[ニュース解説]ChatGPTは創造性の味方か、限界か?最新研究が示すAIの「アイデア多様性」という課題

目次

はじめに

 AIは私たちの仕事や創作活動において強力なツールとなりつつありますが、その能力にはどのような特性や限界があるのでしょうか。本稿では、特にChatGPTの「創造性」に関して、米Axiosが2025年6月18日に公開した「Study: ChatGPT’s creativity gap」という記事を基に、ペンシルベニア大学ウォートン・スクールなどの研究者グループが科学誌『Nature Human Behaviour』で発表した研究内容を、解説していきます。

引用元記事

要点

  • AIは人間よりも多くのアイデアを短時間で生成できるが、そのアイデアの多様性は人間によるものよりも低い傾向がある。
  • 研究によれば、ChatGPTのみを利用してアイデア出しを行った場合、参加者が生成したアイデアの実に94%が重複したコンセプトを共有しており、アイデアが非常に似通ってしまう。
  • 対照的に、人間が自身の思考とウェブ検索を組み合わせてアイデア出しを行う方が、よりユニークで多様なコンセプトを生み出すことができる。
  • AIの創造性を最大限に活用するためには、AIに「互いに異なるアイデアを出す」よう明確に指示する「連鎖的思考プロンプト」のような工夫や、人間自身の思考と組み合わせるハイブリッドなアプローチが重要である。

詳細解説

生成AIはどのように「アイデア」を生み出すのか?

 まず、ChatGPTのような生成AIがどのようにして文章やアイデアを作り出すのかを簡単に理解しておくことが重要です。生成AIは、インターネット上の膨大なテキストデータを学習しています。そして、ある単語や文章に続く確率が最も高い言葉を予測し、繋ぎ合わせていくことで、もっともらしい文章を生成します。

 この仕組みは、平均的で質の高い文章を高速で作り出すのには、非常に長けています。しかし、その反面、学習データの中に頻繁には現れないような、突飛で全く新しい「外れ値」のようなアイデアを生み出すことは本質的に苦手です。今回の研究は、この生成AIの特性が「創造性」のどのような側面に影響を与えるのかを明らかにしました。

ウォートン・スクールの研究が示した「創造性のギャGAP」

 本稿で紹介する研究は、世界的に著名なビジネススクールであるウォートン・スクールの教授らによって行われ、権威ある科学誌『Nature Human Behaviour』に掲載されました。

 研究チームは、参加者に「レンガとファンを使ったおもちゃ」というテーマで、新しい製品のアイデアをブレインストーミングしてもらいました。その際、参加者を以下の3つのグループに分けました。

  1. ChatGPTだけを使ってアイデアを出すグループ
  2. 自分自身のアイデアだけで考えるグループ
  3. 自分自身のアイデアとウェブ検索を組み合わせて考えるグループ

 結果は非常に興味深いものでした。ChatGPTを使ったグループは、他のグループよりも多くのアイデアを生み出しました。しかし、そのアイデアの実に94%が、重複するコンセプトを共有していたのです。つまり、アイデアの「量」は多いものの、中身は非常に似通っていました。記事で挙げられている象徴的な例として、9人もの参加者が、それぞれ独立してChatGPTを使っていたにもかかわらず、「Build-a-Breeze Castle(そよ風のお城を建てよう)」という全く同じ製品名を考案したといいます。

 一方で、最もユニークで多様なアイデアを生み出したのは、「自分自身のアイデアとウェブ検索を組み合わせた」グループでした。この結果は、AIが生み出すアイデアの多様性には限界があることを明確に示しています。

なぜアイデアの「多様性」が重要なのか?

 研究者は、アイデアの多様性の重要性を「生物学的な生態系の多様性」に例えています。様々な種が存在する生態系が健全であるように、ビジネスやイノベーションの世界でも、互いに異なる多様なアイデアがぶつかり合うことで、これまでにない革新的なものが生まれます。

 もし、チーム全員がAIを使って同じようなアイデアばかりを提案するようになれば、組織全体の創造性はかえって低下してしまう危険性があります。AIは便利なツールですが、その出力に頼りすぎると、思考が画一化してしまう「落とし穴」があるのです。

AIを真の創造的パートナーにするための処方箋

 では、私たちはAIを創造的な活動にどのように活かしていけばよいのでしょうか。記事と研究は、AIを使いこなし、その限界を補うための具体的な方法を提示しています。

 最も重要なのは、AIにただ漠然とアイデアを求めるのではなく、出力の「多様性」を意識的に引き出すことです。そのためのテクニックとして、「連鎖的思考プロンプト(Chain of Thought Prompting)」が推奨されています。これは、単に「アイデアを5つ教えて」と指示するのではなく、以下のように、より具体的で多様性を促す指示を与える手法です。

「アイデアを1つ生成してください。次に、そのアイデアとは全く異なる視点から、2つ目のアイデアを生成してください。さらに、コスト構造が全く異なる3つ目のアイデアを提案してください。」

 このように、AIに対して「異なる制約」を課しながら連続してアイデアを出させることで、AIが生成するアイデアの幅を広げることができるのです。

 そして、AIの出力と、あなた自身のユニークな発想や経験、そしてチームメンバーとの議論を組み合わせること。これこそが、AI時代の創造性を最大限に高めるための鍵となります。

まとめ

 本稿では、Axiosの記事を基に、ChatGPTの創造性に関する最新の研究を紹介しました。AIはアイデアの「量」を飛躍的に増大させる強力なツールですが、そのアイデアは似通ってしまう傾向があり、「多様性」という点では人間に及ばないという課題が明らかになりました。

 しかし、これはAIが創造の役立たないということではありません。重要なのは、私たちがAIの特性を正しく理解し、その限界を認識した上で、賢く使いこなすことです。AIに多様な出力を促すプロンプトを工夫し、人間ならではの独創的な思考と組み合わせるハイブリッドなアプローチを取ること。このスキルこそが、これからの時代に求められる新しい創造性の形と言えるでしょう。

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