対立してきましたが、ここに来て関係改善の兆しが見えています。

 アナリストは、この動きが「非常に重要(a big deal)」だと指摘しています。なぜなら、インドは米国のインド太平洋戦略における重要なパートナーであり、そのインドが中国との協力を深めることは、米国主導の対中包囲網を揺るがす可能性があるからです。中印関係の安定は、SCO全体の結束力を高め、非西側諸国が連携する「多極化した世界」の到来をさらに加速させるかもしれません。

まとめ

 今回の上海協力機構(SCO)首脳会議は、単なる地域的な会合ではなく、中国が将来の国際秩序をどのように構想しているかを明確に示した場でした。習近平主席の演説から読み取れるのは、AIなどの先端技術協力をテコにして非西側諸国の連携を強化し、米国主導の「冷戦思考」的なアプローチに対抗していくという強い意志です。特に、インドとの関係改善は、今後の地政学的なバランスを大きく変える可能性があります。

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