はじめに
ロイターが2025年11月30日に報じた内容によれば、米国のブラックフライデーにおけるオンライン販売額が過去最高の118億ドルに達し、AI搭載のショッピングツールが消費者の購買行動に大きな影響を与えました。本稿では、この報道をもとに、AI技術が小売業界にもたらしている変化と、今後の展望について解説します。
参考記事
- タイトル: AI helps drive record $11.8 billion in Black Friday online spending
- 著者: Chandni Shah and Siddharth Cavale
- 発行元: Reuters
- 発行日: 2025年11月30日
- URL: https://www.reuters.com/business/retail-consumer/us-consumers-spent-118-billion-black-friday-says-adobe-analytics-2025-11-29/
要点
- 米国のブラックフライデーにおけるオンライン販売額は118億ドルで、前年比9.1%増を記録した
- AI搭載ツールへのアクセスが前年比805%増加し、消費者の価格比較や割引検索を支援した
- グローバルでは、AIエージェントが142億ドル相当のオンライン販売に影響を与えた
- 物理店舗への客足は低調で、オンライン販売の成長率10.4%に対して実店舗は1.7%にとどまった
- サイバーマンデーは142億ドルの販売が見込まれ、年間最大のオンラインショッピング日となる予測である
詳細解説
ブラックフライデーのオンライン販売が過去最高を記録
Adobe Analyticsによれば、2025年のブラックフライデーにおける米国のオンライン販売額は118億ドルに達し、前年比9.1%の成長を記録しました。Adobe Analyticsは、オンライン小売サイトへの1兆回の訪問データを追跡しており、この数値は同社の分析に基づくものです。
Adobe Analyticsは、小売業界で広く参照される市場調査データを提供する企業で、オンライン消費動向の分析において信頼性の高い情報源と考えられます。同社のデータは、実際の取引データに基づいているため、消費者の行動を正確に把握する上で有用です。
Mastercard SpendingPulseのデータでは、ブラックフライデーのEC販売が10.4%成長したのに対し、実店舗の販売成長率は1.7%にとどまりました。この傾向は、消費者がオンラインショッピングを選好する流れが加速していることを示していると思います。
AIツールが消費者の購買プロセスを効率化
ロイターによれば、AI搭載ツールへのアクセスが前年比805%増加しました。これは、WalmartのSparkyやAmazonのRufusといったAIチャットボットが、2024年にはまだ広く展開されていなかったことが背景にあります。
eMarketerのアナリストであるSuzy Davidkhanianは、「消費者は新しいツールを使って、必要なものにより早くたどり着いている」と述べており、LLM(大規模言語モデル)がギフト選びのストレスを軽減し、発見プロセスをより迅速かつガイド付きにしていると説明しています。
LLMにより、従来のキーワード検索と異なり、消費者の意図を理解して適切な商品を提案できるため、購買体験の質を向上させる可能性があります。
ブラックフライデーの人気商品には、LEGOセット、ポケモンカード、Nintendo SwitchやPlayStation 5などのゲーム機、Apple AirPods、KitchenAidミキサーなどが含まれました。
グローバルでのAI影響範囲と売上内訳
Salesforceによれば、グローバルでAIおよびエージェントが影響を与えたオンライン販売額は142億ドルで、そのうち米国だけで30億ドルを占めました。Salesforceのデータには、食料品などの非裁量的商品も含まれており、同社は米国のブラックフライデーオンライン支出を180億ドル(前年比3%増)と報告しています。
Salesforceは顧客関係管理(CRM)ソフトウェアを提供する企業で、多くの小売企業がSalesforceのプラットフォームを利用しているため、同社のデータは幅広い業種をカバーしていると考えられます。Adobe Analyticsとの数値の違いは、集計対象や方法論の違いによるものと思います。
特に人気が高かったカテゴリーは、高級アパレルとアクセサリーでした。これは、後述する高所得層の購買力が顕著であったことと関連していると思います。
価格上昇と割引率の現状
Salesforceによれば、米国の消費者は前年よりも多く支出しましたが、価格上昇がオンライン需要を抑制し、チェックアウト時の購入点数が前年比で減少しました。注文数量は1%減少した一方、平均販売価格は7%上昇しました。また、1回の取引あたりの購入点数は前年比2%減少しています。
割引率は2024年と比較してほぼ横ばいでした。AIが消費者の最良の取引発見を支援したことと、価格タグの上昇により小売業者が深い割引を提供することが困難になったことが要因として挙げられています。
eMarketerのDavidkhanianは、関税とインフレによる製品コストの上昇により、プロモーションや割引が昨年ほど大きく感じられず、最終価格が消費者にとって魅力的に見えないと指摘しています。Running PointのチーフインベストメントオフィサーであるMichael Ashley Schulmanも、価格上昇と横ばいの割引率の組み合わせにより、ブラックフライデーのバーゲンの実質的価値が消費者にとって低下していると述べています。
関税は、輸入品に課される税金で、国内産業保護や財政収入確保を目的として導入されます。米国では近年、特定の国からの輸入品に対する関税率が引き上げられており、これが小売価格の上昇要因となっていると考えられます。
高所得層の購買力が目立つ結果に
SalesforceのカイラSchwartz氏(消費者インサイトディレクター)は、米国で平均販売価格を押し上げている要因として2つを挙げています。第一に関税の影響、特に裁量的カテゴリーでの販売価格の大幅な成長です。第二に、平均所得層よりも高所得層の購買力が顕著であることで、これは高級カテゴリーの強さから明らかになっています。
裁量的カテゴリーとは、生活必需品ではなく、消費者の選択で購入する商品カテゴリーを指します。高級アパレルやエレクトロニクスなどが含まれ、関税の影響を受けやすい輸入品が多いため、価格上昇が顕著になっていると思います。
この傾向は、経済的不確実性の中で、高所得層が引き続き消費を牽引している一方、平均的な所得層の購買力が抑制されている可能性を示唆していると考えられます。
サイバーマンデーへの期待と実店舗の現状
Adobeによれば、この支出急増により、さらに大規模なサイバーマンデーへの道が開かれ、前年比6.3%増の142億ドルの販売が見込まれており、年間最大のオンラインショッピング日になると予測されています。サイバーマンデーでは、エレクトロニクスが最も深い割引(定価の30%オフ)を受けることが期待され、アパレルやコンピュータにも強力な取引が見込まれています。
一方、実店舗では、ブラックフライデーのバーゲンハンティングは比較的低調でした。一部の買い物客は、持続的なインフレ、貿易政策の不確実性、軟調な労働市場の中で、過剰な支出を恐れていると述べています。
米国の失業率は4年ぶりの高水準に近づいており、消費者信頼感は7カ月ぶりの低水準に落ち込んでいます。こうした経済指標は、消費者がより慎重な購買姿勢を取る背景となっていると思います。
まとめ
2025年のブラックフライデーは、AI搭載ショッピングツールの普及により、オンライン販売が大きく成長しました。一方で、価格上昇と横ばいの割引率により、消費者が実際に得られる価値は低下している可能性があります。サイバーマンデーに向けて、AIツールがさらにどのような役割を果たすのか、注目されるところです。
